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7 フレイヤ、加護について考える

ランドールのスパイとしての日々が始まった。

表向きは土の国の書類を精査する文官として雇われたフレイヤは、専用の小部屋をもらった。

正確にはフレイヤの部屋というわけではなく、担当する国ごとに辞書や歴史書を置いている部屋があって、そこで作業できるのだ。

土の国は今のところ、あまり仕事がない。

他の国の担当は2名以上いるが、土の国はフレイヤだけということになっているので、部屋を自由に使えるのだ。

実際の仕事はランドールの子飼いの文官が行うらしい。

1人なので、変装もここで出来て都合が良い。

今のフレイヤは髪を染め、フルールと同じように装っている。

ランドールは本当にそっくりだと感心していた。

「それで、具体的に何をしたらよいのでしょう」

「スパイのあぶり出しだな」

「スパイ」

「今、この国は木の国と水の国が水面下で争っているのだ」

それは初耳だった。

「なので、俺は美女を口説くふりをして噂話を仕入れている」

「あのちゃらちゃらしたのは演技なのですか」

「演技だな」

言い切られたが信憑性はない。

ランドールが説明するには、水の国との国境沿いにあるアルム地方が圧力をかけられているらしい。

アルム地方はもともと水の国だったので、定期的に主張してくるのだ。

しかし実際に攻め込むには状況が悪い。

水の国は日の国だけでなく木の国とも接しているので、王家は、水の国を意識して、木の国と交流を深めているのだ。

具体的にはユリアーナを木の国に嫁に出す案が出ている。

しかし、加護のある王女を国外に出すのはよくないという意見もあって、そちらは逆に水の国の王子を婿に入れ、水の国との融和を図ろうとしているという。

「どっちがいいんでしょうね」

「わからん」

やってみないとどちらに転ぶかは不明だということだ。

「でも、加護を持った方が他国に行かれるのも良くないのかも」

フレイヤ自身は精霊王の加護を信じている。実際に助けてもらったという事実がある。精霊王の加護は、世間一般で思われているよりも強い力なのかもしれないのだ。

「そもそも、ユリアーナに加護がないという意見もある」

加護が無いなら国外に嫁に出すという意見のほうが強くなる。

「ユリアーナには徴がない」

加護を持つ者はその身体に精霊王の紋が浮かぶ。

確かに、フレイヤもユリアーナの着替えの手伝いをしたりしていたが、はっきりわかる紋はなかった。

「しかし、徴というのは常に見えているものでもないらしく、必要に応じて浮かぶものだと言われている。それに、他の兆候が出ている、と」

紋は生まれた時からあるというものでもないらしいし、たまにしか浮かばない。

「他の兆候ってなんですか」

「俺は知らん」

ユリアーナについては、加護を持っていた前国王陛下の妹君が『可能性がある』と判断し、それで『加護があるらしい』と思われているのだそうだ。

「そこをはっきりさせたがっている者はいる」

「ああ、それで」

フレイヤはフルールが王女宮に高価な贈り物が届いていたと話していたことを思い出した。

「皆様、イレニ夫人に付け届けをしたりするのですね」

乳母であるイレニ夫人を味方につければ、その辺の情報は取りやすいだろう。

加護が浮かんだ瞬間に目撃するのは身の回りの世話をしている者達だ。

「イレニ夫人は何を貰っているんだ」

「化粧品なんかですよ」

「どこから」

「木の国の使者だったかと」

「それは妹が目撃したのか」

「ええまあ」

「先日、リタに聞いたら、怪しいものはいないという話だったのに」

リタはユリアーナの侍女で衣装や小物の管理をしている。

デュアルフ姉妹よりはいい家の出でお洒落に詳しい。本人も華やかな美貌の持ち主だ。

「怪しくなかったんじゃないですか」

イレニ夫人のようなポジションにいれば、そういった贈り物はたくさん届く。フレイヤがいたころもいろいろもらっていたと思うし、はそれをいちいち誰から来ているとか気にしたことはなかった。怪しいと思ったこともなかった。それはリタも同じだろう。

