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1 フレイヤ、逮捕される

タイトルまんま、精霊王の力で過去に巻き戻って、人生をやり直すタイプのお話です。

「フレイヤ・デュアルフ。おまえを反逆罪で逮捕する」

屈強な兵士に腕を取られ、フレイヤは床に押さえ付けられた。

倒れた彼女の金色の髪をつかんで、無理やり頭を上げさせたのは、顔馴染みの中年の騎士だった。

普段は温厚で、年の離れたフレイヤに父親のように接してくれていたが、何のためらいもなく暴力を振るう彼は悪鬼のようだった。

「王女殿下の侍女として取り立てていただきながら、恩知らずな振る舞い、誠に許しがたい」

騎士はフレイヤの頭をつかんだまま、叩きつけた。

「本来ならこの場で叩き斬ってくれるところだが、王女殿下のご厚情だ。おとなしく裁判を待つがよい」

フレイヤはそのまま兵士たちに引き立てられ、地下牢に放り込まれた。

その間、恐怖のあまり、声を出すことも出来なかった。

何が起こっているかもわからない。

フレイヤはこの国の第一王女ユリアーナの侍女として、真面目に職務に励んでいた。

貧しい伯爵家の生まれのフレイヤは、周囲からあからさまに軽んじられていたが、だからと言って、仕事を疎かにした覚えはない。

求められることはきちんとこなした。

反逆罪など、もってのほかだ。

牢に入れられてからも、しばらく呆然としていると、荷物を抱えたメイドと兵士がやってきた。

メイドは親しくしていたスザンナで、兵士は見知らぬ顔だった。

「フレイヤ様」

スザンナが濡れた布で頬をぬぐってくれた。

メイドと侍女とでは立場が違うが、年齢の近いスザンナとは友達のような付き合いだった。

優しい手つきに、思わず涙が滲んでくる。

「何故こんなことに」

見ればスザンナも目に涙を浮かべている。

「なにがなんだかわからないの」

フレイヤは弱々しくうなだれた。

「私、何もしていないの。反逆だなんて」

「罪名としては反逆罪ですが、容疑としては他国と通じてスパイ行為を行ったと」

兵士が言った。

「そんな馬鹿な。私に他国の者と会う機会などないではないですか」

フレイヤの日常は単調だ。

王女ユリアーナの侍女ではあるが、他の侍女たちのように、生家の力が強いわけでもなく、個人的に目を掛けられているわけでもないので、華やかな仕事を任されることもない。

そんな彼女の仕事は洗濯の補助と祭壇の掃除だ。

もちろん、王女の侍女であれば、本人も貴族であり、洗濯などのメイドがするような仕事をすることはない。

だが、王宮の中でも王族の居室があるあたりには、下級メイドは立ち入れない。

なので、フレイヤのような下っ端の侍女が、洗濯物を集めてメイドに渡すと言った雑用をしなければならない。

夕方になれば、洗濯物を受け取り、しかるべきところにしまう。

掃除も同じだ。

メイドが立ち入れない場所を掃除する。

王宮内にある精霊王の祭壇の付近には王族かユリアーナの侍女でなければ立ち入ることができない。

そんな生活なので、フレイヤは知らない人と接することが少ない。

担当のメイドや女官、護衛の騎士といった、本当に決まった顔ぶれとしか話をしていない。

「本当に心当たりはないのか?」

兵士が訊いてくる。

「ありません」

フレイヤは首を振った。

「きっと何かの間違いですよ。裁判で訴えればわかってもらえるかも」

スザンナがぎゅっと手を握ってきた。

「そうかしら」

「そうですとも。精霊王様は常に我らをご覧になっておられます」

何の落ち度もないなら、きっとわかってもらえる。

そのためにもきちんと食事をすることだと、スザンナが食事の載ったトレイを出してきた。

「心を強くお持ちください。ストリン夫人も心配していました」

ストリン夫人。

その名前を聞いて、フレイヤは希望の光が差した気がした。

ストリン夫人は王宮で働くすべての女性たちを差配する立場にある女官長だ。

フレイヤのような弱い立場の使用人のことも気遣ってくれる。

「私は何もしていない。ストリン夫人にそう伝えて」

「わかってますとも」

スザンナは優しい笑顔で請け負った。

だが、彼女の姿を見たのはそれが最後だった。

翌日は見たこともないメイドがカチカチに固まったパンと薄いスープを持ってきた。

「スザンナは?」

メイドは困ったように首を振った。彼女は何もしゃべらず、籠を置くとそそくさと立ち去った。

そして、その日はもう誰も来なかった。

誰とも喋らないと、不安だけが募る。

昨年から、この国はずっと内乱状態にあった。

2年ほど前あたりからだろうか。天候不良で穀物の不作が続き、そのせいで全国的な食糧不足になっていた。その影響で地方で小さな暴動のようなものが続いていた。

去年になって国境の王領で反乱が起こり、王弟が討伐に向かったが、それは軍を率いる為の偽りであり

実際は王弟の起こした反乱であった。

それに乗じるような形で王宮に侵入者があった。

王弟派であるとみられる賊の狙いは王女ユリアーナであったようだが、王宮の最深部には至らず、王太子が住まう少し離れた宮で捕まったということのようだった。

王太子妃マージョリーはショックのあまり、王宮を出て離宮に引きこもっていると聞く。

捕まった賊は全員自害してしまい、真相はわからないものの、そこまで進入できたのは、手引きをしたものがいるのではないか、と疑われていた。

もちろんフレイヤは何もしていない。

しかし、ことは重大だ。疑われ、ろくな証拠もないままに裁かれてしまう可能性もある。

これからどうなってしまうのだろう。

反逆罪は自分が死罪になるだけではなく、家族までもが罪に問われる。

父も妹も死罪か、万が一命が助かったとしても犯罪者として鉱山に送られ過酷な労働を強いられる。

フルールがそんな目にあうなんて。

双子の妹フルール。可愛くて大好きなフルール。

このまま死罪になったら、もうフルールに会うことも出来ない。

せめてフルールだけでも無事に助けることは出来ないだろうか。

そんなことを考えていたからだろうか。

幻の中でフルールを見た。

美しいブルーグレイの瞳がまっすぐにフレイヤを見た。

いつもおっとりして優しく微笑む妹がフレイヤをつかんで揺さぶる。

揺さぶる?

