わたしじゃ、ダメですか③ (R-15)
「…求婚した時に、言ったはずだぞ。私はそなたを“女”として好いている、と。胸のおおきさ?そんなものどうだっていい。私が欲しいのは、そなただ。」
金の髪をゆるくまとめている簪をひきぬく。
湯あみの時からあげたままになっていたアリシアの黄蜜の髪が一気に解きはなたれた。
「そなたが嫌がるならもう何もするまいと思った。だが、今夜は、そなたが悪い。」
唸るように告げる。
入浴剤がやわらかに薫る艶やかな髪を梳き、ルシアスはその一房に口づけた。
「そなたの、金の髪が好きだ。」
その華奢な肩を引きよせ、ルシアスはアリシアを後ろから抱きしめる。
「そなたの細い首筋が、好きだ。」
数日前にアリシアがルシアスにしたように口づける。まだ本気ではない。
左腕でアリシアを拘束し、右手を彼女の寝衣の下にすべりこませる。
「私は本当は隙あらばそなたの身体を余すところなく触りたいと思っている狼だぞ。そんな男の心中も知らず、無防備に背中を見せて…。」
情欲に掠れた低い声で責めながら、下衣の奥へと容赦なく手をのばす。
「んっ…んんっ。」
緩急をつけたルシアスの指の動きは一年前のあの夜よりも執拗で、淫靡で、残酷だった。
堕ちろ、堕ちてしまえ。
ガラス窓に、情欲に濡れた金の瞳と、困惑と羞恥をたたえる鳶色の瞳がうつりこむ。
「…ぁ…んぅ。」
こくり。こくり。
あたえられる熱に耐え切れず幾度も嚥下する細い首筋を甘く噛む。
「…ッ」
声にならない喘ぎをあげ、がくん、とアリシアの膝が崩れ落ちた。
その隙を逃さず、ルシアスはアリシアを背後の寝台へとひきずりこむ。
前回は、勢いでおしきった。でも今回は、確認する必要がある。
このまま進んでもいいのか。もう一度彼女を欲することは許されるのか。
「…ふれられるのは好きだと言ったな。このようなことをされても、そう言えるのか。」
敷布を握りしめたまま、アリシアが頬を染め、うつむいた。
その様子をじっとうかがう。
「アリシア。私に女として扱われるのは嫌か。」
酒の力をかりるのは卑怯かもしれない。
けれど口が重く一人で抱え込む彼女に本音を言わせるには酔わせるしかないと思った。
一か八かの賭けだった。
祈るような気持ちで待つ。
「…ゃ…い。」
「うん?」
「…ぃ、ゃじゃ、ない、です…。」
「そうか…。」
表面上は穏やかに、内心では勝利の快哉を叫びながら、彼はアリシアを抱えたまま身を横たえた。
「…っ。」
ビクン!とアリシアの身体が大きくはねた。
「…すまん、入ってしまったか。」
悪びれる様子もなくしれっと彼は呟く。確信犯だ。
添い寝だけと心に決め、無防備に眠るアリシアのとなりで何度自身を諫めたことか。
元々必死でなだめているのだから、許しがでればこうなるのは必然。
魔が差した、などと言い訳するつもりはない。彼は妻を全力で篭絡すべく緩やかに動きだした。
「私を男にさせる魅力が自分にあることがこれで分かったかな。…さて、変な女にのめり込まぬよう鎮めてもらおうか、奥さん?」
くつくつと喉を鳴らし、彼は柔い彼女の姿態を羽交い絞めにする。
「ああ…そなたの体は本当によいな…。何を悩む必要があるのやら。」
「…っ」
「…こら。逃げるんじゃない。もっと触ってほしいんだろう?」
挑発するように言えば、半身をひねってルシアスをふりかえったアリシアが真っ赤な顔で開き直ったように怒鳴った。
「……ええ、わたしはルシアス様にぎゅっとされるのが好きですよっ。大切なんです、あなたが、とても!」
酔いが一気にまわった気がした。
あんなに弱い酒。それも、たった二杯しか飲んでいないのに。
身体をめぐる熱から気をそらそうと努めながら、彼はゆっくりと言葉をおしだす。
「…最近、眠れない日があると言っていただろう。」
「…ええ…?」
「夫婦の営みはね、安眠効果があるんだよ。私は見境なく背後から襲いかかるような愚かな獣ではないからな。そなたが望むときだけ私の鎖を解き放てばいい。疲れ果てて眠るまでそなたのすべてを愛でてやろう。だから我慢するなよ?」
小ぶりで張りのある乳房をまさぐり、華奢な背中に吸いつく。
「そなたは最高の女だ。」
「…ぁ…や、あああっ。」
悲鳴に似た嬌声が弾ける。
求愛の夜は、はじまったばかり。
ドロドロに溺れるまで、とことん甘やかすのだ。
最愛の存在が深い息をはき、私の腕のなかで花が咲き誇るように笑うまで。