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さらばだ、ハゲオヤジ

スッラ軍団がローマに迫る中、マリウスの指揮下で陰謀の渦が巻く。

スッラがイタリア半島南部に上陸したという知らせは、翌日にはローマにいるマリウスの下に届いた。


マリウスは半島北部に陣を構築した軍団に南部へと進軍するよう、即座に命令した。


しかし、北部に布陣していたのはポンペイウスとクラッススの軍団であった。


彼らの軍団は、民衆派のマリウスと閥族派のスッラの対立は、高度に政治的なものである。


よって、軍人である我々は、今回の内戦には一切干渉しないというスタンスを当初から貫いていた。


しかし、彼らはスッラ軍団が難なくイタリア半島に上陸した事を知り、スッラの方がマリウスより一枚上手である。


また、マリウスは高齢であり、彼の指揮能力自体が既に懐疑的なものなっているという、軍人らしい合理的な結論を出した。


そのため、北部に駐屯していたポンペイウスとクラッススの軍団はマリウスの命令を無視し、イタリア半島南部に上陸したスッラ軍団を支援する事に決めた。


スッラ側につくことを決心した彼らは、特使に手紙を託した。


その手紙には、ポンペイウスを代表として、スッラ宛にこう記している。


「我々は、スッラ様の見事な作戦とその手腕をギリシアと今回の上陸戦で拝見させていただきました。我々はスッラ様の軍団に是非とも加わりたいと考えております。もし、我々の願いが実現されるのであれば、スッラ様の一軍団として、ハゲオヤジ(マリウス)を背後から奇襲することをお約束します」


この手紙を受け取ったスッラは、中身を読むなり声を上げて笑った。


「メトロビウス、彼ら(ポンペイウス・クラッスス)宛にその申し出、了解したと手紙を出してくれ」


スッラは、即日でこの申し出を快諾した。


その日から、スッラの機嫌は今までに見たことないほどよくなったという。


翌日から、スッラはローマ近郊までの間に2度の大決戦を行った。


この戦の詳細は省くが、内容はお察しの通り、マリウス率いる民衆派はことごとくスッラの軍団に敗れた。


この報告を受けたポンペイウスとクラッススは、自分たちの決断に自信を深めていった。


スッラは、マリウス率いる民衆派に加担した街や都市を手当たり次第、火で焼き払い、非公式ではあるが、スッラはその地の財産や宝を兵士たちが略奪する事を許可し、民衆派の夫や親族を持つ女性は奴隷として売り飛ばし、またレイプする事を兵士たちに許可したとされる。


外国へと売り飛ばされた女性たちは、金髪碧眼という事もあり、アラブの商人たちが高値で買い取っていった。


これにより、兵士たちの老後生活のためのいわゆる年金問題がほぼ解決したとされている。


それは兎も角、この時期になると、いよいよ切羽詰まったマリウスは、常に中立の姿勢を保っていたポンペイウスとクラッススの軍団に参戦するよう何度も伝令を送っている。


マリウスは戦争が始まった当初からポンペイウスとクラッススの両軍に支援要請をしていた。


しかし、決まって彼らから帰ってくる返答が「お腹が痛いから不可」「奥さんと喧嘩中につき、指揮不能」といったふざけたものであった。


マリウスはこれらの返答に怒り心頭で、彼らの指揮権をはく奪しようとしたが、彼らの軍団兵はあくまで指揮官である彼らに忠誠を誓っているのであり、マリウスの命令を聞くはずがなかった。


マリウスは半ばポンペイウスとクラッスス両者の参戦を諦めており、スッラが迫ってくる寸前まで連絡を断っていたのだが、この期に及んで、数十キロ先まで接近してくるスッラ軍団の勢いを見て、マリウスは再び参戦を促す伝令をポンペイウスとクラッススに送った。


マリウスは、ポンペイウスとクラッスス両者からの返答を見て顔を真っ青にした。


「さらばだ、ハゲオヤジ」


手紙にはこの一文しか書かれておらず、彼らがスッラ側に寝返ったことをマリウスは悟った。


マリウスはだんだんと顔色を真っ赤にさせるとヒステリックに喚き散らした。


また、すでに述べたようにマリウスは、持病であるマラリアの後遺症も併発していた為、その光景はまさに醜態としか言いようがなかった。


「畜生目ええええッッ!!!」


マリウスはそれまで座っていた椅子を蹴り飛ばし、机を何度も叩き続けた。


一瞬落ち着きを見せたかと思うと、指揮官たち自室に呼びつけ、彼らをこの世のありとあらゆる暴言で罵倒すると、なんと自室に引きこもったのである。


その翌日、スッラ軍団がローマ南東の方向から進軍してきた。


それに合わせるように、ポンペイウスとクラッススの軍がローマに向けて、北東と北西の方角から進軍を開始した。


ローマに拠点を置く民衆派の人々たちは、ローマ周辺の村々が赤々と燃えている様子を見た。


ローマ市内は、様々な噂が飛び交い、治安状態は混乱を極めた。


このような中で、民衆派のリーダーたちは徹底抗戦派と降伏派の二つに別れ、話は一向にまとまらず、終いには身内同士の粛清が始まった。


そこに、スッラ側についたポンペイウス軍が一番乗りの形で、ローマ市内になだれ込んで来たため、ローマ市内は大混乱へと陥った。


一部の民衆派の指揮官たちは、この状況を収めるにはマリウスの威厳が必要だと感じ、彼の自室へと押し掛けたが、その時には、部屋の中はもぬけの殻だった。


何とマリウスは、浮浪者と見間違えられるほどのボロを身にまとい、既にローマを脱出していた。


噂によると、マリウスはシチリア島経由でカルタゴへと逃亡したと言う。


マリウス逃亡の事実は、瞬く間に広まって行き、民衆派に従っていた兵士たちの戦意はことごとく消失していった。


カオスを極めた市内では、各所で兵士たちの反乱が起こり、ポンペイウス軍と合流する形で、民衆派の指導者たちの首が狩られた。


後日談ではあるが、スッラに献上された民衆派の首は、ローマ市内の広場に数週間飾られ、糞尿にまみれた末に、最後は火の中へと投げ込まれた。


こうして、戦闘が始まってから一時間もたたずにローマは陥落したのであり、スッラの復讐劇は完遂したかのようにも見えた。


しかし、スッラの復讐心はいまだ燃え続けており、これまでの惨劇はそのほんの序章に過ぎなかった。

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