2 最弱モンスターにすら手こずる能力
長年所属していたギルドを追放された……
それだけならいい、俺を追放したことがバレないようにこんな誰も入りもしないようなダンジョン押し込まれた……
俺がいた『ゴッティ』は自分でもわかるくらい身の丈に合わない一流ギルドだった。
組織ってのはデカくなればなるほど世間体や体裁を気にするもんだから、いつもクエストで死傷者を出さないように気を使ったり、変なトラブルが表に出ないようにしている部分はあった。
だからこそ俺の『最強軍団』なんていう名ばかりのスキルを持っているだけの奴を長い間解雇もせず雇っていてくれたってところはあるんだろうけど……
それにしてもこれはひどくないか?
いくら邪魔だとしても、弱いことが分かってる俺を一人でいわく付きのダンジョンに捨てていくなんて……
俺なりに精一杯ギルドに尽しては来たんだぞ!
クエストから帰ってきた後輩達にキンキンに冷えたお茶を出したり、攻略可能なダンジョンをレベルに見合うように振り分けしてたのも俺だ。
…………虚しくなってきた……
追放されたギルドのことなんて考えるのはよそう、それよりもここをどう脱出するかだ。
異空間の入口は入ってきてからすぐ閉じてしまい外に出れなくなってしまった。
これが脱出不能っていう理由だったみたいだ。
ここは岩でできた薄暗い洞窟だ、入口は無くなってしまったけど出口はどこかにあるはずなんだ、それさえ見つかれば……
でも外へ出てどうする?
ゴッティに帰ったとしても居場所なんてない……
もし外にでることができたらギルドから足を洗って普通の職業をして生きていくとするか。
飯屋でもやるかな、得意料理なんてないけど……
まぁとにかくこんなジメジメした暗い洞窟からは出て行きたい、出口を見つけるんだ。
周りに人はいない……
ここなら心置きなくいける!
ポンッ
「ウォー!」
威勢のいい掛け声と共に傭兵が出現した。
こいつを出すためにはCPっていう俺の中のエネルギーを必要とする。
CP:0/1
傭兵を出したからCPは0になった、俺の最大CPは1しかないから傭兵も一体出すだけで限界だ。
これが俺の『最強軍団』スキルで出せる兵士。
普段は人を見つけると向かっていって攻撃しちゃうから気軽に出せないけど、このダンジョンなら心置きなく使える。
「少しは役に立ってくれよ」
出口さえ見つかればいいんだ、この傭兵だって多少は動いてくれるだろ。
肩をポンと叩くと傭兵は「ウオー!」と威勢よく返事した。
気持ちはバッチリだ! 頼むぞ。
久しぶりの出動で張り切っているのか傭兵は駆け足で進み出した。
おお、元気がいいな。
その調子でどんどん探し回ってくれよ。
リードを外した犬のように走り回ってはキョロキョロと何かを探して動き出す、せわしないけど今は心強く感じる。
お前だって出番がなくて寂しかったんだよな、これからは危なくないところで使ってやるからな。
そのためにもまずはここを脱出だ!
「ウオー!!」
傭兵がさっきよりも威勢よく声を上げた。
まさか出口!?
どこへ行った? あちこち動き回ってたせいで見失って声しか聞こえなかったぞ……
「は……?」
ポコン! ドカ! バキ!
「ウオー!」
なんか殴ってるような音がしたぞ……
まさか……
音のする方へ進んでいくと案の定だ……
モンスターだ……
いきなりモンスターと戦ってる!