「他国からもらうのはよくない。そもそも立場を利用して物を貰うのは禁止だ」

「ちょっとしたプレゼントですよ」

菓子や花など、よく行き交っている。

「木の国の化粧品となると、そうも言っていられないほど高価なものもあるがな」

リタよりももう少し目端の利く女がいいとランドールは言う。

「おまえの妹は合格だ」

「勝手に合格にしないでください」

「ならば、おまえが手柄をあげろ」

そうして、フレイヤの女官という名のスパイ活動が始まった。

フルールのふりをして王族の私室エリアに潜入する。

フレイヤの変装は完璧で、仕事で挨拶を交わすくらいの人間にはまず見分けられない。

「ちゃんと見られていなかったのねえ」

それを聞いたフルールは残念そうに言った。

「親しい人には接触していないもの。喋ったらわかるんじゃないの?」

「そうね。どこまでバレないか試してほしい気もするけど」

「危ないことはしないわ」

フレイヤは宣言した。そこは譲れない。

フルールだって、このようなことに加担していると侍女仲間にバレるのはこまるだろう。

慎重にならないといけない。

前回、フレイヤはスパイの疑いを掛けられてしまったが、

証拠が出てきたということは、フレイヤに罪を被せようとしていた人間が身近にいたのだ。

今、この瞬間も、自分たちが思っているより、はるかに危険かもしれないのだ。


ランドールは簡単に他国のスパイを探すと言うが、雲をつかむような話だ。

フレイヤはイレニ夫人に近づく人間をチェックすることから始めた。

これが思いのほか多岐にわたる。

本人がいかにもお上品な優しい貴族女性なので警戒されにくいが、ユリアーナの乳母というのは、その気になれば強い権力を振るうことができる立場なのだ。

縁談をまとめるにしても、ユリアーナ本人に影響を及ぼすことができる。

そんなイレニ夫人には会いたがる人間が多い。

まずは、誰と会ったかだけ記録に取る。

それだけではやることが少ないので、他に何かできることをと思うが、これがなかなかない。

ランドールは加護を気にするが、そこを突き止めるのは難しい。

フレイヤとフルールは機会を見つけてユリアーナの着替えに目を配っていたが、こちらは特に進展はなかった。

「たまにしか浮かばないんじゃ、私たちなんて見ることはないわよね」

「むしろ、他の徴候をチェックしたほうがいいんじゃないの」

フルールが言う。

しかし、他にどんなことがあるのかはランドールも知らなかった。

だが、フルールは知っているという。

「聞いたんだけど、夢を見るんですって」

「夢」

フレイヤは夜はぐっすりと眠る。

夢など見たこともない。が、見る人もいることは知っている。

「精霊王の加護を持つ人は、精霊王の御神託を受けることができるんですって」

フルールは真顔で言った。

冗談ではないらしい。

「夢でお告げがあると?」

「あったらしいの」

精霊王の加護を持つ前国王の妹であった公爵夫人は夢でお告げを見たのだという。

主に天災であったりするが、彼女が預言したことはことごとく当たったらしい。

そのたびに、王家は備えてきたのだそうだ。

「それは誰が言ってたの」

「イレニ夫人がヴィアーナに」

ヴィアーナは古参の侍女だ。

「ヴィアーナは朝、ユリアーナ様を起こすお役目だから、夢を見たかどうかチェックしてるって」

「ユリアーナ様も、その、予知夢、を見るの?」

「子供の頃に、変な夢を見てうなされていたんですって。子供なので、内容を表現できなくて」

それで、予知夢を見ているのではないかと推察されているというわけか。

「今はきちんと予知夢を説明できているの?」

「最近は夢自体を見てないみたい」

「見てないって」

それでは加護があるとは言えないのではないか。

フレイヤの疑問は顔に出ていたらしい。

「そんなにしょっちゅう見るものではないんじゃない」

「でも、私の覚えている限りは今年と来年と大規模な不作になるんだよね」

備えなければならないはずだ。

フルールもよくわからないようで首を傾げた。

どういう仕組みかわからないのだからしょうがない。

「でも、だったら、レイがなんとかしないといけないのかも」

「私?」

「そう。レイは夢は見ないの?」

「何故?」

「だって、死んだときに精霊王を見たのよね。レイにも加護があるんじゃないかしら」

正直に言えば、フレイヤは自分が過去に戻ったこと自体が夢ではないのかと思うほどに現実感が無い。

ただ、巻き戻る前に体験したことと同じことが起こる。

フレイヤが行動すれば現実が変わっていくが、フレイヤが接しなかった人々は体験した世界をなぞるように同じ行動を起こす。

先日も、王妃が別荘を整備して盛大なパーティーを開いた。

その時に、まだ誰も見たことのない斬新な会場のセッティングや衣装、外国風の食べ物が出てきたが

フレイヤはそれらを全て当てることが出来た。

だから事実だと思う。

しかし、実感が無くて不安でもある。

「夢は見ないわ」

いっそ精霊王が夢に出てきてアドバイスをくれればわかりやすいのに。

「どうして精霊王は私を助けてくれたのかしら」

あれは確かに、命を救ってくれたのだと思う。

加護を持っていたわけでもない、そんなにいい家の貴族でもないフレイヤを。

「無実の人間が殺されるのをよく思わなかったとか?」

フルールが言った。

「だって、夢で信託をくれたりして国を導いてくれるのでしょう?」

フルールは精霊に憧れているので見方が好意的だ。

「でも、そんなにしょっちゅう見るものでもないみたいじゃない」

ランバートは加護を持っていたとい前国王の妹である公爵夫人のことを調べていたが、その彼でも、夢で信託を受けるという話は知らなかった。

加護を持っている人間がそれで政治を動かしていたのだとすれば、王の独断で国が動くことが多くなって、その内実が広まっていくものではないだろうか。

「前の時はどうだったの?ユリアーナ様は夢を見ていた?」

「私はヴィアーナとは親しくなかったから、そういう話をしたことなかったのよね」

そもそもは秘密なのだろう。フルールが探るつもりで振ったから口を滑らせただけで、自分から話したりはしないだろうと思われる。

しかし、前回どうだったかは気になる話だった。

巻き戻る前、ユリアーナに加護があるのを疑うものはいなかった。

常識として加護持ちの姫であるということになっていたのだから、夢を見ていたのではないだろうか。

「もしかして、レイを助けちゃったから、精霊王の神通力が減っちゃったとか」

「減るものなのかな?」

「限りがあるようなものなら減るんじゃない?」

だとしたら。

ユリアーナが夢を見ないのはフレイヤのせいなのか。

精霊王に助けてもらった身としては、この国の為に何か役に立たなくてはならないのだろうか。

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