20 兵士の特訓
「クラムさん。まずはスキルを成長させましょう!」
「成長? 戦闘でレベルを上げるってこと?」
「それも方法のひとつです。クラムさんのもつ兵士の中でも戦闘職の『傭兵』『狩人』は戦うことで強くなるんでしょうけど、『盗賊』や『盾騎士』といった兵士達はそれだけでは強くなっていかないと思うんです」
「まあ確かにレベルが上がったの自体傭兵だけだったもんな……」
「スキルですから、使う用途に併せて鍛えていけばどんどん強くなっていくと思うんです! 一緒に修行しましょう!」
……という訳で、なぜかエルレナちゃんと修行をすることになってしまった。
お願いされた傭兵の涙をここで見せるっていうのは結局できなかった……
泣けって言って泣くものでもないしな……
それよりも兵士達がまだ育ってないということを知ってからエルレナちゃんの育成魂に火がついてしまったらしい……
俺としてもスキルが成長するのはすごくありがたいことだ。
この第二階層じゃ、そこら辺にいる雑魚モンスターにすら今の俺じゃ太刀打ちできそうにないもんな……
それにひとりでいるのは心細かったし、仲間ができたのはありがたいことだ!
「よいしょっと!」
エルレナちゃんが隣の部屋から大きな鉄の塊を運んできた。
なんだこれ……?
まさか……修行とか言ってたし、この鉄の塊をひきづって体力作りでもさせるつもりなんじゃ……
ウイィィィィィン……
鉄の塊から音がして、ガチャガチャと動き出した。
鉄が細かいパーツのようなものに別れたりくっついたりというのを繰り返していき、徐々に人型になっていく。
「すごい、さっきまで鉄の塊だったのに、俺の兵士達くらいのサイズのロボットになった」
ロボットの目にギラっと光が宿ったと思ったらロボが動き始めた。
「これもエルレナちゃんが作ったの?」
「はい。これくらいなら」
「すごいな、そういえばこのロボ、第一階層でみた宝を守ってたゴレアムに似てるような」
大きさは全然違うけど、ミニチュアゴレアムって感じだなこのロボは。
「クラムさん、ゴレアムを知ってるんですか?」
「え、うん。うちのギルドで把握してるモンスターだったから名前と特徴くらいは」
10何年もやっていたギルドの事務仕事の中で魔導兵器ゴレアムって割と耳にすることのあるモンスターだった。
強敵だから倒したっていう話は聞いたことなかったけど。
「そっか……ゴレアムはモンスター扱いされちゃってるんですね……」
あっ……エルレナちゃんがまた悲しそうな顔になった。
なんだかこの子はたまにこんな感じで悲しそうな顔になる時がある……
「ご、ごめん。俺、何か変なこと言っちゃった?」
たったひとりでダンジョンにこもっているのも不思議だし、何か理由があるんだろうな。
「大丈夫です、大丈夫……」
まるで自分に言い聞かせるように返事されたけど、全然平気じゃなさそうな顔だ。
結構難しい子なのかな……
「すみません。さ! 修行を始めましょう!」
今度は急に元気になった……女心は本当に難しいな……
暗くなるのは嫌だし、ここは言われた通りに行動しておくとするか。
「修行ってのは、俺がこのロボと戦えばいいのか? 俺、弱いから下手すりゃこいつに殺されちゃうかもしれないよ……」
「ふふ……違います、この子は傭兵くんの修行のために連れてきたんです、傭兵くんを出してもらえますか?」
あ、俺じゃなくて兵士達を戦わせるってことね。
ポンッ!
「ウォォォォ!」
出現させた傭兵は早速ロボに気がついたみたいだ。
「察しのいい子ですね、このまま戦ってもらいましょう」
ロボが傭兵に向けて剣を構えた。
「エルレナ9号。向かってくる傭兵くんに修行をつけてあげて!」
ピピピピピピ……
エルレナちゃん自身の名前を冠したロボが命令に応答するように反応した。
キィィィィン!
早速繰り出した傭兵の件をロボが剣で受け止めた。
剣を止められても傭兵はロボに攻撃を仕掛けていくが今度は素早く回避された。
「おおぉ……倒せそうで倒せない、いい勝負だ」
「私のロボにいい勝負になるようにインプットしてあるんです、修行用なので」
「そうなの? じゃあ敢えて傭兵が倒せそうで倒せないレベルの強さに設定してあるのか」
「そうです。それが一番成長するんで」
この『エルレナ9号』ってロボ。考えて作られてるんだな。
「ロボットっていうのは、みんな自分の名前をつけるものなのか?」
9号ってことは少なくても前に8体は作られたロボがあるってことだよな。
「自信作や、自分の本当に作りたい機械に自分の名をつけることは多いですね、うちの一族は代々ロボットに自分の名をつけているんです」
「へぇ……そういうものなんだ……」
機会の世界ってちょっとしたロマンだよなぁ。
すごいよな、はじめは鉄屑だと思ったものからこんなロボが作れちゃうんだもんな。
傭兵は倒せそうなのに倒せないロボに苦戦しながらも、くじけずに攻撃を仕掛け続けてた。
「ずいぶん、攻撃を続けてるのでそろそろいい頃かもしれません、ステータスを確認してみてください」
「確かにそうだな、どれ」
ボシュッ!
傭兵を俺の意思で消滅させた。
一生懸命ロボと戦ってたけど、これで強くなったのかな?
■ ■ ■ステータス■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
名前:クラム
性別:男
年齢:43
所有スキル
最強軍団
スキルレベル:16
CP:21/21
[兵士]
傭兵 (CP1) Lv3
狩人 (CP2) Lv1
盗賊 (CP2) Lv1
・ユニークスキル:アイテム優先
盾騎士(CP5) Lv1
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「おっ! すごい。本当に傭兵の兵士レベルが上がってる!」
「やっぱり! 読みが当たりましたね! 傭兵くんはちゃんと鍛えれば強くなれるんです!」
すごい。
このままエルレナ9号に鍛えて貰えれば俺の傭兵は相当強くなれるのかもしれない。
「すごいな魔導機工士って、機械ってめちゃくちゃ便利なスキルじゃないか!」
あれ……また、エルレナちゃんの表情が曇った……
「そう……だから悪いことにも利用されることが多いんです……」
「エルレナちゃん、えっと……言いにくいことなら言わなくてもいいんだけど。一体何があったの?」
ずっとどこに地雷があるのかわからないまま一緒にいるのはさすがに辛すぎる……
こんなこと聞いて嫌われちゃったら嫌だけど……
エルレナちゃんの俺の顔をじっと見つめてきた。
うっ……悲しいそうな表情だけど、そんな顔も可愛い……
大きな瞳で見つめられると俺の下心まで見透かされそうでちょっと不安になる……
「クラムさん。ゴレアムをモンスターだと言ってたじゃないですか」
「えっ、ああ……魔導兵器ゴレアムね。それが何か?」
「ゴレアムは私のお爺様の名前なんです……」
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