ずっと
ダブルケイをでて、山道を5分ほど上がると、
小さな墓地があった。
そこに、恵子は眠っていた。
明日香は毎朝、ダブルケイにいるときは、墓に挨拶に来ていた。
手を合わせた後、明日香は呟いた。
「ママの事だから、多分こう言うわね…」
明日香は微笑んだ。
「毎日来なくていいのにって」
しばらくして、明日香は苦笑した。
振り返り、
町側を見ると、数多くの人口物が広がっていた。
昔は、空襲で何もなかったというけど、今は…
みんな、頑張ったのだ。
後ろを振り返ると、広大な緑が広がっていた。
自然と人口の狭間に、ダブルケイはある。
それは、
恵子が意識していたのかもしれない。
狭間で奏でる音楽。
左下には新興住宅地が広がり、
ダブルケイのメインのお客さんは、その辺りから来ていた。
明日香は、恵子に敬礼すると、
店へと下りて行った。
店に着くと、ポストに手紙が来ていた。
招待状。
幸子とゆうからだ。
結婚式。
(遂に結婚するんだ!)
明日香は、感嘆した。
すると、突然携帯が鳴った。
出ると、アメリカからだった。
サミーだ。
今度のアルバムも、ミックスダウンは、サミーにしてもらう。
サミーは言う。
「俺はもう歳だから…お前らのアルバムで、最後だ」
何度も言うから、口癖のようだ。
あとは、必ず切る前にこう言う。
「俺が電話してることは、啓介にいうなよ!俺みたいな男前と、話してたら…妬くだろ?」
明日香は、爆笑してしまうけど、サミーはまじだった。
「いつ、アメリカにくるんだ?みんな、待ってるぞ。アルバムだけだしやがって…たまには、顔をだしやがれ」
明日香は店前で、ダブルケイの看板を眺めた。
日差しの照り返しで、キラキラ輝いていた。
「もうすぐいくわ!家族みんなで」
「そうか」
サミーの笑い声で、電話は切れた。
明日香は、空を見上げた。
(それが運命なら…)
逃げずに、真っ直ぐ歩いていたら…
必ずたどり着くはず。
中から扉が開いて、
啓介が出てきた。
「おかえり」
「ただいま」
少し照れくさい。
啓介が手をのばす。
明日香がつかむ。
ぎゅと力強く。
二人は手を繋いだまま…ダブルケイの中に入った。
明日香は思った。
ずっとこの手を離さずにいよう。
ずっとこの店で。
ずっといっしょに…。