18 ゴールまでの道のりは果てしない……
「こんな場所では落ち着いて話もできませんので……」っと言う女の子の誘いでダンジョンを進み、かなり奥の方にある小部屋まで連れてこられた。
このダンジョン、どこまで進んでも小部屋と四隅の扉って間取りは変わらないみたいだ。
「ここならモンスターは出てきませんので少しは落ち着けますよ」
朗らかな笑顔で微笑みかけられた。
いい匂いがする。この子はここで暮らしているのか?
ゴクリ……
女の子の部屋に入ったのなんて初めてだ。
なによりこの子、かわいいぞ。
無防備で俺を自分の部屋まで連れてきて、ナニをする気なんだ?
まさか!?
ダンジョンに来て人間に会えるってのは結構レアだよな、しかも『墓場』とまで言われるこのダンジョンならなおさらだ。
もしかしてこの子、俺を求めてるんじゃ?
まだ出会ってから数分しかたってないぞ?
でも誘ってきたのは女の子のほうからだし……
いや……待てよ。
もし勢いで行って拒否されたらどうする?
嫌がられるだけならいいけど、下手すりゃハイオークを一瞬でチリにした力が俺に向けられる可能性が……
でも……
このチャンスを逃したらもう二度とこんな子を抱くことはないかもしれない……
覚悟を決めろ!
男クラム、ここでやらずにいつやるんだ!
ウィィィィン
ん? なんの音だ?
機械が動くような音だ。
「あっ! いけない!」
女の子が急に慌てて部屋の四隅にある機械の操作をはじめた。
なんだこの機械? 柱のように部屋の中に立ってる。
色々とボタンやら画面やらがついてるみたいだけど、こんなのいままで入った部屋にはなかった。
あせあせと女の子は機械の操作をしてる。
それに反応して機械はビーと音を鳴らしたり、ピカピカと発光してる。
シュゥゥゥン…………
どれくらい時間が経ったんだろう。
4つの機械と戦う女の子をしばらく眺めてたら、機械から光が消えて部屋も少し暗くなった。
「これは? 一体なにが?」
この子は何にそんなに慌てていたんだ?
「はじめてのお客様だったので、防衛装置を解除するのを忘れてました」
俺が思ってる以上に慌ててたみたいで、女の子は汗だくだ。
人目も気にせずシャツの胸元をバサバサと伸ばし涼んでいた。
見えそうで見えない谷間に俺の視線は釘付けだった。
防御装置を解除っていうのは、何かの隠語なのか?
もしかして、冒険者なら常識なサインだったりしないよな。
この子の心の防御も解除したよ的な……
とにかく何か会話をしないと、えーっと……
「え……えっと、君はこ、ここに住んでるの?」
自分の話術が情けない……
必死に考えてこんなつまらない質問しか出てこないなんて……
「はい。ずっとという訳ではないんですが、今はここに住んでます、かれこれもう一年以上はいるかもしれないです」
「えっ、一年もここに!? 一人で? やっぱりこのダンジョン外に出れないんだ……」
こんな強い子でも無理なら俺なんて絶対出れないじゃないか……
「出たことはないんで正確なことは言えないですが、第三階層のゲートを潜れば外に出れると聞いたことはありますよ」
「第三階層!?」
ここって第二階層だよな、ここを越えてもまだもう一つあるだと……
いったいどうなってるんだこのダンジョンは。
ギルドの連中はどれだけ俺のことを殺したいと思ってたんだよ……
「外に出ることはもちろんなんですけど、私はこの場所に用があるんです」
「この場所? この第二階層ってこと?」
「そうです。ここに来るために私はダンジョンに入ったんです」
「ここに一体何が?」
俺の質問に答えたくないのか、女の子は思いつめたように悲しそうに唇を噛み締めた。
そんなまずいことを聞いちゃったのか?
このダンジョンに入ることにそんな深い理由があったのか。
「すみません。私からも聞いていいですか?」
ちょっと間を置いて、女の子は吹っ切れた様に俺に話しかけてきた。
「さっき出してた、小さい子はあなたのスキルなんですよね? おもしろい能力ですね」
「ああ、盗賊のことか。他にも何体か別の種類の兵士を出せるんだ、ここで出すと攻撃しちゃうかもしれないからできないけど」
それを聞くと女の子は目を輝かせた。
「すごい。あの子以外にも出せるんですか! 見てみたいです!」
なんかすごい興味あるみたいで身を乗り出してきた。
「いいの? 攻撃してくるかもしれないけど?」
「大丈夫です、この部屋では私には攻撃できないようになってますから」
なんだそれ? まあそこまで興味あるなら……
ハイオークを瞬殺できる子なんだし、もし兵士が攻めていっても平気だろ。
「じゃあだすよ」
女の子が嬉しそうに頷いたのを確認して、能力を発動させた。
ポンッ!
「ウオー!」
まあシンプルに傭兵でいいだろ。
傭兵は普段通りの様子で気合を入れながら現れた。
「本当だ! さっきの子とは違う!」
女の子もご満悦なようだ。
傭兵も見た目だけならちっちゃくて可愛らしいから最初は割と好印象なこともあるんだよな。
でもその直後襲い出して全てパーになってしまうけど……
まあスキルレベルも、兵士レベルも上がってるんだ。
もしかしたら人は襲わなくなっているかもしれない。
「ウオォォォォー!」
スタタタタタタッ
「あっ! バカやめろ!」
女の子に向けて、剣を構えて突撃しだした。
やっぱりダメだった、こいつは俺以外の相手には構わず攻めていってしまう。
「あらら……可愛らしい」
何してんだこの子、傭兵が攻めて来てるのに全然動じてる様子がない。
兵士レベルが上がってるんだ、いくら一体だけとはいえ傭兵でも生身の人間が、ましてや女の子が攻撃なんて受けたら下手すりゃあ大事になるぞ。
「ダメだ! 逃げ……いや、さっきのすごい魔法で倒しちゃってくれ!」
俺のスキルはいつもこうだ、ちょっとレベルが上がっても変わってないじゃないか!
結局人を襲うから誰とも一緒にいれない。
「私は大丈夫ですよ」
女の子はニコッと笑った。
ウィィィィィィィン
機械音だ。
その直後、暗めだった部屋が明るくなった。
四隅の機械がまた起動し始めてる。
そんなことより傭兵の奴、まだあの女の子に。
あああ、バカ!
本当に攻撃をっ! 剣を女の子に向けて振り下ろした。
ピッ……
その瞬間、四隅の機械から傭兵に向けてレーザー光線が発射された。
ボシュゥゥゥゥゥゥ……
レーザーに撃たれて傭兵は消滅した。




