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【完結】僻地がいざなう聖女の末裔  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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20・目覚め

 見慣れたミリムの部屋で、セレルは目を覚ました。


 日の差し込む窓際に、ツインテールの少女の後ろ姿がたたずんでいる。


 顔を見なくても分かった。


 元気がない。


 なぜ、という疑問と同時に、様々な出来事が思い出されてくる。


 荒らされた畑、襲い来る一角獣、そして自分をかばって襲われた、血まみれのロラッドの姿。


 セレルは青ざめて、横たえた体を起こそうとする。


 物音に気付き、ミリムは振り返った。


 寝台から起き上がろうとするセレルに気づくと、それを制するように駆け寄ってくる。


「セレル、まだ動けるような状態ではありません。寝ていてください」


「私よりロラッドが……!」


「だいじょうぶです。セレルが彼に癒しの力を施したのでしょう。彼の怪我はずいぶんよくなりましたが、あなたは気を失って丸一日、目を覚まさなかったのですよ。今はあなたが安静にしている番です」


 セレルは信じられないように、ミリムに念を押す。


「ロラッド……あんなにひどかったのに、無事なの?」


「はい」


「この家に、いるの?」


「はい」


「ひとりでどこか、行ったりしていない?」


「本を読んだり、この周辺に出かけたりはしていますよ。守護獣について、調べているのだと思います。いつも通りです」


 それを聞くと、セレルはミリムに促されて体を横たえる。


 義母妹と暮らしていた時のように、身体が沈みこむような倦怠感に包まれていた。


 気を失うほど無理をしたのは久々だったが、あれほどの怪我をしていたロラッドが無事だと知れば、軽い代償に思える。


 ミリムはそばにあるテーブルに手を伸ばすと、かわいらしくほほえんだ熊の形をした瓶を手にした。


 その蓋である首をためらいなく取ると、テーブルにあるコップに黄色い液体を注ぎ、セレルに渡す。


「飲んでください。ミリム特製栄養ドリンクです」


 自分の名前を冠しているあたり、自信作なのだろう。


 セレルはその意気込みに期待して、ミリムの手を借りて上体を起こすと素直に口をつけた。


 すぐに飲んだことを後悔する。


「苦みと辛みが絶妙な配分で混ざり合っていて、まずいね」


「はい。置き去りにされた道具屋からありがたくいただいた、滋養強壮に効くモラウの葉とレムシリの根を、惜しげもなく配合しましたから」


「そんな貴重品と言われるとなおさら……味も悪いし、色々飲みにくいよ」


「文句を言わず従ってください。それを飲んでまた、セレルには浄化モモイモを作ってもらいたいのです」


 セレルは気軽に相槌を打つ。


「もちろん。このミリムのまずいドリンク飲んだらすぐにでも」


「今は体力の回復が最優先です」


「でも少しくらいなら」


「そういう意地を張るのはやめてください」


「だけど……」


 ミリムはわざとらしく、ため息をついた。


「なるほど。ロラッドがセレルに会いに来ない理由がわかりました」


 思わぬ言葉に、セレルはまばたきをする。


「ロラッドが?」


「そうです。父上の方がまだマシです。セレルと一緒にいるのは疲れます」


 セレルは不満げに黙り込んだ。


 常に大声でわめいてわずらわしい人より、一緒にいて疲れるというのは、どうにも納得がいかない。


「農園は元気になってからでいいのです。畑はロラッドと父上が見張ってくれていますが、守護獣はあれから来ていませんし」


「あの一角獣、やっぱりこの土地の守護獣なの?」


「おそらくは。しかしこの病んだ土地に、あの病んだ守護獣だとすれば、納得の姿でした」


「どういうこと?」


「ロラッドが言うには、あの一角獣とここの土地は互いに影響を与えているそうです。どちらかが病めばもう一方も病むのが自然です。私たちが農園をはじめてから、浄化モモイモで土地がわずかながら健康な状態を取り戻したので、守護獣もわずかながら力が出て畑に現れたようです」


 セレルは浄化モモイモを食べ荒らし、ひたすら自分に襲いかかってくる一角獣の姿に胸が疼く。


 セレルに対する執拗なこだわりは、体の蝕みを癒すために聖女の血を求めてたのかもしれない。


 襲われたことは今でも恐ろしいが、身体が弱っているときのつらさを知っているセレルは、責める気にもならなかった。


「そうだ、畑はどうなって……」


「見るのは構いませんが、無理はしないと約束してください」


 念を押されてから、セレルはミリムの助けを借りて、ふらつきながら立ち上がり、窓から畑を眺めた。



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