7・廃墟の町
ミリムに言われるまま、セレルはロラッドと共に倉庫を出てみる。
泥に埋もれて風化した、廃墟の町が現れた。
建物の壁には粘り気のある土がこびりつき、長らく出入りのない様子が伝わってくる。
重くしめった風が吹かれながら、ロラッドは目を細めた。
「ひどい土だな。呪いか?」
ミリムは悲しそうに、首を横にふる。
「呪いかは、わかりません。ここは豊かな植物の恵みによって栄えていましたが、ある日突然、土地が悪くなったのです。人々は町を捨てて出てゆき、今残っているのは私と父上だけです。ですから手違いとはいえ、あなたたちは久々の来客です。これから私はモモイモを探して、ささやかながらもてなしの食事を用意したいと思っています。少しお待ちください」
ミリムは廃墟の町に背を向けて、倉庫の裏手に回る。
そちら側には広い泥地があり、少女はそのあたりできょろきょろとしはじめた。
セレルは心配そうにつぶやく。
「まさか、あの土地で作物を育てているのかな」
「あのくらいの年頃なら、泥遊びじゃないのか」
セレルも泥地へ向かう。
その土地は畑だったのだろうが、肥えた土壌とは言い難く、妙にねばついていた。
しなびたカブのようなイモがいくつか見つかったが、その大部分に、不健康なシミができている。
セレルは地面を観察しながらモモイモを探す、小さなミリムの背中を見つめた。
「あの子、この土地でも作物が収穫できるように、実りの女神を呼ぼうとしていたのかな。年齢よりずっとしっかりして見えるのに、あんな怪しい絵本に頼って……」
「父親も止めるどころか、煽ってた節すらあったな……。だけど、セレル、わかってると思うけど、」
「うん。見て」
セレルは得意げに、拾ったモモイモをロラッドに見せる。
先ほどのシミは消え、どことなくみずみずしい薄紅色の表皮となったモモイモを、ロラッドは手に取った。
「セレル、さっそく誇らしげに逆うのか」
「逆らう? モモイモを食べられるようにしたんだよ」
「俺以外にはこき使われないようにって、覚えていないのか」
「覚えてるよ、強烈すぎて。だけど私たち、食べ物を粉々にして、完全に加害者だし……。ミリムはまだ育ち盛りなのに、ご飯が食べられないと身体が大きくならないよ。あの暑苦しい父親も、会った時からずっと騒いでいるし、このまま食べなかったら倒れてしまうかもしれないじゃない」
セレルは熱心に訴えると、もの言いたげなロラッドのことは気にせず、遠くにいるミリムに手をふった。
「ミリムー! きれいなモモイモ見つけたよー!」
セレルが浄化したモモイモを渡すと、ミリムは急いで父の元へ持っていく。
それを見たカーシェスは、狂ったように娘を褒めちぎり、さっそく料理の準備に取りかかると張り切っていた。
その間、セレルとロラッドは、ミリムに連れられて、近くの防具屋へと出かけることになる。
「さすがに血まみれでは嫌でしょう。ぜひ着替えてください」
ミリムによると、防具屋の店主が商品をそのままにしてこの町を立ち去ったため、服が大量に残っているらしい。
すっかり泥棒になった気分のセレルは、聖女というよりは盗賊のように身軽な服を選んだ。
その後ロラッドが、どう見てもピエロのような服を身につけてきて度肝を抜かれたが、ミリムはたいそう気に入ったらしく、笑い声を押し殺してずっとうずくまっているので、彼女が窒息死するからと頼み込み、無難な服装に変えてもらう。