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心の中で...

「よくわからなかった」


里美は、貸してもらったCD…ジャズが、イマイチだったらしい。


明日香は、クスッと笑うと、


「聴くとやるは、違うから…里美も、音を合わせたら、わかるようになるわ」



昼休み。


いつもの場所である…体育館裏のベンチで、2人は寛いでいた。


もう夏だ。


この場所は、日陰だからいいけど、


少し動くだけで、汗をかいてしまう。



「明日香。あたしさあ…園芸部やめようと思うんだ」


里美は、烏龍茶を飲みながら、話し出した。


「もともと…興味なかったしね。だから、やめて…軽音部に入ろうと思うんだ」


「どうして?」


唐突な里美の言葉に、明日香は少し驚いた。


「あたし…あんたより、出遅れてるでしょ。だから、入ろかなと。ママの店は、あたしを教えだしたら、あんたの時間が、少なくなるし」


「里美…」


「あんまり…店までいけないし」


里美は、烏龍茶を飲んだ。


「そんなに、気を使わなくていいよ」


「もう入部したし」


さらっと言う里美。


「え!」


明日香が驚くと、


里美は、お茶を飲み干し、


「いやあ〜説明だけ、ききにいくはずだったんだけど…あまりにも、部長が男前でさ!これは運命よ」


里美は、ガッツポーズをとる。


「もう園芸なんてやってられない。音楽こそ、新たなあたしの始まりよ」



あきれてしまう…。


男勝りで、恋愛恋愛と騒ぐタイプではないが、


密かに、イケメン好きであることを、


明日香は、最近知った。


軽く頭を抱える明日香に、


トドメの一言が発せられる。


「あんたも、入部したから。その場で、2枚書いたから」


里美は、2本目の緑茶を開ける。


「どうして興味を?って滝川部長が…潤んだ瞳できいてくるから」


里美はウットリとし、


「親友が、音楽をやっていてと言ったら…ぜひ、会いたいというのよ!だから、手っ取り早く入部させたの」


「か、勝手に!?」


「ちゃんと〜忙しいから、たまにしか…顔は出せないと、いっておいたから!ナイス!あ☆た☆し」


里美は、自分で納得気に頷いた。


「あのねえ!」


「今日。一緒に、顔出すからね。そんなに時間、とらさないから」


里美は、緑茶も飲み終えると、


明日香の手を握り締め、


「仕方がないじゃない!運命の人の望みなんだから」


明日香が、何か言おうとすると、


里美はぎろっと睨み、


「それとも何?運命なんてあきらめて、過去にしがみついて、泣いてたらいいの!なんて、ひどい親友!いえ、もう親友でも友達でもないなら、いいわ」


少し芝居がかった里美の口調に、明日香は観念した。


「わかったわよ」





「あなたまで…入ってくれるなんて…」


滝川は、笑顔で二人を迎え、


「本人の意志を、確認してからと、言ったんだけど…有沢さんが、大丈夫だからと、強引に」


滝川が、申し訳なさそうに明日香に向かって、言った。


明日香は、里美を見た。


里美はソッポを向き、舌を出した。


(はめられた)



滝川は、明日香の手を握り締め、微笑んだ。


「最近…あまり人が、入らなくて…メンバーが、足りなかったんだ。ほんと助かるよ」



放課後、連れていかれたのは音楽室。


北館の2階。


正面の窓の向こうに、グラウンドが見える。


さりげなく、里美はカーテンを閉めた。


カーテンの隙間から、


夕日がこぼれる。


右側の窓からは、


渡り廊下が見えた。



部員は、明日香達をいれて、8人のようだ。


部長の滝川は、眼鏡をかけていて、音楽をやっているようには見えない。


真面目そうだ。


担当はベース。



「そういえば…香月君は、外で、音楽やってるそうだね。それもトランペット!」


おおっと、とってつけたように周りの部員が驚く。


里美も驚く。


(おい!)


ツッコミをいれたくなる。


「みんな、聴いてみたいよね」


里美も含め、


全員が大きく頷く。



明日香は、変な空気を感じ…少し後退る。


「…今日はトランペットを…持ってませんから…また次回ということで…」


滝川は、ニコニコしながら、


後ろに隠してあったものを、明日香に差し出す。


「こんなことがあろうかと…ブラスバンド部から、拝借してきました」


ああ…トランペット…。


はめられてる。


逃げようにも


出口をいつの間にか、


里美達に塞がれてる。


ニコニコと滝川が、トランペットを押し付ける。


屈辱だが、仕方がない。


明日香は、トランペットを受け取ると、


もともとついていたマウスを外し…ポケットから、いつも使っているマウスを、取り出した。


恵子が言っていた。


マウスは、使ってると自分の唇の形がつくから、


つねに、同じのを使いなさい。


(あなたの口づけよ)



