悪魔の上陸
遂に、スッらの軍団がマリウス討伐のために上陸戦を展開する。
ギリシアの都市、アテネから出港したスッラの軍団は、途中イタリア方向から吹く向かい風の影響もあり、予定の到着日時より、少し遅れてイタリア半島近海に到達していた。
無論、マリウスの軍団は既にギリシア駐屯軍の降伏を受けて、万全の態勢でイタリア半島に防衛線を築き上げていた。
その為、通常の上陸作戦ではスッラの軍団にまず勝ち目はないと多くの人々は考えた。
そこでスッラは、最もローマに近いイタリア半島北部に自身の軍団を上陸させる案を廃し、最も南に位置するシチリア方面の港湾都市から軍団を上陸させる事とを決定した。
これは、一種のかけであった。
というのも、事前にスッラ側が知り得ていたマリウスによって張り巡らされた防衛線の情報は、降伏したマリウス側の兵によるものであり、デマの可能性も大いにあり得たからだ。
防衛戦の話がスッラを嵌める罠であり、マリウスが南側に兵力を集中配備していたならば、スッラ軍団は上陸するまもなく、十中八九海の藻屑と消えることだろう。
復讐の狂気に取りつかれたマリウスに捕まれば、良くて斬首・晒し首になることはほぼ確実。
スッラは司令官たちとの激論の末、イタリア半島の南側に上陸することを最終案として纏めた。
スッラは、上陸地点の沖合いに着くと久しく戦場で獣のような雄叫びをあげ、軍団に大号令を掛けた。
軍団兵はその号令を皮切りに、自分等の乗る輸送船ごと浜辺へ突っ込んで行った。
船は浜辺にうち上がり、兵士たちは巣をつついた蜂のように展開して行く。
しかし、そこにはマリウス側の兵隊どころか人っ子一人もいなかった。
「なんだこれは………」
海岸周辺の村らしき跡地には、裏切り者たちと書かれたプラカードと真っ黒に炭化した死体の山が積み上がっていた。
「これは……」
そう、この遺体たちは間違いなく、反マリウス派の残党のものであり、我々の同胞たちだ。
しかも、遺体の大半が見せしめのようで、女子供が大半を占めていた。
かつて、小スキピオがカルタゴを滅するために使用した南部の都市は、英雄マリウスの手により、ことごとく破壊されていた。
「この仕打ち、百倍にして返すことをここに誓う」
スッラは、真っ黒に炭化した同胞たちの遺体の前に立ち、マリウスへの報復を誓ったのである。