こいつ、張り切ってると思ったらモンスターを探してたのかよ……
「バカ! 今はそんなのと、戦ってる場合じゃないんだよ!」
相手はモンスターの中でも最弱のスライム。
そんなやつ相手でも俺は一人じゃ多分勝てない……
それくらい俺とこの傭兵は弱い。
バシィ
スライムの体当たりをくらって傭兵が吹き飛ばされゴロゴロと転がった。
俺の作った兵士はダメージを受けて体力がなくなると消えてしまう、まだ消えてないってことはギリギリ体力は残ってるみたいだ。
「ウオー!」
あのバカ……
一度引けばいいのに、また突っ込んでいった……
手持ちのボロそうな剣で何度もスライムに斬りかかっているけど、全然ダメージは与えられてない。
「もういい、戻れ!」
何度俺が引き止めても傭兵は攻撃の手を止めることはなかった……
ボシュゥゥゥゥ……
ああぁ……スライムにまた攻撃を受けてついに消えてしまった……
こりゃまずい……
スライムに見つからないように俺は岩場に身を隠す。
期待した俺がバカだった。
やっぱりこのスキル全然役に立たないじゃないか……
命令も聞かないし、勝手にモンスターを見つけてくるし……
スライムが俺のことを探してる。
ギルド奴らに見られたら笑い転げるだろうな、最弱モンスターにやられそうになったおっさんが逃げ回ってるって……
CPは数分待っていれば回復するはず、それまで見つからなければまた傭兵を出してそれをおとりにここから逃げ出せる。
でもこの先にもモンスターがいたら……それこそ終わり。
巨大ギルドゴッティに所属していた古株クラムさんはダンジョンに入って最初に出くわしたスライムから逃げて次にあったモンスターに無残に殺されましたってか……
情けなさすぎる……
ずっと行きたかったクエストに、ダンジョンにようやく来れたんだぞ!
CP:1/1
よし、回復した! これでまた傭兵も出せるようになった。
スライムなんて駆け出しの奴だって倒せる最弱モンスターなんだ、俺だって!
ポンッ!
「ウオー!」
傭兵一体じゃ倒せなくても、俺も戦闘に加われば!
ポコン! ポコン!
クソっ……これが攻撃を当ててる音かよ……
情けなくて涙がでる……
しまった、油断している隙にスライムが俺に向かってきた。
ドンッ……!
単純な体当たりだった……
それなのに俺の体は岩の壁まで吹き飛ばされた。
「がはっ……」
これが最弱モンスターの攻撃……
こんなやつよりも数倍強いモンスターとギルドの奴らはいつも戦ってるのか……
壁に打ち付けられ、地面に倒れ込んだ。
強い……俺一人じゃ勝てない……
「ウオー!」
傭兵はまた勝ち目もないのにスライムに何度も攻撃をしてる。
挫けないなあいつは……
俺だって、どうせこんなところで死ぬくらいなら……
グッと手を握りしめたとき、手に何かが触れる感触があった。
これは?
握り拳程度のただ岩石か……
いや、よく見るとひび割れた奥から綺麗な宝石が見える。
七色に輝く不思議な宝石だ、値打ちがあるものなのかな?
ここで死んだら何の意味もない石だ……それなら!
岩石を握りしめた。
傭兵はまだ頑張ってる、俺だってまだくたばってないんだ!
宝石が包まれた岩石を握りしめてスライムに近寄った。
この岩ごとスライムにぶつけてやる。
少しはダメージもあるだろ!
「おりゃぁぉ!」
バキィ!
岩を握りしめた俺の拳はスライムにガツっとヒットした。
パァァァァン
今のが致命傷になりスライムは粉々に散らばった。
「やった……」
はじめてモンスターを倒した!
「ウオー! ウオー!!」
傭兵も勝利の雄叫びを上げる。
散々な戦い方だったけど、なんとかこの場をやり過ごせた!
ほっと一息をついたその時だった……
ピキピキ
手に持っていた宝石にヒビが入っていく……
あーあ、もったいない。
今の攻撃で壊れちゃったのか……
パキィ
割れた宝石から光が溢れてきた。
なんだこれ……?
はじめてみるぞこんなの。
ースキルレベルが5上がりましたー
えっ!? なんだ今の声??
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