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LikeLoveYou

話題は走る。


すぐに情報は、


リアルタイムで、人々に送られる。


ネットの普及は、


人々を豊かにした。


溢れる情報は…


知りたいことを、キーボードや、マウスをクイックするだけで、


すぐに得ることができる。



しかし、


これだけ、溢れる情報の中で


同じものが流行り、


消費されるのはなぜ。


それが、


大衆意識というものなのか…。


人々は、


本当に豊かになったのか。


溢れる情報に踊らされ、


逆に


狭くは、なってはいないのか。


判断力は、下がっていないか。


人は、人と触れ合って、


初めて、実感できる生き物なのに…。



ニューヨークタイムスに…


今、話題の歌手


と紹介された記事を、見たとき、和美は覚悟した。


次の消費は、自分だと。


消費され、なくなる前に、


あたしのやるべきことは…


歌手として、


日本語しか歌わない歌手には、ならない


と誓った時から。



安藤理恵がどうして


自殺したのか…。


今の和美には、わかっていた。


ほとんどのミュージシャンは、


理恵のすばらしさを理解した。


しかし、


ある程度、突き抜けたアーティストしか、


理恵を認めなかった。


理恵を、突然変異とでも思ったのだろう。


だからこそ、


普通のミュージシャンは…。




理解しても、認めるとは限らない。


和美はやるべきこと。


グラミーのジャズボーカルにノミネートされたと、連絡があった。


喜ぶスタッフの中、


和美はため息をついた。


赤で、決めた自分の姿を眺めた。


もう予感がしていた。


(いいわ、別に…。あたしは、どこにいても、どこで歌っても…あたしだから…)









照れくさそうに、カウンターに座る優一を、


紗理奈は、戸惑いながら見ていた。


そんな視線を感じず、


優一は、明日香を見ていた。



教育実習にいったとき…


優一はつくづく、自分が先生に、向いていないと思った。


みんな…各々頑張る彼らを、


どう評価ができよう。


できないと評価し、彼らの一生を左右できようか。


優一についた担当の先生は、優しくて温和で


生徒に人気があった。


その先生が、優一にこう言った。


「牧村先生。こいつらは、何もできない馬鹿。私達が、教えないとないも知らない馬鹿…と思わないと、先生はできない」


そのアドバイスをきいたとき、


優一は、自分には無理と思った。




実習最後の日、


渡り廊下から、校舎を見た。


そこからしか、見れない景色を、


自分が、再び見れたことで…目的も、終わった気がした。



卒業後、


優一は、普通の企業に就職した。


逆に、会社をやめる先輩にある日、


飲みに連れ出された。


二軒目に、連れて来られたBAR。


そこで、優一は久々の再会を果たしたのだ。


それは、教育実習で、出会った少女だった。


香月明日香。


優一の思い出の少女に、似ていた。




明日香はEVILを、恵子に紹介された。


恵子とマスターは、知り合いだった。


EVILのマスターは、


もと恵子のバンド…ダブルケイのメンバーだった。


店は、道路を渡ると、すぐにスタジオがある…便利な場所にあった。


週4日は、働いていた。


啓介のバンドに入っていたが…そんなに毎日、仕事がある訳でなかった。


ジャズは、ギャラが安かった。


明日香をメインにし、歌を前面にだそうとしたが、


レコード会社は、啓介だけを押したかった。


バンドのメンバーに、給料を払わなければならない。


その為、啓介は相変わらず、セッションの仕事をしていた。


仕事の依頼は多く、


啓介は、スタジオを飛び回っていた。


その間、


明日香は、スタジオとバイトを行ったり来たりしていた。


バンドは、タイトにまとまってきており、啓介がいない時は、明日香がリーダーだった。


大好きなマイルスディビスの言葉。


つねに、自分の知らないことをやる。


を意識して、練習した。


自分の知らない音楽を、探した。


ピアソラや…レゲエ、テクノ…自然の中。


川のせせらぎのような…いつまでも、聴いていられる…心地よい音を、奏でたかった。


明日香は、ミュージシャンになっていた。


もうすぐ…21になる。




優一と紗理奈は、ビールを注文した。


サーバーから、ビールをグラスに注ぐ明日香。


「今日は、お1人じゃないんですね。ゆうさん」


「うん。ちょっと…いっしょに、カラオケにいってたんだ」


「カラオケかあ…。ながいこと行ってないです。昔はよく、里美と行ってたんですけど」


ビールが、二人の前に出される。


優一は、紗理奈と乾杯する。


「里美…。有沢さんか!元気してるの?」


「はい。お陰様で」


自分と優一の会話を、聞いてるだけの紗理奈に気づき、


明日香は、紗理奈に微笑みかける。


「はじめまして、香月と申します。よろしくお願いします」


紗理奈はいきなりで、驚く。


「ああ、紗理奈です」


「音楽友達なんだ、俺達」


友達…。


その言葉が、紗理奈には


嫌だった。


明日香の笑顔も、


嫌だった。




かけていたCDが止まり、


明日香は、新しいCDをセットする。


流れる低音。


A TRIBE CALLED QUESTの“The Low End Theory”


