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エピローグ

独裁官は、ある男を合法的に殺すために、元老院議員を議会に招集した。

「我々はあのカエサルを殺さなければならない」


独裁官は不機嫌そうな表情で言った。


我々ローマ人は、古くから法律を重んじてはきたが、時として暴力がそれを蹂躙してきた。


今我々のいる元老院議会中央に位置するあの金銀で造られた厳めしい肘掛け椅子に座り、カエサルの死を強く望む男もまた、この暴力的な時代背景の中で成り上がった人物の一人である。


男娼に命じ、グラスに水を注がせている独裁官の名は、スッラという。


スッラはコルネリウス家というローマ創生期から存在する名家に生まれた人物だ。


しかし、スッラが生まれたとき、コルネリウス家は既に没落していた。スッラは名家の出でありながら、青年期を平民住宅であるインスラで過ごした。


その為、性格は酷く粗暴であり、自ら喧嘩を吹っ掛ける事はなかったが、国家を収める最高権力者となった今でもその性格は変わらないようだ。


スッラは、満杯に水が注がれたグラスを手に取ると「よいか、元老院諸君。このグラスがローマだとしよう。中に入っている水は、我らが偉大な祖国の領土とそこに住まう住民たちだ」スッラはそういうと水の入ったグラスを我々元老院議員らの前で勢いよく地面に叩きつけた。


「よいか、国という枠組みはこのガラス細工のように脆く、強い衝撃を与えればたちどころに原型をとどめないほどに崩壊してしまう。我々はそれを防がなければならず、民衆という自己利益を追求する愚か者どもを抑制し、民衆を煽り、煽動するカエサルを生かしておくべきではないのだ!」


スッラは二メートル近い身長、癖のある金の巻き毛、顔は白と赤の粗い斑点で覆われている。粛清されたスッラの政敵たちはこの風貌を「食卓に巻いた桑の実」と嘲笑しており、灰色の瞳が放つ鋭い眼光は、肌の特徴と相まって周囲に威圧感を与えている。


独裁官の演説中は、元老議員たちは終始極度の緊張状態にあり、独裁官の演説が終わると滝のように汗を滲ませた。


独裁官は私邸へと早々に引き上げて行った。


スッラの私生活は、ローマ共和政に君臨してから多少は落ち着いたと噂されているが、青年期の自堕落な生活は今も変わってはおらず、酒と女、美少年に金を費やす退廃的な生き方を今もなお捨て切れてはいないようだった。


英雄色を好むと言うが、スッラの遊びは貴族階級というだけはあり、どれも一級品だ。


ローマの文化は、ギリシャ文化から強い影響を受けており、職・食べ物・性的趣向(男色)・哲学など、ありとあらゆるものにその名残がある。


無論、スッラはギリシャの文化に倣う趣味・趣向を持ち合わせており、数多くの品をギリシャから運び入れていた。


その中でもスッラ一番のお気に入りの男娼は、メトロビウスというギリシャ人であり、女性のように長く美しい髪としなやかな体を合わせ持つ美少年を妾にしている。


しかし、スッラは政治のストレスからより多くの酒を浴びるように飲んでいると聞く。


平均寿命が50代のローマにて、スッラは既に58に達していたが、その体力に一切の陰りは無く、精力にも衰えの兆しはないとも聞く。


スッラは、先ほど述べたように、肌の事を除けば優美な風貌であり、20代の青年期にニコポリスという女性の愛人となり、彼女の相続人として莫大な遺産を受け継ぎ、資産家となった。


その点からもわかるように、女性からの人気もいまだに高いため、男性議員たちはスッラを敵にしたくない。


さて、スッラの話は後に語るとして、今から少し以下の点に触れ、本作品の本題を語りたいと思う。


まず、今も存続している共和政ローマは覇権国として我らが海(地中海)に数々の植民地を確立した。


次に、我らローマ人は、選挙制に基づく議員の選出と高位の政治職を決める民主的な政治体制を誇りとしている。


以上の点を踏まえた上で、どのように民主的な世の中で、スッラのような独裁者が生まれたのか。


そして、スッラの恐れるカエサルとは一体どのような人物なのか。


本作は元老院議員であるこの私が、二つの焦点に光を当てて書き記す歴史叙述である。


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