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さよなら

それから、覚えていない。



明日香は、薄闇の中、


なんとかKKに、辿り着くことができた。


もうオープンとプレートが、掲げてあるドアを開け、


恵子の顔を見た瞬間、


明日香は、泣きだした。


恵子は驚き…慌ててカウンターからでると、


泣き続ける明日香を、抱き締めた。


明日香は、何も言わず…ただ泣き続けた。


恵子も理由をきかず、ただ明日香を、抱き締めた。


明日香はずっと、泣き続けた。



そこから、本人にも記憶がない。


いつのまにか、泣き疲れたのか…寝たらしい。




恵子は、営業中にもかかわらず、


車で、明日香を家まで送ってくれた。


明日香が気付いたら、家のベットの上だった。


また、涙がでてきて、


泣いた。




泣くことにも、慣れた頃、


朝が来た。


もう


ゆうに会えない朝。


学校に行きたくないと、思った。


だけど、


しばらくして、


明日香は、起き上がった。


(あたしはまだ…本当のさよならをしていない!)


明日香はベットから、飛び起きた。


(今日があの人の、最終日のはずだ)





終了のチャイムがなった。


担任が、今日で、教育実習の終わりを告げる。


優一が、教壇に立つ。


頭を下げ、1人1人の顔を見てから、優一は話し出した。


「短い時間でしたけど、皆さんと過ごし、学んだことをいかし…立派な教師になるように努力します。この2週間…つたない授業で、申し訳ありませんでした」


深々ともう一度、頭を下げ、


「ありがとうございました」


生徒から、拍手が沸き上がり、


実習は、終わりを告げた。




「先生!」


出ていく優一に、明日香は慌てて席を立ち、メモを渡した。


驚く優一は、


メモを見て、静かに頷いた。





世話になった先生や、同じ実習生に、最後の挨拶を済ませ、


優一は、メモに書いてある場所に向かう。





渡り廊下。


久々に、向かうその場所に、


優一は、緊張していた。



廊下を抜けると、青空が広がった。


すぐ目の前に、体育館。


右手には、グラウンドが、一望できた。


手摺りの、思い出の定位置に、


彼女はいた。


なつかしそうに、優一は、目を細める。


振り返った少女の笑顔に、


優一の過去が、広がった。









優一を見つけ、



微笑む少女…。



日光に照らされて、



キラキラ輝く少女は、



過去ではなく、



現在。






明日香だった。




明日香の微笑みに、


優一は、我にかえった。


(フッ…)


と、心の中で、少し笑うと、優一は、明日香に近づく。


過去は、過去。


今は、今。


決して、同じじゃない。


(それは、わかってるんだけど…)


ここに来ると、


幻を願う。


学生の自分が、


ここにいるような…


錯覚。


いや、


(願望だな)


優一は、自らに苦笑した。


あの頃は、当たり前だった学校という存在と、過ごす時間。


今は、永遠に戻れない。


例え、


今、ここに立っていても…


戻ることなんて、できない。





明日香は、優一に、ひまわりの花束を渡した。


「あ、ありがとう」


「CDのお礼です。昼休み、抜け出して、買いにいきました」


明日香は、舌をだす。


「CD…そうだ!あげる約束したよね。覚えてないんだけど…」


首を捻る優一に、明日香は苦笑すると、


敬礼した。


「立派な先生に、なってくださいネ」


その言葉に、優一は頭をかく。


そして、手摺りにもたれかかると、


グラウンドを見た。


「実は…あんまり、先生になる気は、ないんだ…」


懐かしそうに、グラウンドを眺め、


「ただ…もう一度…。この場所に、来たかっただけなんだ」


そう語る、優一の横顔は…似ていた。


明日香は確信し、


「先生って、高校生の時、サッカー部だったんですか?」


優一は、目を丸くした。


「どうして…それを…」



明日香は、言葉を続ける。


「好きな人、いましたか?」


「い、いたよ。上月くんっていって…」


「あたしに、そっくりでした?」


「え!」


真っ赤になる優一。



渡り廊下に、姿を見せた時から…


優一の姿…


しぐさに、


明日香は微笑んだ。




優一は、ゆうだ。


明日香は、嬉しくなった。


(完全に、ゆうは消えた訳じゃない)


滲んできた涙を、我慢し、


明日香は、優一に、もう一度姿勢を正し、敬礼した。


「ゆう先生、お元気で!」


明日香の笑顔に、


優一も笑いかける。


「香月さんも、お元気で」




その笑顔にたまらなくなり、明日香は口を開いた。


「先生!あたし…音楽やってるんです…」


明日香は、優一を見つめ、少し言葉を詰まらせ、


改めて、微笑んだ。


「いつか…いつか!聴きに来て、下さいね」


「ああ、ぜひとも」


明日香は、背を向けた。


涙が、溢れそうになったから。


必死におさえ、


「さっきのメモに、メルアド書いてます。いつか連絡下さい!じゃあ、ゆう先生!お元気で!」


明日香は振り返り、頭を下げると、


急いで、階段を駆け下りた。


もう駄目だった…。


涙が溢れ、


流れ、止まらない。


優一に、涙を見せる訳にはいかなかった。




階段をかけ下りた後、


明日香は足を止め、渡り廊下を振り返った。


今は、夕暮れじゃないけど…、


「さよなら…ゆう」


明日香は、涙を拭うと、


歩きだした。


そしてもう…振り返ることはなかった。






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