今、明日香のお気に入りの音だった。


無駄を省いたその音は、美しく、衝撃的。


カウンターだけの店内は広く、15人くらいは座れた。


奥に三人、お客がいた。


明日香は、1人1人に満遍なく話しかける。



「店長、遅いね」


「知り合いのお店の周年で…お祝いにいってますから」


明日香を包む店の雰囲気…お客さんも優しかった。


妹や娘に、話しかけるように。


紗理奈の客とは違った。


同じ客商売なのに。


間に、カウンターがあるからだろうか。


紗理奈は、お客に話しかける明日香の横顔を眺めた。


綺麗な顔。


紗理奈も、けっしてブサイクではないが、


種類が違うように感じた。


紗理奈は、花束。


綺麗だが、


根を切られ、


長く生きれない。


明日香は、鉢植えの花。


綺麗と眺められ、


大切に水をやり、


育てられる。


その鉢植えは、


多分…


花束より高価だ。




「明日香ちゃんのCDないの?」


1人のお客が、ウォッカトニックのおかわりを頼みながら、明日香にきいた。


明日香は、目を丸くした。


「え!あたしのCDですか?」


「発売日が決まったと、マスターが言っていたぞ」


「聴きたいなあ」


他の客も言い出す。


「やっと…レコード会社が、折れてくれたから…」


明日香は少し、はにかむ。


「店でかけるんですかあ〜」




あくまでバンドとして、活動したい啓介と、


啓介をメインに、他はバックバンドというレコード会社とは、


中々意見がまとまらなかった。


今話題の河野和美の弟。


伝説の歌手、安藤理恵の息子。


売り出すのは、今しかなかった。


明日香が、バンドに入るとすぐに、


レコーディングは行われ…アルバム一枚は、完成した。


それは…明日香が、ダブルケイやペパーミントで演奏した曲達…。


ある意味、明日香のそれまでの集大成だった。


LikeLoveYou(ライクラブユウ)


バンド名は、決まっていた。


あなたを愛することが、できる…そんな日々が好き。


明日香の想いだった。


啓介への。


アルバムは、出来ていたが、リリース予定が未定だった。


しかし、


ライブでの評判。


そして、


グラミーにノミネートされた和美との、タイミングを考えると、


今出さないといけないと、判断したレコード会社は…


渋々納得した。


LikeLoveYou。


明日香の新しい始まりだった。




「CDあるんでしょ」


お客に言われ、


渋々明日香は、自分のカバンから、CDを取り出す。


「本当にかけるんですか?」


お客達が頷く。


「CD聴けるんだあ」


優一が、感嘆の声を上げた。


明日香は音楽を止め、自分のアルバムをセットした。


ピアノが、静かに流れ出し…曲が始まる。


マイフーリッシュハート。


夜と夢の間で、迷わないで…あたしの恋心。


この曲が、


明日香の始まりだった。


恵子の歌声に惹かれて、


明日香は、音楽の扉を開いた。


明日香の澄んだ歌声に絡みつき、


寄り添う啓介のアルトサックスが鳴る。


ダブルケイとは違う二人の音。


恵子と健司は


寄り添うような、触れ合うような、離れるような、互いにクールでありながら、


本当は、大切に思い合ってる二人の音だった。


明日香と啓介は


しっかりと手を繋ぎ、つまずきながら、戸惑いながらも、


絶対に離さない…そんな音だ。






紗理奈は、初めて聴く歌声に…


素直に、感動した。


和美や自分とは、まったく違う歌声。


すっと体に、染み込んでくる。


「相変わらず、いい声だ」


感嘆する優一の声を、きいた瞬間、


紗理奈は、席を立った。


結構、勢いよく立った為、激しい音がして、


店内の人が一斉に、紗理奈を見た。


「あたし…帰るね」


紗理奈は、店を出ていった。


「どうしたんだ」


優一の声も無視して…。







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