明日香は、周りを見回すと、


そっと…渡り廊下の方に、ペットを向けた。


夕焼けに染まった渡り廊下……。





そういえば…


あなた。


言っていたわね。


あたしの音が、聴きたかったと…。


今は、黄昏。


あなたに届くかしら。



(ゆう…)


明日香は、目をつぶり、静かに吹いた。


静かに、


優しく、そっと、


あなたに、触れるように…。


あなたとの口づけの想い出とともに。




夕焼けに、


優しく照らされた明日香。


トランペットも優しく、中音域の音を奏でる。


(あたしは…高い音とか、叫ぶ音とか嫌いみたい)


ゆっくりとゆっくりと囁くように、


でも、心に残るように…


あなたの笑顔が、


あたしの中に残ったように。


そう。


あたしの音は黄昏。


昼間のように、輝いてもいない。


夜のように、暗くも神秘的でもない。


その間の黄昏。


あなたと過ごした黄昏の優しさが、


あたしの音になる。




少しフェイクをくわえながら、


最後のフレーズ…


最後のメロディーを遊んでみる。


終わるのがいやだから。


でも、


夕焼けは短いの。


ゆっくりと、目を開けながら、


渡り廊下を見つめながら、


明日香は、演奏を終えた。




少しの沈黙。


明日香は、マウスへの口づけをやめた。



拍手が湧き上がる。


「すごい!」


里美が、感嘆している。


明日香は、深々と頭を下げた。


今までで、一番うまく吹けたと思う。


(あたしは成長している)


渡り廊下に向かって、微笑んだ。


さらに、もう一度拍手をしながら、


滝川が、明日香に近付く。


「すごくよかった。トランペットだけじゃなくて、歌も歌ってるそうですね」


「どちらも、まだまだですけど」



滝川は、眼鏡を人差し指であげると、


後ろのドアを、押さえている女の方を向いた。


「浅倉君。これで…いい戦力ができましたね」


浅倉は、ドアを押さえるのをやめ、明日香に近付く。


そして、明日香を下から上まで見て、一言、


「かわいいです」



浅倉と滝川は、頷き合う。


「浅倉副部長」


「滝川部長」


二人は、にやっと笑った。


「メイドもいけます」


浅倉の言葉に、滝川は頷く。


「メイドでバンド」


ガッツポーズを取る。


なんなのかわからない…。


疑問形の明日香は、やはり身の危険を感じ、トランペットを置くと、


そそくさと、出ていこうとする。


「待ちたまえ!香月さん。理由を説明しょう」


滝川が叫んだ。


「この部は今、存続の危機に瀕している!」


滝川の言葉の続きを、浅倉が続ける。


「部員が少なく、あまり活躍もしていないことと…逆に、ブラスバンド部が活躍し、賞を取った為に…。軽音部は、ブラスバンドに吸収…合併の話が、でているのです」


「そこで我々は、学校側と交渉したのだ。1ヶ月半後、我が校は姉妹校三校と、音楽祭を開催する。そこで一番注目を浴びたら、存続できる!」


滝川と浅倉は、明日香の腕を取り、


「その為に、あなたが必要なのだ!香月さん!よろしくお願いします」


明日香は、たじろぐ。


「浅倉副部長」


滝川の言葉に、


浅倉は、黒板に紙を貼った。


紙には、


ボーカル&トランペット 香月明日香。ベース 藤井亜紀。ギター 浅倉瞳。キーボード 近藤由里。ドラム 上原裕子。


「軽音部が誇る!女性陣で、スペシャルユニットを、組んでもらいます」


「その名も!」



「部長!まだ、名前は決まっていません」


肩透かし。


咳払いの後、滝川は、


「とにかく…これで、勝ちにいきます。よろしく香月さん」




いきなりの展開に、


戸惑い…言葉を失う明日香。




「あのお…あたしは?」


置いてきぼりのような空気を感じ、


里美が、手を上げた。


はっとする滝川と浅倉。


二人は小声で、


「部長…」


「分かっているよ…浅倉副部長…初心者を、入れるわけにはいかない」


滝川は、咳払いをすると、


ニコニコと里美に近づく。


里美の肩に、手を置いた。


「有沢くん…君には特別に…君しかできない!ことを、用意してあるから」


滝川は、ウィンクをした。


「君にしかできない!」





「って…何?」


顔をしかめる里美を、


滝川は、無視して、


明日香達の方を向く。


「音楽祭は、1ヶ月半後です。姉妹校だけでなく、一般の人も参加してきます」


「まあ…ブラスバンド部より、注目を集めたらいいだけですので」


滝川と浅倉は、明日香の肩を叩いた。


「明日から!このユニットは始動するんで、よろしく!」


断れない空気に、明日香は、深いため息をついた。





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