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若き日のカエサル ~スッラに捕まる~

カエサルの死を心から望むスッラは、若き日のカエサルと会っていた。

カエサルはジュリアス家という、既に述べたスッラのコルネリウス家同様に、ローマ誕生頃から存在した古い家柄であった。


しかし、カエサルの叔父は、ローマの英雄と称えられたマリウスであった。


マリウスは、すでに述べたように、スッラと元老院内の反マリウス派との政治闘争にことごとく負け、政治的に敗北した人物である。


その点からもカエサルの叔父であるマリウスは、政治面では凡人並みの才能しか持ち合わせていなかったといえる。


叔父であるマリウスはスッラの留守を狙い、ローマにてクーデターを起こし、ローマを占拠した。


この一報を聞いたカエサルは、まだ十八歳の青年であったが、この事態を誰よりも静観し、今後の戦の行方を的確に判断していたエピソードがある。


「恐らく、この戦はスッラに分がある」


カエサルは内戦が始まると従者に一言そういった。


つまり、カエサルは叔父であるマリウスとは違い、政治的センスが非常に高く、内戦が始まった当初から、戦の行く末を予言していたのだ。


カエサルは、叔父のマリウスがイタリア半島を征服し、誰もがこれからは、マリウスの時代が来ると思っている中、数人の従者を連れてローマを脱出した。


イタリア半島を脱出したカエサルはエジプトへと向かうべく、ギリシア方面へと船を進めて行った。


その道中、カエサルの船は大船団に捕まり尋問を受けることとなった。


カエサル一行の船は、大型軍船の横に付けるように指示され、カエサルたちは縄梯子を昇り、大型船のデッキへとあがった。


「君は、この内戦どちらが勝つと思うかね」


カエサルを指さし、そう尋ねてきた男の顔を見て、従者たちの顔から血の気が引いた。


カエサルは、マリウスの甥にあたる人物。バレれば、まず間違いなく殺される。


だが、カエサルは臆する事なく答えた。


「スッラ様が勝つことは明白であります」


スッラは「そうか、そうか」と笑い、一呼吸置くとカエサル一行をすぐに釈放するよう部下に命じた。


後の歴史家たちは、カエサル一行は香辛料商人に成りすましていた事とスッラ軍団も急いでいた事から、カエサルその人かどうかの正確な確認を行わず、即座に解放したのだというものいるが、従者たちの話を聞くと私はどうもそのようには思えなかった。


スッラは、カエサルとの別れ際にこう言っている。


「英雄の叔父はローマで元気にしているか」


カエサルは咄嗟にマントの中に隠していた短剣に手をかけようとしたが、周囲の軍団兵たちはニヤニヤしながら、既に槍をカエサルに構えていた。


カエサルは抵抗は無駄だと悟った。


恐ろしくなったカエサルの従者の一人がその場で失禁した。


また、ある一人はあまりの恐怖から縄梯子を掴む手が離れ、五メートル下の商船に転落している。


しかし、どういうわけかスッラは衛兵たちに武器を下ろさせると、カエサル一行が水平線の彼方に消えるまで見送っている。


後にスッラ自身が書いたとされる『独裁官の半生と回顧録』には、このように記されていたという。


「そうだ。敵のいる所にわざわざ突っ込んでくるアホはこの世に余とカエサル以外、存在しない」


スッラはカエサルを解放してから、宿敵マリウスの待つイタリア半島につくまでの一週間、戦場では滅多に見せない笑顔を部下によって目撃されている。


そのスッラの姿を見たものは、まるで楽しみを最後に残した子供のように見えたという。


また、人によっては対立しているはずの政治派閥(民衆派)に属する若きカエサルの中に、自身スッラに似ている何かを彼は見いだし、その可笑しさから笑ったのではないか、というものもいる。


今となっては、その真偽は確かめようがない。


ただ、一つだけ謎多き事実がひとつある。


それは、これからイタリア半島で起こるスッラとマリウスの血で血を洗う内戦が終わってもなお、スッラは最後までカエサル暗殺指令を下さなかったという事にある。

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