1日目
宇宙空間に昼も夜もないが、宇宙船の生活には一応時間の概念がある。
最初に宇宙に飛び立った種族が、種族混合宇宙船の初期に導入したものが定着して今に至る。
短命種は時間を大切にする。
長命種の一瞬は短命種の一瞬とは感覚が異なるからだ。
理解はしているが、到着予定が5時間位遅れて何か困るのか?と言って激怒される側の気持ちのほうが「わかる」もの。
今日はそんな新入りのことを書き残そうと思う。
「今回の補給から新入りが増える。最初の半周は極力客前に出ないようにしてくれ」
船長からの全体連絡で乗組員たちはそんな頃合いか、と思い出す。
大きな都市のある星では物資と乗客のほかにも、乗組員の入れ替えが起きる。
その星に家族がいる者は長期休暇で一時的に降りるほか、宇宙船生活に耐えきれなくなった者たちが脱落していく。かわりに休暇明けの乗組員と新入りを乗せるのだ。
そして我々は4補給ぶりの新入り3名を迎えた。
客前で話すような案内、受付などは2周回以降の乗組員が行う。それでも誰にも会わない仕事だけ、とはいかないのだが、今回の新入りは運がなかったようだ。
「そこの掃除の君、この船に乗ってもう15日だが予定通り進んでいるのかい?」
話しかけられているのが新入り2号と気付いてあっ、と言う頃にはもう手遅れだった。
「はい、今朝時点では5日後の現地19時到着予定、順調です!」
「はぁ!?12時着の便だぞ!遅れても1時間程度と聞いて乗ったんだぞ!大幅遅延じゃないか!」
まずい、これは対応を間違うと問題になる。
「えっ、その日に着くのは変わりませんが何かもんだ「失礼いたしましたー!」」
遠隔通信魔法(内線とも言う)で担当を呼び、新人を回収して裏へ逃げるのも我々ベテラン周回組の役割だ。
気持ちはわかる、わかるけど、最初に習ったよね?
「時間の話は気軽に答えちゃダメ、でしたっけ?正確な情報でしたよね?」
新入り2号はきょとんとした顔で答えた。君の気持ちはわかる。
数時間どころか1時間単位で予定を組む奴がいるなんて理解しがたい。そうだろう。
短命な種族はそれが普通らしいからね、と伝えてもまだ納得はしていなかった。
ちなみに、と新入り2号が聞いてきた。
「大先輩はどれくらい遅くなったら遅延だと思います?」
自分基準なら次の便がくる頃まで、かな。
「大先輩、この船の次の便って20日後っす…」