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32 エルレナとゴレアム(前)

エルレナの過去です

「おーいエルよ、相変わらず電気の調整がなっとらんなぁ」


「えへへ、でもすごいんでしょ? 私の青色の電撃って」


 白髪の老人が10歳にも満たない少女エルレナに困った顔をしながら語り掛けていた。


「エルよ、魔導機工士にとって雷魔法の性能は切っても切れないものだがな、芯となるのは作成する機械へどれだけ愛情を注げるかなんだぞ」


「よくわからないです、しっかり設計した通り組み立てて動力部に雷魔法で燃料を与えてあげれば魔導兵器なんて動くものだと思うんだけどなぁ」


「ソンナコトナイゾ!」


ガシャン……ガシャン……


 片言の言葉を喋りながら、木の枝のような棒で無理やり人型に組み立てられた魔導兵器がエルレナの元に近づいてきた。


「うわぁぁ……また来た、ゴレアム2号……」


 エルレナはその魔導兵器が嫌いで近寄るゴレアム2号を見て顔をしかめた。

 老人の名はゴレアム、その名を冠したゴレアム2号と呼ばれる魔導兵器は老人の自身作であるからこそ、自身の名を付けるほどのものであった。


「サア、今日モ練習デス。魔導機工士ハ一日二シテナレズナノダ!」


「いやぁぁ!!」


 ゴレアム2号はエルレナを無理やり連れて行こうとする。


「エル。お前は本当に優秀なんだ、知識を付ければ儂の夢を叶えられるかもしれん……」


「いやっ! 勉強なんて大っ嫌い!」


 強引に連れて行こうするゴレアム2号をエルレナは無理やり引き離した。


ガシャァァァン……


 そこまで強い力ではなかったが、作りの甘いゴレアム2号はバランスを崩し倒れてしまった。


ジ……ジジジ……


 倒れた衝撃でゴレアム2号のコアにあたる心臓部から煙がでる。


「勉強……べ……ン、キヨヨヨヨヨヨヨヨヨ…………」


「ひぃぃ……怖いよぉ……」


「うむ……調子が悪いな、この程度の衝撃で根を上げてしまうのか……」


 エルレナは半ベソを描きながらゴレアムに抱きついた。


「お爺様ぁ、私この魔導兵器苦手。勉強を教えるのならそれ専用にすればいいのになんで会話をさせたり、人間みたいに歩かせたりする必要があるの?」


「なんで? フフフ……そんなこと当然だ、魔導兵器だって同じことをやるよりも会話できたり、歩けたりする方が嬉しいだろ」


「嬉しいって、魔導兵器がそんなことを感じるってこと?」


「もちろんだ」


「え〜〜……機械って言われた通り動くことが大事なのに『嬉しい』とか『悲しい』って感情なんて必要ないんじゃ」


「それじゃ二流だな……やはり勉強が必要だ」


 ゴレアム2号はゴレアムの口癖をインプットしてあるため、口調や癖はゴレアムとほとんど変わらないものだった。

 だからこそ尚更エルレナはゴレアム2号に口やかましく言われることを嫌に思っていた。


「もったいないなぁお爺様。物凄い技術力だってみんな言ってるのに、そうやって変な機械ばかり作ってるから人が離れて行っちゃう……」


「変な機械なんて作っていない、儂がやっているのは今後の魔導機工士の歴史を変えるほどのとてつもないことだ」


「それがこの2号ですか?」


 しばらく煙を出していたゴレアム2号は片言のおしゃべりもなくなり、動かなくなっていた。


「これはまだ発展途上なんだ、いきなりうまくいく設計なんて魔導兵器には存在しない」


「それにしてもこんなヘンテコ機械に偉大なお爺様の名のついた2号を名乗らせるなんて……」


「すごいだろ? 2号は自分で考えて言葉が喋れるまでに辿りついたんだぞ」


「全然すごくない! 魔導兵器は必要な役割を果たしてくれればいいんです」


「違う! 儂は作って見せる、『心』を持った魔導兵器を!」


「そんなもの作れるわけない……」



 10にも満たない子供と70を越えてる老人の口喧嘩。

 それは毎度毎度の事だった。


 『心』を持った魔導兵器。


 他からは浪漫で片付けられてしまう様な壮大な取り組みにゴレアムは誰の協力も求めずひとりで立ち向かっていた。



 魔導機工士の集まる村『デルアン』では深刻な跡継問題が起こっていた。

 機械いじりが好きすぎる民族が祟ってか、子供を産もうとする者がいない。


 それはこの村に古くから根付く「子育ては機械から逃げた者のやること」という悪しき風習も災いしている側面もある。



 村始まっての秀才と呼ばれたゴレアムの息子は、その村の悪習を嫌い純愛の果てに産まれたエルレナを置いて村を出て行ってしまった。


 すでにこの村に子供はエルレナしかいなかった。

 過疎化が止まらないこの村には不穏な気配が漂っていた。



「失礼しまーす」


 エルレナとゴレアムが拠点とする工作所に聞きなれない男の声が響く。


 若そうな声。

 村から外れたこの場所に村人が訪ねてくることなど今やほとんどない。



「珍しいな、客人なんて」


 出迎えに出たゴレアムは相手を見て足を止める。

 村の者ではなかった。


 帽子を深くかぶったすらっとした者。


「なるほど、ここで様々な魔導兵器の開発を行っているのですね」


 キョロキョロと工作所を覗き込む男に初めは警戒していたゴレアムだったが!あまりの無邪気な態度に態度がほぐれていった。


「ここに何の用だ? 本来工作所は同じ村の者でも立ち入りを禁じるほどの機密の場所だぞ」


 厳しめに話すゴレアムを見て、男は姿勢を正す。


「失礼しました。つい夢の様な場所に心が弾んでしまいました」


 姿勢を正した状況でも男は深く被った帽子を取ることはなかった。

 その帽子をわずかにずり上げ、ゴレアムと目を合わす。


「今日はお願いがあってここまでやってきました」


「お願い? 普通の依頼なら他に適任の村の者がいるぞ」


「いえ、俺……いや、失礼。私はゴレアム様だからこそとここまでやって来たのです」


「ほう……」


 男の本心を探る様にゴレアムが目を見開いた。


「私の名はガルギル。以後よろしくお願いいたします」

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