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伝えたいこと

あれから、何日か過ぎた。


音楽祭のポスターができあがり、学校のいろんなところに貼られている。


最初はあまり、盛り上がりはなかったが、


連日ブラスバンド部が、グラウンドのそばで、PRの演奏を繰り広げ、


少しずつ浸透し始めた。


決定的だったのは、


デビューアルバムを、ついにリリースすることになった和美が、


テレビの歌番組で、自分も参加することを告知したことだ。


ファンが、殺到することになった。


もともと、タダだったチケットがプレミアが付き、


会場となる体育館は、


使う予定がなかった2階席まで、使用することになった。




音楽祭は明日。


体育館では、参加する者達がリハーサルをしていた。


当日は、審査員もつき、点数で競われる。


参加するのは、全部で18組。


くじ引きにより、


軽音部は、


一番最後に、なってしまった。


「和美さんは?」


里美の問いに、


明日香は予定表を見たが、


載っていない。


「たぶん…一番最後か、一番最初だろう」


滝川がこたえた。


「それより…うちは、リハやらなくていいのかい?」


心配そうな滝川に、


明日香は、笑顔でこたえた。


「はい。新鮮な気持ちで、新鮮な演奏を、聴かせたいんです。参加者にも」


明日香は、体育館を見回した。


音の響きはわかった。


あとは、


当日、ここで演奏するだけだった。


すべては、明日だ。


緊張しだした里美は、さっさと帰った。


明日香は、いつものようにダブルケイに向かった。


扉を開けると、


カウンターに和美がいた。


「お久しぶりね。明日香ちゃん…あなたを待ってたのよ」


和美は、満面の笑みで、明日香を迎えた。


「お久しぶりです。この前は、ありがとうございました。CDまで頂いて…」


明日香は、頭を下げた。


「いいのよ。あれくらい」



カウンターの奥に、啓介がいた。


「早く座ったらどう?」


和美の前で、立ちすくんでいた明日香が座ると、


和美は、音楽祭のプログラムを見せた。


「あなた達…最後にでるのね」


「はい」


明日香は、力強く頷いた。


和美は、じっと明日香の目を見つめてから…カウンターの中にいる恵子の方を見て、


「決めたは、ママ。あたし、最後から、2番目に歌う」



「何だって!」


和美の言葉に、啓介が反応した。


「別にいいじゃない。どこで歌っても」


和美は、クスッと笑った。


「プロのお前が、歌った後にだぞ!」


和美に詰め寄る啓介に対して、


恵子が言った。


「別にいいんじゃない」


「母さん!明日香ちゃんが、不利になるだけだろ」


「そんなことないわよね。明日香ちゃん」


恵子は、明日香にきいた。


明日香は、深く頷いた。


「大丈夫です」


今度は和美が、明日香を見、


「大した自信ね」


明日香はカウンターから立ち上がり、真っすぐに和美を見つめて、口を開いた。


「伝えたいことがあります」


真っすぐに向けられた明日香の視線に、たじろぐことなく、


「あたしに…何を伝えたいの?」


和美は、明日香に顔を近づけた。


明日香は、視線を逸らさない。



恵子は、そんな2人の間に…コーヒーを置いた。


「明日香ちゃん。はい、コーヒー」


恵子は、和美に視線を移した。


「かずちゃん。明日わかることよ」


鼻を鳴らすと、和美は、席を立った。


「ほんと、大した自信だわ」


和美は、真っすぐに扉へと歩いていく。


外に出る前に、和美は足を止め、振り向かずにきいた。


「啓介は明日、出ないわよね?」


「なぜ、俺が出るんだよ」


啓介は、ずっと腕を組んだままでいた。


和美は、啓介の方を振り返ると、


「邪魔だけはしないでね」


フンと前を向くと、扉を開け、そのまま出ていった。


ステージにいた阿部は、ベースを調節しながら、


「あれは、血だな」


恵子は、肩をすくめた。




明日香は、もうカウンターには座らずに…トランペットを持つと、ステージに向かって歩いていった。


ステージに上がると、ドラムセットの中にいた武田に向かって、口を開いた。


「武田さん!適当にリズム、叩いてくれますか。ちょっと吹きたくなっちゃった」


明日香は、何のメロディーも考えず、ただフリーブロウで吹きまくった。



「めずらしいな」


啓介が、ステージ上から聞こえてくる明日香の音の激しさを感じ、呟いた。



「そうね」


恵子も、明日香の音に…身を任せた。






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