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勝者と敗者 ~彼らは名誉と権力を求めた~

ローマ共和政に独裁官として君臨したスッラは、以下のような人物であった。

スッラは、閥族派と言われる貴族階級に属しており、ローマ共和政の支配階級である元老院側に属する軍人・政治家としてその頭角を現した。


スッラがその有能な才能示す一つの契機となったのが、我らの住まうイタリア半島以北に定住しているゲルマン人たちが、突如として大移動を始めたことに端を発する。


ゲルマン人たちは、平均身長が我々ローマ人より遥かに高く、筋力の面においても二人一組で対処しなければ太刀打ちできないこともあった。


そのような屈強なゲルマン人たちに立ち向かったのが、閥族派とは相反する民衆派という、民衆寄りの政策を行う政治家のマリウスである。


マリウスは、後にスッラと対立し、ローマ国内に血で血を洗う内戦を引き起こすのだが、スッラを有能な指揮官だと見抜き、軍団の指揮官にスッラを抜擢したのもまたマリウスであった。


スッラは、指揮官に抜擢されると生まれ持った天賦才を生かし、かなりの速さで出世していった。


ゲルマン人との戦闘で多大な功績を両者は挙げ、マリウスはローマを救った救国の英雄としてその名を不動のものとしたのだが、それは革新的な民衆派を嫌う閥族派の対立を激化させることに繋がった。


また、スッラ自身もマリウスが過大評価されることをよくは思っておらず、スッラも次第に反マリウス側の陣営に身を寄せるようになった。


スッラとマリウスの関係性は、指揮所内にて指揮権を巡り、激烈な口論をするようにまで至り、終いには衛兵たちが死人が出るのではないかと危惧するほどの罵声と怒号が飛び交った。


さて、ここまでマリウスとスッラの仲が険悪となった事を示してきた。


この険悪となった両者の関係に決定的な亀裂を入れたのが元老院の決議であった。


この決議内容は、マリウスの政敵となったスッラが、翌月自身の軍団を指揮いて、黒海周辺で反ローマの闘いを始めた、ミトリダテース王の討伐をマリウスの指揮権を委譲する形で行うというものであった。


反乱の起きた現地の状態は凄惨であり、反ローマを掲げたミトリダテースの軍団は、ローマ植民地の人間を根こそぎ殺し、女は強姦し奴隷として競売にかけられていた。


占領されたローマ植民市を海上から偵察したローマ海軍によれば、海岸線一帯には虐殺された男や子供たちのおびただしい数の首が槍に突き刺される形で、一定の間隔を設けて、横一列に晒し首にされていたという。


植民市から早船で戻った現地兵の報告受け、議会は急遽深夜帯に開催され、元老院議員たちは満場一致でスッラの軍団を黒海周辺に派遣することが決められた。


しかし、この議会が急遽招集されたとき、英雄マリウスの下にはその連絡は一切されておらず、マリウスが決議を知ったのは翌日になってマリウス邸に届けられた一通の手紙に書かれた一文からであった。


「マリウスの指揮権をスッラに委譲する」


この一文を見たマリウスは激怒した。


マリウスは既に70近くの高齢ではあったが、彼の功績と軍事指揮能力はそれを十分に補うものがあった。


しかし、元老院議員の多くは反マリウスの閥族派が大半を占めており、マリウスが知らぬ間に強行採決された不公平な決議案を撤回する余地は残されていなかった。


マリウスは、自分抜きで決議を行った救国の英雄に対する恩知らずな元老院議員たちの態度と自身の持つ功績と軍団の指揮権を50代そこらの元部下スッラに無断で委譲されたと酷くプライドを傷つけられた。


その翌日、マリウスはとある計画を実行すべく、ごく少数の信頼する部下たちを私邸に招集した。


扉と窓は閉ざされ、ろうそくの光が怪しく光る中で、マリウスは彼らにその計画を打ち明けた。


「諸君、ローマを(閥族派から)国民の下に取り戻さなければならない。」


マリウスの信頼する指揮官たちの多くは、マリウスと同じ平民階級の民衆派であった。


ローマの国有地を非合法に占拠・私物化し、貸家・貸地として金稼ぎの道工としていた閥族派の既得権益構造に、多くの民衆派は強く反発していたこともあり、マリウスの計画は満場一致で賛成となった。


こうして翌月、スッラが黒海周辺への遠征に行くのと同時に、民衆派によるクーデターが決行されることとなったのである。


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