良識ある者だけが石を投げよ
キケローは万全な準備の下、法廷に現れた。
私は法廷の傍聴席に座った。
裁判官の号令のもと、キケローの激しい訴追が始まった。
キケローは確実にアメーリウスの政治生命を絶つため、アメーリウスによる暗殺計画や私生活のあらゆる痴態を事細かに確認。
一時、アメーリウスの野党が法廷外で乱闘騒ぎを起こし、衛兵に捉えられるアクシデントがおこった。
法廷が一時中断された。
法廷が再開されるとキケローは民衆からの支持を得るべく、アメーリウスの政治資金問題を取り上げる。
ローマ共和制では民衆の関心事が政治生命に直結する。
そのため、多くの先導政治家は民衆に娯楽(食料配給や闘技場の無料入場券など)を自費でばら撒き、民衆の心をつかんでいた。
しかし、アメーリウスは自費と称して公金をばら撒きに使い、あろうことか戦利品(本来であれば国庫に入る公金)を私邸の維持費に当てていた。
キケローは声高にアメーリウスの汚職を暴露、民意は一気にキケローに傾いていった。
ただ、キケローも内心穏やかではなかった。
何故ならアメーリウスは腐ってもスッラの配下。部下に甘いスッラの号令が一度かかれば、裁判は中断されキケローは問答無用で処刑される事もありえた。
裁判は終始キケローのペースで進み、途中アメーリウス小飼のごろつきどもが法廷を中断させるため、再度乱入を試みたが、アメーリウスの有罪は確定となり、閉廷となった。
キケローはこの裁判で見事勝訴を勝ち取り、その名をローマ中に轟かせた。
ただ、当のキケローはスッラの報復があるのではと気が気ではないらしい。
私は閉廷後にキケローのもとへ行き、今回の素晴らしい弁論への賛辞、父殺しの冤罪を着せられた青年からの感謝、そして遠征中のラケーレの思い人の奮戦と存命を伝えた。
キケローは満足した表情を浮かべていたが、やはり身の安全を考慮し、休暇の名目でローマを離れ、翌日ギリシャのアテネに向かうとのこと。
私は全知全能の神が青年キケローの安全を護ってくださるよう、ユピテル神殿で祈り翌日心ばかりの路銀を彼に渡した。
キケローは旅立ち、ローマの秩序は安定を取り戻した。
キケローの一件から一年半の月日が流れた。
私はワインを片手に私邸の居間でくつろいだ。私が執筆したこんにちまでの歴史書を片手に、ゆらゆらと揺れるろうそくの光を見ながら黄昏いてた。
ドンドンドン!!
何時もなら返事をしてから入ってくる密偵がノックのあと、転がり込む様に部屋に入ってきた。
何が起こったのは確かだ。
私は密偵からの報告を受けて驚愕する。
ローマ共和制に訪れた束の間の平穏が崩れ去り、ローマ存亡につながる最大の危機が訪れた。
スッラの死去である。
次回、英雄カエサル




