19 魔導機工士エルレナ
傭兵があっさりと……
なんだこの機械は……?
「この部屋で私に向かってくるものがいると今みたいに自動で守ってくれるようにしてあるんです」
「これがさっき言ってた防衛装置」
近寄る傭兵に合わせてすぐに起動して、それから即攻撃をした。
なんかすごい機械だ……
「はじめは狙う対象を私以外の部屋に入った人にしていたので、急いで設定を変えたんです」
おい……それって俺もあの機械のレーザーに焼かれるところだったってことかよ。
「私以外の人間が入って来たのは初めてだったから、機械も混乱しちゃったんですね、再調整しなきゃ」
「ちょっと待って、この機械って君が作ったの?」
こんなすごい装置をこんなに若くてかわいい子が作れるもんなのか?
「はい! 『魔導機工士』というスキルの力です、私の家系は代々この力を持っていて魔力と機械を融合させられるんです」
そっか、ハイオークを倒したのは魔法っぽかったもんな。
あれだけの魔法が使えるってことはこの機械の性能も相当って訳だ。
「すごいな……こんなに若いのにスキルを使いこなすなんて」
「いえ、私なんて全然……本当に全然まだまだです」
また表情が曇った。
一人でここにいるのも不思議だし、何かよっぽどの理由があるんだろうな。
「そういえばまだお名前も聞いていませんでしたね、私はエルレナと言います」
「あっ!」
しまった。そういやそうだ……
こんなの男の俺から聞かなきゃいけないことなのに……
「ごめん……俺から聞かなきゃいけないのに……俺はクラムだ」
謝った俺を見てエルレナちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「ふふ……クラムさんって面白い人ですね」
と思ったら今度は笑い出した。
不思議な子だ……何考えてるかわからない。
面白い……か。
ギルドでは、クエストで使えるかどうかが全てだったから俺なんて大概の奴らからバカにされてたもんな。
「そんなこと言われるのはじめてだ……」
「ええっ、そんなことってあります!? 誰でも一度くらいは言われた事あるんじゃ……」
そんなに驚かれることなのか……?
面白いってのは言われた記憶はないなぁ……
「ほら、俺のスキルって弱い上に味方まで攻撃しちゃうからさ。そのせいで『役立たず』とか『ポンコツスキル』とばかり言われてたから、スキル名だけは『最強軍団』なんて大層な名前してるのにな」
「最強軍団!?」
ほら、やっぱりこの子も同じだ……
名前負けした俺のスキルを内心バカにしてる。
「俺もわかってるんだ……こんなスキル名だけど、兵士は弱いし、戦闘で役に立てないって。それでもダメなのは俺で、俺がもっと上手く使ってやれれば本当に『最強軍団』にしてやれるって思ってた時期だってあったんだ」
「クラムさん。そんなに自分自身のスキルを悪く言ったらいけませんよ」
「え……?」
「『機械を使うのは人。使えないことを機械のせいにする人は機械から愛想を尽かされる』この言葉は私の尊敬するお爺様の受け売りなんですが、きっとスキルも同じで、全ては使い様なんだと思います」
使い様……か……
「俺のスキル。俺の兵士達は俺に上手く使ってもらえなくてずっと悔しい思いをしてきてたのかな?」
「スキルに感情ですか? ふふふ……そうですね、もし心があったとしたのならそうなのかもしれませんね」
「心? 兵士達に感情ならあると思うけど」
むしろあったらまずいことだったりするのか?
そんなことに疑問を持ったこともなかったけど……
「ふふ……クラムさんって本当に面白い。スキルって機械と同じ様に自分にだけ使うことを許される道具のようなものですよ」
「まぁ、そうなんだろうけど」
「はい。炎の魔法を使ったとしてそれがどれだけ上級魔法になったとしても、その炎に感情が芽生えるなんてありえないですよね? スキルに感情っていうのは私は存在しないと思いますよ、召喚魔法で呼び出したものならともかくですけど」
言わんとすることはわかるんだけど、兵士達に感情が無いとは思えない……
「うーん……」
「ごめんなさい、悩ませてしまったみたいですね。スキルに心なんてありえないんでしょうけど、私はそういうの好きです、お爺様もクラムさんみたいに機械に心を持たせようとしてたんですよ」
なんだかよくわからなくなってきた。
「エルレナちゃんの言う通りなのかな……心があると思ってたけど、思い過ごしかも。第一階層でハイオークと戦ったときに傭兵が泣いてたと思ったんだけど、あれも気のせいだったのかな……」
俺も必死だったときだからそう見えただけだったのかも。
「涙!? スキルで作られた小さい子が涙を流したんですか?」
エルレナちゃんが身を乗り出して質問してきた。
「えっ……? そう思ってたんだけど……」
言われてみたら他の奴のスキルで泣いたところなんてみたことはないけど……
「クラムさんは小さい兵士をたくさん作れるんですよね? その兵士が全員泣いたんですか?」
「あの時はそう見えたよ、確か……」
エルレナちゃんが俺の手をガシッと強く握りしめてきた。
「見せてもらえませんか? その涙を!」
兵士が泣くところ?




