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20 フレイヤ、王太子夫妻を探る

火の国から輿入れをした王女、マージョリー王太子妃を探る。それはフレイヤの役目となった。

ランドールだと王太子側の話は聞けても、マージョリー側からは警戒されてしまうだろう。

そもそも、王太子殿下はどんなお人柄なのだろうか。

同じ王宮にいながら、フレイヤは遠目に見たことしかなかった。

もう大人で父である国王を助けて国政に携わっていて執務ばかり、腹違いの妹であるユリアーナとは仲良くもない。

むしろ、いろいろなところに出没しているランドールのほうがおかしいのだ。

だからと言って、情報を集められないということはない。

今のフレイヤは狙った人と仲良くなる方法を学んでいる。

まずは、偶然を装って、話しかけてもおかしくない立場、近い身分の女性、に声をかける。

最初は挨拶からでいい。

何度か顔を合わせてから、世間話に持ち込むのだ。

スザンナがやっていた方法だ。

その為には王子付きの女官フレイヤよりも、ユリアーナ王女付きの侍女フルールのほうが適切だろう。

フレイヤはフルールに変装して、王太子の与えられた離宮の様子を伺った。

出入りする人間をくまなくチェックし、目的に合うか、その素性を探る。

まずは適切な人物を割り出すことから。

結構な長期戦にはなったが、フレイヤはそうしてマージョリーのメイドの一人と仲良くなった。

そのメイドは日の国の男爵令嬢だった。

侍女にとつけられたのだが、マージョリーは自分の身の回りは火の国出身の使用人で固めている。

ランドールの言っていた通り、かなりはっきりと分けられているようだ。

それは日の国側にとっては不満の種のようだった。

男爵令嬢はその筆頭だ。

爵位が低いとはいえ貴族である。

王太子妃に側仕えとして充実した日々を送るつもりで田舎から出てきたというのに

実際はメイドのような事をさせられている。

残念さで言えば、掃除ばかりのデュアルフ姉妹といい勝負だ。

そこがよかったのか男爵令嬢はフレイヤに心を開いてくれた。

仕事終わりにこっそり会って愚痴を聞く。

それだけで、王太子妃の動向はかなりつかめた。

結果は、フレイヤにとって好ましくないものだった。

愛らしい外見で民衆の心をつかんだ他国の王女マージョリー。

彼女は全くこの国に馴染もうとはしていなかった。

側に置くのは火の国から連れてきた使用人たち。その中には腕のいいシェフもいて、マージョリーに故郷の料理を振る舞った。

日中は貴婦人らしく、刺繍や音楽を嗜むが、読む本は火の国の文字で書かれている。

そんな頑ななマージョリーを王太子は受け入れなかった。

華やかな結婚式、祝賀のパレードで仲睦まじい姿を見せた2人の親密度はそこが最高で、後は下がるばかりだった。

「だってさあ、火の国のご飯が出るんだよ。味が濃くて辛いの。殿下だって嫌でしょう」

男爵令嬢は肩をすくめた。

王太子の離宮の食事はマージョリーのおかかえの料理人が作る。

それはあまり口に合わないらしい。

「私たちはそんないいものを食べられないけど、逆によかったわよ」

「じゃあ、王太子殿下は別のところで食事をなさるの?」

「離宮じゃなくて、元の王子宮にいらっしゃることが多いみたいよ」

そういえば、フレイヤはもう半年近く王太子夫妻をチェックしているが、王太子を見かけることはなかった。なるほど、ほぼ別居状態だったからか。

仕事が忙しくてあまり帰れていないようだとランドールからは聞いていたが、そういう理由ではなかったらしい。

「そういえば」

ふいに男爵令嬢はにんまりと笑った。

「秘密なんだけど」

耳打ちをしてくる。


「と、言うわけで、皇太子殿下には愛妾がいらっしゃるんですって」

王家の美しい庭園でフレイヤが報告すると、ランドールはあからさまに嫌そうな顔をした。

「秘密はどこにいったんだよ」

「誰かに言う時点で秘密じゃないわよ」

王宮ではそれぞれの持ち場が決められていて、他の人と接せる機会はそんなに多くない。

だから、かの男爵令嬢だって、言う機会がないだけなのだ。

王太子のお気に入りということで、愛妾である女性が恭しく扱われているのなら

周囲は皆、知っているということになる。

「弟君はご存じだった?」

「知らなかった」

意外な答えが返ってきた。

ランドールは王宮内の情報を仕入れるようにしている。

その彼が知らなかったとは。