フレイヤは驚いて起き上がり、自分が寝ていたことと、本物のフルールが目の前にいることに気がついた。

「ルー?」

「そうよ。レイ。早く起きてこれに着替えて」

フルールが粗末なメイド服を手渡してくる。

「え?何?」

「ぼんやりしないで。早く。逃げるのよ」

逃げる。

牢から逃げるということなのだろうか。

「待って。駄目よ」

逃げたら裁判は受けられない。嫌疑に反論することもなく、スパイだったと思われてしまう。

「裁判で潔白を信じてもらわなくては」

「それは無理だわ」

フルールが言った。

「レイの部屋から証拠が出たって」

「まさか」

フレイヤは茫然とへたりこんだ。

何もしていない。証拠など出るはずもない。

「私、なにもしてない」

「わかってるわ。レイは誰かに落とし込まれたのよ」

フルールはフレイヤの手を握った。

「前からブライアンが言っていたの。王女殿下に近いところで情報が洩れているって」

ブライアン。

カレル侯爵の次男でフルールと親しくしている。

侯爵家の息子なんて、フルールが弄ばれているのではないかと心配したが、いたって真面目な付き合いだと聞いている。

次男だから将来的に婚姻するのも問題はないと言っていて、今度会わせてくれるという話になっていた。

「高位貴族の間では噂になってたって」

「情報が洩れていることが?」

「そうよ。ご縁談のことで揉めてるからじゃないかって」

王女殿下の身近での情報洩れ。まさにそれで今、身に覚えのない嫌疑をかけられている。

容疑者はフレイヤや同僚の侍女たちだったということだろうか。

しかし、そんなことをしそうな侍女は誰もいない。

精霊王の加護を持つユリアーナ第一王女の側に付き従う侍女や騎士は厳選されているのだ。

だが、本当に厳選されていたら、フレイヤが侍女に選ばれたりはしなかっただろう。

性格のきついユリアーナの近辺では頻繁に使用人が入れ替わる。

「犯人がレイを見代わりにするつもりなら、証拠だって捏造されているかもしれないってブライアンが」

だから逃げるのだと急かされる。

フレイヤは突然のことに呆然としたが、すぐに気を取り直した。

今、ここに、フルールがいる。

2人で逃げるなら、どこに行ってもいい。

フルールの用意してきたメイド服に着替える。よく見たら、フルールも同じ黒いお仕着せを着ていた。

美しい金色の髪も頭巾にくるんでいる。

「こっちよ。ブライアンが待ってるの」

牢を出て左に曲がる。

どこかわからない場所だと思っていたのに、どんどん見慣れた建物に近づいていく。フルールは迷いもなく足早に先へ向かう。

「ねえ、フルール。これって」

「そう。精霊王の祭壇のある部屋よ」

フレイヤが毎日のように掃除していた部屋だ。

「祭壇の部屋から王宮の外に出られるようになっているの。王家の秘密の避難路だって」

ブライアンに教えられて、事前に位置を把握してきたのだそうだ。

彼がフルールをここまで連れてきたものらしい。

王宮の牢に入り込めるとは、カレル侯爵の権力だろうか。

「ブライアンは先に待ってるって」

フルールがドアを開ける。

しかし、そこに待っていたのはブライアンではなかった。

すらりとした長身と立ち姿、暗がりの中の影だけで、フレイヤにはすぐに誰かわかった。

「まさか本当におまえがスパイだったとは。この裏切り者めが」

第二王子ランドールが剣を抜いた。

いけない。

ランドールは前を走るフルールを自分だと思っている。

このままだとフルールが斬られてしまう。

とっさに腕をつかんで身体を入れ替えた。

前に出た瞬間、手首から先が飛んだ。

斬られたのだ。

熱い。

続けて脇腹にも強い衝撃を感じた。

身体から力が抜けていく。

もう駄目だ。

このままここで死んでしまうのだろうか。

全く心当たりのない罪で。

自分だけならまだいい。

フルールを巻き添えにしてしまうのだけはイヤ。

なんでこんなことに。

誰か助けて。

誰か。


『呼んだか、我が巫女よ』

どこかで男性の声がした。

『そなたの献身に報い、我が力を使おう。日の精霊王の名の元に運命を戻そう』

運命。

私の運命とはなんだろう。

『左手を見よ』

目が開かない。

しかし、斬られた左腕に誰かの手の感触があるのがわかる。

『ここに約束の印を残そう。我が巫女よ』

腕に何かが押し付けられた。

それは切り落とされた左手で。

見えない誰かは手の切断面をくっつけて何かを唱えた。

腕がくっついていって傷口のつなぎめが燃えるように熱い。円が二つ重なって太陽を示すマークのようなものが感じられる。

古代から伝わる日の精霊王の紋章だ。

フレイヤが覚えていたのはそこまでだった。

書き溜めたところまでは月水金の18時更新予定です。

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