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33 エルレナとゴレアム(後)

 ガルギルが村にやって来てから、ゴレアムの工作熱は高まりいつの間にかガルギルとゴレアム二人で工作所にこもることが多くなった。


「エルレナサン、勉強デスヨ、ドンナ時デモ知識ハ裏切リマセン」


「はぁ……」


 ひとり取り残さたエルレナは大きくため息をついていた。

 ゴレアムの勉強用ロボが勉強以外の面倒もある程度見てくれていた。


「お爺様、いつまで研究ばかりやってるのかな……」


「魔導機工士デスカラ、研究スルコト二、疑問ナドアリマセン。エルレナサンモ沢山勉強シテ、一人前二ナリマショウ」


「はぁ……」


 何を聞いても最後には勉強のことばかり言われてしまうこのロボに嫌気がさしていた。


 素性の知れないガルギルはゴレアムのかつての魔導兵器に感銘を受けてここまでやって来たらしい。

 ゴレアムとの共同研究に没頭しているため、エルレナと会うことはほとんどないが、接する時には物腰柔らかく笑顔で接してくれるため、悪い印象はなかった。


 何の研究をしているのかは教えてはもらえなかった。

 ガルギルも機工士ではあるようで、意見を出し合い日夜何らかの作業をしているようだった。



 小さいとはいえエルレナも魔導機工士の端くれ。

 作業に没頭し集中するゴレアムの邪魔をしてまで構ってもらおうという気はなかった。

 心のどこかで完成品を見せてもらえる日を楽しみにしている部分もあった。


 だが、完成品が見れる日など訪れることなく、事件は起こる。


 共同開発を始めて数ヶ月だったある日、ゴレアムの叫び声が聞こえて来た。


「ぐあぁぁぁぁぁ!!!」


 研究室からの悲鳴を聞きエルレナはすぐに足を向ける。


「なにこれ……」


 数ヶ月ぶりにエルレナが見た工作所には見たことない巨大な魔導兵器のパーツが散らばっていた。

 細々とした部品の細部から見える確実に人を殺すために用意されたであろう武器の数々。


 そういうことを望まないがために村人からも離れていたゴレアムがなぜこんなものを……


「やあエルレナちゃん。こんな所に来てしまうなんてついてないねぇ」


 背後から声をかけて来たガルギルの体には大量の血がついていた。

 ゴレアムの返り血……


 エルレナはガルギルから距離をとった。


「そんな怖がった顔をしないでくれよ、寂しいじゃないか」


 ガルギルはトレードマークとも言える深く被った帽子を外した。


 初めて見るガルギルの素顔にエルレナは息を飲んだ。


「悪魔……」


 額から伸びたツノに長い耳、トレードマークと思われていた帽子は自らを魔族であるとバレないようにするためのものでしかなかった。


「なんでこんな素晴らしい殺人兵器を作れたゴレアムさんが急に作るのをやめちゃったんだろうねぇ」


 魔族の姿をさらけ出してからもガルギルの口調は穏やかなままだった。


「まあいいや、ようやく設計図は手に入れられたんだよ。これでもうこんな工作所には用はないんだ」


 ガルギルの手にはくちゃくちゃに丸められた紙の束が握りしめられたいた。


「初めからそれが目的でここまで来てたんだ……」


「この素晴らしい技術は魔族の技術者界隈でも一目置かれるほどだからね。こんな辺鄙な村の外れでつまらない研究を続けて死んでいくくらいなら、我々と一緒にこないかって提案したんだけどね。フラれちゃったよ……」


「だからお爺様を……?」


「ゴレアムさんさぁ、最後までエルレナちゃんのことを心配してたよ……でも仕方ないよね、こっちの依頼をゴレアムさんの流儀で断ったんだから、俺は俺の流儀で返答したんだ」


「許せない……」


 エルレナの体に青い電流が走りだす。


「へぇ、珍しい色の電流だ……まあ心配いらないよ、君もすぐゴレアムさんのところへ連れて言って上げるつもりだか……」



バリィィィィィィィィィィィィ…………


 言葉を言い終える前に青い雷がガルギルの体を貫いていた。


 穴の空いたガルギルの体がゆらゆらと歪んでいく。



「なるほどね……大した威力だ……ゴレアムさんが君を大事にしている理由も理解できた」


 別の場所からガルギルの声が聞こえる。



 本体じゃない。

 もしかしたらここにいるガルギル自体、本体ではないのかも知れない。


 そんなこと気にする素振りもなくエルレナは走り出した。


 ゴレアム……


 姿の見えない優しかった祖父を探しに研究所の奥へ向かっていく。

 エルレナにとってガルギルが偽物であろうがどうでもいいことだった。

 


「お爺様ぁぁ……」


 ゴレアムのいる場所はすぐに見つかった。

 困ったことがあるとすぐに閉じこもる小さな小部屋。


 血を流しうずくまるゴレアムの姿にエルレナは涙を止められずにいた。


「エルか……」


 まだ息がある……

 エルレナは急いでゴレアムに駆け寄る。


 尋常ではない出血量。


 小さいエルレナにでももう助かることはないことが察せるほどのものだった。


「ダメだな機工士って生き物は、欲など等に捨てたはずなのに……つい甘い話に乗ってしまった」


「うう……お爺様……なんでこんなことに……」


「エル……よく聴いてくれ……儂にとってお前は希望だ……」


「私が?」


「儂が叶えられなかった夢、お前なら叶えられるかもしれん……」


「できないよ……お爺様みたいな立派な魔導機工士になんて私なれない……」


「お前の持つ青の電流は『魂の雷』と呼ばれる異端な能力だ、本当ならもっと色々なことを教えてやるはずだったのに……」


「そんなこといらないよ……ずっとお爺様がいてくれるだけでよかったのに……」


「すまないなエル、最後まで寂しい思いをさせてしまって……」


 ゴレアムはそう言い残し、なにも語らなくなった。


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