「兄上のことは調べないよ」

彼は次期王となる仲良しの兄のために働いているので、兄本人のことは調べていなかったのだと言う。

「そこそこ話題になってるみたいよ」

それはそうだろう。

王太子夫妻に与えられる離宮に住んでいないというのだから。

「不仲ゆえに、頻繁に王子宮にいるというのは知っていたが」

「じゃあ、愛妾の人も知らない?」

「知らない」

「ジョアンナ様というらしいんだけど」

「ジョアンナ?」

その人は知っているらしい。

「マージョリー様の侍女にそのような女性がいたと思ったが」

「当たり」

ジョアンナは元は日の国の側が王太子妃につけた侍女だった。

フレイヤに秘密を教えてくれた男爵令嬢と同じく、あまり仕事を与えられないままメイドのような事をしていたらしい。

結婚した当初は王太子も離宮にいて、彼女たちの状況を憂いていたらしい。

そんな中で親しくなったのだ。

一歩間違えたら私だったかもしれないけど、ジョアンナは美人だから、と男爵令嬢は笑っていた。

もちろん、フレイヤは見に行った。

その、美人だという女性の顔を。

確かにとても美しかった。

鼻筋の通った細面の顔は整っていて、琥珀色の瞳が美しい。

つややかな栗色の髪は顔の周りで優雅にカールし、結い上げられている。

どこか頼りなげな表情が庇護欲をそそる。

口数は控えめで、曖昧に微笑む。

つまりは、フレイヤの好みでは全くなかった。

女友達という視点から言えば、シャキシャキした物をはっきり言う女性のほうが好ましい。

妹のフルールはおっとりしているが、それは単に忍耐強さの表れであり、行動としては意外に何でもテキパキとこなす。

なんだかんだ言ってフレイヤの双子の妹なのだ。

「侍女とかメイドとか人に仕えるのが無理なタイプだったなあ」

記憶のままに告げると、ランドールも思い出したようだった。

「ヤルミン伯爵のご令嬢だな。確かに、物静かで控えめな女性だった」

「何を考えて出仕させたのかしらねえ」

ヤルミン伯爵家は広い領地を持つ貴族だ。爵位は伯爵だが、裕福で、社交界でも力を持っている。

「乳母にしたかったんだろうなあ」

「なるほど」

マージョリーが王子を産んだら、その子は王太子の次の王となる。

その乳母になれば、それに見合った権勢を振るうことが出来る。

本人がその気になれば、であるが。

フレイヤが見たお嬢様はとてもそんなタイプに見えなかったが、年齢を経たらまた変わるかもしれない。

だが、今の感じだと、乳母になるより、側妃になる方が可能性が高そうだ。

「マージョリー妃殿下のご懐妊は難しそうですね」

結婚し1年になるのに兆しが無いということだったが、寝所を共にしていないのでは、そもそも無理な話だった。

「でも、恵まれないということではなく、不仲ということであれば、まずはご努力をという方向になりそうですが」

とりあえず、世継ぎに恵まれてから不仲になれと言いたい。

それが国を守るものの義務ではないか。

「おまえの言いたいこともわかるが」

ランドールは困ったように頭をかいた。

「でも、どうしても気が合わない場合もあるんじゃないか」

「政略結婚とはそういうものではないですが」

ことによっては会ったこともない相手と結婚することもあるわけで。

その中で、お互いに譲歩しつつ寄り添いあっていくものではないのか。

少なくとも、フレイヤはそのつもりだ。

きっとフルールだってそうだろう。

貴族の令嬢として生まれたからには避けられない。

男性だってそうだろう。

むしろ、結婚して後継ぎが出来たら愛人を作れる分だけ男性のほうが自由だろう。

愛人を作っている既婚女性もいないではないだろうが、そんなには大っぴらにしないのではないか。

「そうだけどさあ。10歳下とか、何の話をしたらいいかわからんよ」

それは、ランドール自身のことだった。

まだ仮の話であるが、ランドール自身は他国への婿入りが予定されている。

確かに、まだ幼い婚約者とは話も合わないだろうが、彼女が大人になれば、親しくなるのではないだろうか。

考えながら、フレイヤは自分の胸が痛むのを感じた。

目の前の王子は、他の女性の婚約者だ。

そもそも王子だから、他国との縁組が流れたとしても、それなりのご身分の女性をあてがわれるだろう。

それがこんなに胸をざわざわさせることだったなんて。

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