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26 フレイヤ、ブライアンの恋人に絡まれる

ダンスが終わり、ブライアンが彼女の元へ戻ったところで、彼はまた別の知り合いに声を掛けられていた。

それは男性だったので、そのまま連れていかれている。

フレイヤは相手の顔を記憶した。

知らない男だったが、後からランドールに調べてもらわなくては。

忘れないよう手帳に特徴を書き込んでいると、知れない声に呼び止められた。

ブライアンの連れの令嬢だ。

「貴女、どちらの方かしら。あまりお見かけしないようですけど」

「デュアルフ伯爵家のフレイヤです。貴女は?」

「ハンクス伯爵家のリリアンよ」

伯爵家ということは身分的にはイーブンだ。

ただ、ハンクス伯爵家は古くからの名門なので家格は高い。

リリアンは思ったよりも背が高かった。

背が高いブルネット。フレイヤの記憶を何かが刺激した。

本人ではなく、誰か似たような人を知っている。

「ミレア」

ポンと頭に浮かんだのは前世での知人の名前だった。

ユリアーナの侍女をしていた女性で、やはりきれいなブルネットだった。

「お姉さまをご存じなの?」

「ユリアーナ様にお仕えではなかったかしら」

「そうよ。筆頭侍女をしていらっしゃるの」

リリアンは誇らしげに言った。

話しているうちにどんどん記憶が戻ってくる。

ミレアは古参の侍女でイレニ夫人からも頼られている女性だった。

そうだ。確かに、ハンクス伯爵家だった。

「私の妹もユリアーナ様の侍女なの。ミレア様には良くしていただいているのよ」

「まあ、そうなのね」

繋がりを見つけたせいでリリアンの緊張は弛んだようだった。

同年代だ。共通の知り合いを探ったりして話が弾む。

世間話も一区切りのところで、リリアンが一番知りたかったであろうことを切り出してくる。

「私、最近、ブライアン様といいお付き合いをさせていただいているのだけれど。貴女のことは知らなかったわ」

何者なのかと探ってくる。

「昔、デビューした頃にご紹介されただけで、特に付き合いはないのよ」

フレイヤは安心させるように言った。ここでリリアンを敵に回してもなにもいいことはない。

「デビューのときって駄目元で誰にでも引き合わされるじゃない?」

特に家柄がいいとかのメリットのない男女はとりあえず会って売り込まないと始まらない。

親兄弟がこぞってセッティングするものなのだ。

「それっきり。今日、お会いしたのも、ものすごく久しぶりなの」

「ふうん。そうなの」

「親しくさせていただきたいとは思うけれども、うちくらいの家ではなかなか」

侯爵家とは立場が違う。そう言外に匂わせるとリリアンは安心したようだった。

「リリアン様はおうちのご紹介ですか?」

フレイヤは更に機嫌を取ってやった。

いい家同士だと婚約者候補としてきちんと引き合わされる。

「いいえ。パーティーで声をかけていただいたの」

リリアンはフレイヤよりも一つ年下だった。

去年のデビューの時に、向こうから声をかけてきてくれたのだと言う。

「あんな素敵なかた、しかも侯爵家の方が私にって、とても驚いたわ」

しかし、ブライアンは優しくリリアンをエスコートしてくれて、その後も誘ってくれた。

「美術館でね。お母様の領地の絵を拝見したの。素敵だったわ」

リリアンが頬を染めた。

「故郷の絵を見せてくれるなんて、心の深いところを見せてくれたのだと思ったの」

とても感激した。この人こそ、私の将来の伴侶だと。

幸せの絶頂のようなリリアンだったが、気になることがないでもなかった。

「ブライアン様は優しいけれど、時々、すごく遠いような気がして」

寂し気に目を伏せる。

「誰か思いを寄せる方がいるのかと思っていたのだけど」

「私ではないわね」

「そうなの。でも、あまり親しい女性がいないので」

リリアンがいれば十分ではないか。未婚の紳士があちこちで親しい女性を作っていたら問題だ。

「お仕事のことを考えておられるのではないかしら。殿方というものは恋愛のことばかり考えているわけでもないでしょう」

「だといいんだけど」

リリアンが曖昧に笑ったところで、ブライアンが戻ってきた。

また、2人でダンスを始める。

フレイヤは離れたところからそれを観察した。

ふと気づく。

リリアンは好意を隠すこともなくブライアンを見上げているが、ブライアンはそうでもない。

優し気に何かを囁いているが、熱意がない。

以前、ランドールに、ブライアンとフレイヤはどっちもやる気がないと評されたことを思い出した。

ランドール風に言えば、ブライアンにはやる気がない。

