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18 フレイヤ、妹の恋人と会う

こんな美形だとは言ってなかった。

いや、言っていたか。

とても素敵な人なのよ、と。その意味をフレイヤが深く考えていなかっただけだ。

フルールのふりをして王宮に潜り込んで、いきなり出てきたローランは驚くほどの美形だった。

切れ長の目が鋭く、鼻筋はスッキリと通り、口元は引き締まっていた。

スラリと背が高くて足も長い。、

まさか、フルールが面食いだったとは。

「おまえはフルールではないな」

いきなり言い当てられた。

まだ挨拶もしていないのに。

若い男が目の前に現れて、金髪を見て、これが噂のローランではないかと思ったところだった。

「何故、そのように」

「どこを見ても違うだろう。フルールのオーラはもっと優しい色をしている」

ローランらしきその男は堂々と言った。

声もいい。低めの響く声をしている。

なんだよオーラって見えるのかよ、と内心で突っ込みながらフレイヤが曖昧な笑みを浮かべる。

確かに、よくよく話すとフルールのほうがほんわりと柔らかい空気を醸し出す。

一瞬でそれに気が付くとはただものではない。

少なくともブライアンは気が付かなかったらしいので。

「フルールはどうしているのか。代わりに勤めに来たということは体調でも悪いのか」

その心から気遣うような声音にフレイヤは嘘がつけなくなった。

「元気よ。家にいる。デビューに合わせて休暇を貰っているだけ」

「そうか。ならばよい」

ローランは安心したように口元をわずかに綻ばせた。能面のように整った顔が美しい人間のそれと変わる。

「休みは良い。真面目な娘だ。疲れることもあるだろう」

「要領が悪いのよね」

「フルールの美点だ」

ローランは手に持っていた果物を渡してきた。

「それで、おまえはフルールの姉だな。よく見れば顔が似ている」

「双子の姉よ」

実の親にも見分けられない一卵性双生児なので『似ている』と言われると少し不思議な気分になる。

「そうか。フルールは良き娘だ。大事にしてやれ」

「大事にしてるわよ」

そして他人に言われるような事でもない。

「むしろあなたが言われる側だわよ」

「何を」

「フルールを大切にしろというようなことを」

「なるほど」

なんとも言葉が通じがたい。

ローランは落ち着いた声で少しゆっくりと喋る。

それが見た目の若さに反して、年嵩で尊大な印象になっている。

フレイヤはふと気が付いた。

もしかしたら、本気でいいところの坊ちゃん過ぎて、偉そうに見えるのかもしれない、と。

国王の息子である王子に威厳がないのでうっかりしていたが、上位貴族というものは

息をしているだけで偉そうな可能性がある。

フルールはローランは家の話はしないと言っていた。

その警戒心も上位貴族の子弟らしいが、恋人になろうとする間柄では誠実ではない対応ともいえる。

「フルールのことは愛おしいと思っている」

ややあってローランが言った。

「気持ちの問題だけじゃないのよねえ」

「ではなんだと?」

「フルールは伯爵令嬢よ。きちんと責任を持てる人としかお付き合いは出来ないわ」

「責任」

「結婚してフルールとその子供たちを守り養うということよ」

「ならば可能だ」

ちゃんとわかっているのだろうか。

話しながらフレイヤはこの青年に浮世離れしたものを感じていた。

「生活にはお金がかかるわ」

「食うには困らん」

「爵位か領地をお持ちで?」

「爵位はないが、あると言えばあるな。領地もあるといえばある」

「なにそれ」

フルールは彼のことをどこかの名家の家の次男か三男だろうと言っていた。

王族の侍女が伯爵家以上の令嬢に限られるのと同じで、護衛として王宮の奥に入れる兵士は伯爵家以上だ。

つまり、ここにいると言うだけで、彼の家は伯爵家以上だ。

長男なら家の後継ぎなので、文官としてキャリアを積むことはあっても、騎士として出仕はしない。

彼の家は後継ぎでない息子に回せる程度に爵位と財力があるらしい。

それに、いざとなれば、フルールの婿として、彼をデュアルフ伯爵にしてもいい。

フレイヤがどこかに嫁に行けば済む話だ。

つまりは、フレイヤは彼を気に入ったのだ。

どこか鷹揚として、それでも人格の力を感じさせる。

彼に任せておけばいいと思わせるような何かがある。

フレイヤは王宮に出仕していたので、王族を始めとする身分の高い人々を数多く見てきた。

彼はその中に混ぜてもひときわ目を惹くことだろう。

見た目重視で、フレイヤでもフルールでもどちらでもいいようなブライアンとは格が違う。

きっとフルールを幸せにしてくれる。

そして、この男はスパイではない。

こんな浮世離れした尊大なスパイがいてたまるものか。

「でも、貴方は誠実ではないわ。調べはついているのよ。護衛騎士では無いでしょう」

「護衛騎士だと言った覚えはないが」

フルールは護衛騎士だと言っていた。いや、護衛騎士だと思うと言っていたのか。

