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これからの音を奏でて

少し空気が冷たい。


電車を乗り継ぎ、降り立った駅は、


思い出の中と何も、変わっていなかった。


目の前に、赤い山が広がる。


夕陽はどこでも同じ。


すべてを赤く染める。


だけど、


この景色だけは、ここにしかなかった。


あの頃は当たり前で、


あまり特別だと、思わなかった。


歩く道さえ、そこへ至る一歩一歩さえ…


特別だったのよ。



夕陽に照らされて、そこはあった。


明日香が帰る所。


いつでも、明日香を待ってくれている場所。




あたしは、帰ってきた。


あたしの場所に、あたしの足で歩いて。


手に持っているのは、大切なトランペットが入ったケースと、


あの時、


あなたが、言ってくれた言葉だけ。


すべてが、うまくいった訳じゃない。


傷ついたことも、裏切られたこともあった。


話すこともしたくない…悲しいこともあった。


でも、


あたしは、挫けなかった。


叶えたい思いが、あったから。


戻りたい場所が、あったから。


あたしが、帰る場所があったから。


待ってくれている人が、いたから。







いつもの時間。


まだクローズと、


プレートがかかっている扉を開けた。




音が飛び込んでくる。


この音なの…。


あたしが、ずっと聴きたかった音は。


聴いただけで、あたしにはわかる。





啓介の音。


カウンターの中に、恵子がいた。


恵子は微笑み、


「お帰りなさい。明日香ちゃん」


「ただいま!ママ」


店内に流れる音が、止まった。


ステージにいる人達。


阿部、原田、武田。


そして、啓介。


啓介の優しい笑顔を見た瞬間、


明日香は走り出した。


ステージに上がり、


そして、啓介に抱きついた。


「ただいま…啓介さん」


「おかえり、明日香」


明日香の顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。


せっかく綺麗に、化粧したのに。


あたしはまだ子供。


でも、


こんなあたしを待っててくれたあなたが、あたしは…。


「あたしを…あなたのバンドに入れて下さい」


啓介は、明日香を抱き締め、


「もう入ってるよ。俺のバンドに」


明日香と啓介。


安らぎと暖かさを感じながら、


二人は二人の音を奏でる。


それは不器用で、まっすぐで一途な、


そして特別な音。


二人の音。


これからの音。


未来へと続く音。





第二部完。

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