これはどういうことだろうか。

さっき、嬉しそうに話すリリアンを見ながら、フレイヤは重要なことに気が付いていた。

美術館でのデート。

母親の故郷の絵。

それはフレイヤも連れていかれたコースだ。

ブライアンには気に入った女性を美術館に連れて行く趣味だもあるのか。

女性を口説く手順として常にそうしているということであれば、あまり関心出来ることではない。

そういえば。

フレイヤにはもう一つ気になっていることがあったのだった。

前世、フレイヤが冤罪で捕まった時に、フルールが助けに現れた。

フルールはブライアンの手引きだと言っていた。

その時のフレイヤは何も知識が無かったから、さすが侯爵家ともなれば王宮にも詳しいのかと思っただけだったし

そのまま斬られて巻き戻ったので、特に気にしたこともなかった。

だが。

いくら名門の侯爵家とはいえ、王宮の構造は秘匿されているものではないか。

何故、ブライアンは抜け道などに詳しかったのか。

それは、ブライアンも反乱軍の一員として、王宮でスパイ活動をしていたからではないのか。

リリアンの姉はユリアーナの侍女だ。

もしかして、彼は、ユリアーナの侍女に近づいているのではないだろうか。


「おまえは本当に人の言うことを聞かないな」

フレイヤがブライアンとのやりとりを報告した時のランドールの第一声はそれだった。

「近づくなといっただろうが」

「でも、特になんということもなかったし」

別の女性を連れていて興味も持たれなかった。ちょっとがっかりしたというのは隠しておく。

ブライアンがユリアーナの侍女の妹と親しくしているという話はランドールの興味を引いた。

ランドールも似たような事をしていたことがあったからだ。

「ユリアーナ様の身辺を探っているのでしょうか」

「そうだろうな」

「何のために」

「そりゃあ誘拐する為だろう」

ブライアンが王弟の命でうごいているとしたら、目的は同じだ。

加護を持つと言われているユリアーナを手中に収める。

「嫌な話ですね」

なんだかんだ言ってもユリアーナはまだ子供だ。

それを親元から連れ去るなんて。

全く酷い話だと思いながらも、王弟だけが悪いとも思えない。

王弟が乱を起こしたのは義憤が元だと思われるからだ。

今後のことを知らないから仕方のないことであるが、国王陛下も王太子も事態を楽観視している。

貧しい庶民が困っていても積極的に手を打っているようには見えない。

何故、王弟が先に生まれなかったのだろう。

それを言い出すのであれば、王太子とランドールも。

マージョリーが言っていた。

火の国では兄弟の仲で一番優れたものが王になるのだと。

年齢順ではないと。

実績を上げることを考えたら年長のほうが有利ではあるが、競って勝つ可能性があるのであれば、頑張れるということもあるだろう。

逆に言えば、ランドールは何故、頑張るのだろう。

自分のものにはならないところか、いずれは他国に婿に行ってしまう身なのに。

「殿下は…何故、こんなに国に尽くすのですか?」

ふいに口をついて出た。

「突然、何を言うかと思ったら」

ランドールは不思議そうだ。

「王族に生まれたものの宿命だろう」

「でも、跡を継ぐのはお兄様でしょう」

「兄上が継ぐからと言って、何もしないというものでもないだろう。今、まさに国民が飢えているのに」

フレイヤは苦笑した。

全くもってそのとおりだ。

今、苦しんでいる人がいるのに助けないということはないだろう。

「お兄様の為に尽くしているように思えただけだったのです」

「それも当たり前だろう。兄弟なのだから」

「ですが」

「おまえこそ、妹を助ける為になんでもするだろうに」

それは、生まれた時から一緒の自分の半身のような大好きなフルールだからだ。

「兄上には感謝しているんだ」

兄弟の母親はランドールがまだ幼い頃に死んでいる。国王は後妻に今の王妃を迎え、美貌の彼女に夢中になった。

そのため、兄弟はあまり目をかけられなかった。

ランドールを愛し、大事に育ててくれたのは兄だ。

「優しい人なんだよ」

それはわかる気がした。王太子がジョアンナに向けた眼差し、気遣い、そのいとおしいものを扱う様子をフレイヤは目の前で見た。彼は自分の身内にはとても良くしてくれるのだろう。

「殿下がいいならいいですけど」

「もちろん俺は構わない」

言いながら、彼は別のことを考えているようだった。

「良くなくても、どうにもならない。ここは火の国と違うからな。跡を継ぐのは長男と決まっている」

それは王弟に向けての言葉だったのだろう。

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