そもそも貴方は何者なのかと聞かなかったのか。

「貴方はどこの家のどなたで何をやっているのか聞いてもいいのかしら」

「モンティエル公爵の跡取りだな」

フレイヤは頭の中の貴族名簿を引っ張り出した。

モンティエル公爵はもうかなりの年寄りだ。

ずっと領地にいてあまり中央に出てこないので、詳しいことはわからない。

むしろ、公爵夫人のほうが有名だ。

モンティエル公爵夫人は前国王の妹で現国王の叔母にあたる。

精霊王の加護を持ち長らく独身でいた女性だ。

結婚してからは公爵領に住み、こちらもあまり人前には出なくなってしまった。

「なんか年齢が合わない気がするけど」

公爵の息子であれば、もっと年齢が上のような気がする。

「おまえは疑い深いな。フルールとは大違いだ」

「フルールが純粋だから、私が代わりに用心してるのよ」

「それは良いことだ。まあ、これを見せて王か摂政に聞くがよい」

ローランが栞を取り出した。

紙に薄いピンクの押し花と日の精霊王の紋章が描かれている。

もちろんそれはランバートの手を経て、彼の父である国王に渡された。

フレイヤはローランを信用のおける人物であると判断したが、あくまでも経験に基づく勘であり、

彼の言葉をうのみにするわけにはいかない。

果たしてランバートは難しい顔で現れた。

「本当に次期モンティエル公爵らしい」

「そうなんだ」

国王はランドールの説明を聞いて血相を変えたらしい。

「どんな説明をしたのよ」

「そのままだよ。ユリアーナの侍女と親しくしている男がモンティエル公爵の縁者だと言ってるって」

それは本当にそのままだ。

「モンティエル公爵の長男は領地にいて次男は兄上の側近だ」

「そうなんだ」

フレイヤは知らなかった。

「三男?じゃあ、跡取りじゃないんじゃないの?」

「でも、あいつが跡取りなんだってさ」

「なんで?」

「あいつは加護持ちだからだ」

加護。

精霊王の加護か?

モンティエル公爵夫人は精霊王の加護を持つという。その子供であれば、加護を持っていてもおかしくない。

なるほど。それならば、三男以下であっても公爵にもなれる。

「下手したら王様にだってなれるぞ。父上も兄上も加護持ちじゃないからな」

「加護って女性に現れるんじゃないの?」

公爵夫人も加護を持っているとされるユリアーナも女性だ。

「たまに男にも現れるんだってさ」

「へえ」

それは興味深い。

「加護持ちってどうやったらわかるの?」

「身体に徴が現れる。日の紋章が浮き出るんだってさ」

日の精霊王の紋章。

フレイヤはそっと左手首を押えた。

身体に紋章が浮き上がるとは、例えばフレイヤの手首のようにか。

「加護を持っていると、どう違うのかしら」

「特に違わないが、加護のある人間がいると国が豊かになると言われている」

「どうやって」

「水の精霊の加護があれば水に不自由しないし、木の精霊の加護があれば作物が豊かに育つ」

「日の精霊は?」

「太陽の恵みとか?」

ランバートは自身なさそうに言った。王の息子である彼でさえ、その辺は曖昧だ。

そもそも加護を持つ人間がほとんどいない上に、持っているのは王家の人間ばかりなので、

加護に関する研究も進まず、知識も共有されていないのだという。

公爵夫人なら詳しいのだろうか。

会える気はしないが。

「それで、ローランと侍女の仲を引き裂けと言われた」

「ええ?」

何故、そんな話になる。

「父上はローランとユリアーナを結婚させるつもりなんだそうだ」

「ユリアーナ様はまだ8歳ですよ」

「王家の政略結婚なら問題にならない年齢差だ」

自らも幼女の婚約者を持つ王子が言うと信憑性が高い。

「ユリアーナには加護がない」

「え?」

それは驚きだった。てっきりユリアーナには加護があると思っていた。王宮内、貴族社会では、はっきりしないがあるのではないかという雰囲気だったからだ。

国王は知っていたのか。

「公爵夫人は高齢だ。若い世代に加護を持つ王族がいない」

それは王家の求心力の低下を意味する。

王家としてはローランを取り込みたいのだ。

おそらくは、加護をもつユリアーナの配偶者という形で。

「どうしたらいいのかしら」

「さあな」

フルールとの仲を裂けと言われたものの、ローランの不興を買うことは避けたいらしい。

本人が怒って他国へ行ったりしたら大変なことになる。

無理強いすることはできない。

「そのへんの伯爵家の三男なら、うちの婿にしてもいいと思ったのに」

人間としては気に入った。しかし、デュアルフ伯爵家には不相応ということには違いなかった。

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― 新着の感想 ―
ほらもう主人公の心労のたねが増えてく。主人公何も悪くないのに。もうちょっと周りがしっかりして欲しいよ( ; ; ) 次期公爵(予定)は本当に何がしたいんだ。娶るなら娶る。惚れた貼ったの恋人気分を味わい…
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