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渡り廊下で

仕方なく…次の日の


放課後、明日香は音楽室へと向かう。


足取りが重い明日香を、


夕陽が照らす。


(助けてくれないのね)


恨めしそうに、夕陽を見る。


明日香は、ため息とともに、音楽室へ向かう階段を、上がろうとした。


その時、


階段の上から、3人の女子が現れた。


「香月さんね」


真ん中の女が、下りてきた。


いきなり、胸元に手をいれると、


プリクラつきの名刺を、明日香に差し出した。


「結城恵美…ブラスバンド部部長!?」


驚きながらも、明日香が名刺を読むと…結城は、さっと名刺を、奪い返した。


「あなたの話は、きいてるわ。軽音の秘密兵器」


言い放つような結城の言い方に、明日香は、唖然とする。


結城は構わずに、話を続けた。


「しらばっくれても、無駄よ。先日、うちの部室から…トランペットが、盗まれるという事件が、発生したの」


あっと、思わず口にでた明日香。


結城の目が、光る。


「そのトランペットは、学校のものとはいえ…うちが、所有していたもの!それを無断で!」


結城は、明日香を見、


「昨日…何と!音楽室より、トランペットの音がもれてきたの!吹いてたのは、あなたね」


明日香を指差す。


身の危険を感じ、思いっきり、首を横に振る明日香。


結城は、明日香に顔を近づけ、クスッと笑うと、


「別に…使ったらいけないと言ってないの」


急に、猫なで声になった。


「あなたが…うちの部員だったらね」


結城は、ニヤリと笑い、


「我がブラスバンドは!いつも、優秀な人材を募集中!あなたが~」


明日香をまた指差し、


「我がブラスバンド部員だったら!何の問題にもならないわ」


満面の笑みで、結城はさらに顔を、明日香に近づける。


たじろぐ明日香。




「待ちなさい!」


階段のさらに上から、声がした。


颯爽と登場したのは、


軽音部副部長、浅倉だ。


右手に、トランペットを持っている。


「お探しのは、これね。昨日、うちの部員が拾って、保管してたの。今ちょうど、届けにいこうとしてたところよ」


「うそおっしゃい!」


結城は苦々しく、浅倉を見上げ、睨み付けた。


「あらあ。感謝されることはあっても、文句をいわれる筋合いはないわ」


階段を下りてきた浅倉と


結城が、至近距離で睨み合う。


その隙に…


明日香は、階段を下りた。


そして、


気づかれないように、


その場を全力で、後にした。




明日香は久々に、渡り廊下に来た。


少し風が強い。


でも、頬を撫でる風が、


何だか優しい。


少し沈みかけている夕陽に向かって、背伸びし、


敬礼した。


本当に久しぶりだ。


いつもの定位置だった場所…手摺りに寄りかかる。


隣を向いて、誰もいないけど、


微笑んだ。



(ただいま)


自然と、鼻歌を口ずさむ。


Someday My Prince Will Come〜いつか王子様が。


今の明日香の練習曲。



渡り廊下から、北館にある音楽室が見えた。


里美が、ドラムに座って叩いている。


一生懸命に。


こんなところから見えるなんて、知らなかった。


いつも、夕陽とグラウンドだけを見ていた。


夕陽が、半分くらい沈んでいる。


もう音楽室に、いけるだろう。



明日香が、


手摺りから離れようとした瞬間、


グラウンドからの階段を、上がってくる人物がいた。




高橋だ。


高橋はにやっと笑った。


「最近、あの男はいないようだね。別れたの?」


いきなり現れた高橋に、身構える明日香。


「あなたには、関係ないでしょ」


明日香の言葉に、高橋は鼻で笑った。


「フン…関係な〜い!?いきなり、殴られたんだぜ」


「それはあなたが…」


「俺がどうしたって?」


高橋は、明日香に近づく。


「結構…傷ついたんだぜ。女なんかに、ふられたことが」


明日香は、身の危険を感じ、後退る。


「あれから…何人か付き合ったけど、傷はふさがらない」


ゆっくりと…高橋は、距離をつめてくる。


「もう…あの男はいない」


後ろの階段に向かって、走ろうとした明日香との距離を、


一瞬で縮め、高橋は腕を掴んだ。


「好きだったから…特別に、少しは優しくしてやろうと思ったけど…やめだ」


高橋は、明日香の腕を引っ張り、


抱き寄せる。



(ゆう……)


明日香の必死の抵抗も、高橋には通用しない。



(助けて…)



高橋は無理やり


明日香の顎に手をやり、


顔を上げさせる。


「嫌がるなよ。みんな、喜んでしてるぜ」


高橋は、キスをしょうとする。


明日香は、必死に抵抗する。


けど、力が違いすぎる。


(もうダメ…)





明日香の頬を、涙が流れた。





「痛っ!」


突然、高橋は、明日香を離した。


高橋は頭を押さえて、蹲った。


後ろから、


頭に箒が、思いっきり打ち込まれたのだ。


「明日香、大丈夫!」


涙をためた瞳に、


箒を持った里美が映った。


「里美!」


「こっちへ、明日香!」


跪く高橋の横を通り、明日香は、里美の後ろにまわった。


頭を押さえながら、高橋は里美を睨みつける。


「このブスがああ!」


「明日香に手をだしたら、許さないんだから!」


箒で身構える里美。


高橋は大笑いし、


「別に変なことをする訳じゃない。お前も、喜んでたことを、してやるだけだ」


その言葉に、


里美の箒を持つ手が、震えた。


「喜んでたじゃないか。あんまり、長くつきあってやらなかったけどさ。すぐにしてやっただろ?」


里美は、ただ震えている。


唇を噛み締めて。


「軽い女の癖に。それとも何か!俺が、他の女とキスするのが、嫌か」


里美は、箒で殴りかかるが、


簡単にかわされる。


そして、


足をかけられて転ぶ。


「里美!」


高橋が、転んだ里美を蹴ろうとした瞬間、


「やめろ!」


渡り廊下に、滝川と浅倉が現れた。


後ろには、生徒指導の先生がいた。


「何をしている!」


先生にきかれ、


高橋は、困ったような顔をし、


「彼女が転んだから…手を、貸そうとしただけですよ」


そう言ったが…信じれるはずもなく、


一応、先生に連れて行かれた。


里美はこけたまま、


起き上がらない。


うつぶせのまま、


泣き出す。



明日香がそばにいくと、


何とか起き上がり、


里美は、明日香にしがみついた。



「くやしいよ。くやしいよ。くやしいよ…」


ただ一言を、繰り返して言う里美を、


明日香は、ぎゅと抱き締めた。


「風が…いきなり強く、窓を叩いてるから。窓の外をみたら…明日香のそばに、あいつがいて…」


里美は、その場にあった箒を持って、飛び出したのだ。


「くやしいよ、明日香。あんなやつを好きだった…ことが、悔しいよ」


泣きじゃくる里美を慰めながら、


明日香も、泣いていた。




ふたりは泣いた。




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