12 オークの上位種
「フゴォ……」
怒りがおさまらない。
こんな相手は初めてだった。
このダンジョンに挑んでくるものに実力自慢のものたちは数多くいる。しかし今の相手は実力とは違う別の何かがあった。
攻撃しようにも攻め込ませないようにする大きな盾を構える者。
その背後から隙を見ては弓を打ち込んでくる者。
そしてそいつらに指示を出し、さらにはその兵士達を生み出すひとりの人間。
おそらくこの人間がこの統制の取れた構成を仕掛けてきた張本人のはず。
このままでは攻め込まれてしまう。
ボスに報告しなくては……
狩人から受けた弓を全て抜き取り、オークはその足でボスの待機するダンジョンゲート前まで足を運んでいた。
『ダンジョンゲート』
それはダンジョンの次のエリアへと誘う異空間への入口ことをいう。
ダンジョンの現エリアにてオーク族はダンジョンゲートを守る役割をしていた。
ゲートを通ろうとする冒険者達を倒して装備や所持品を奪い取り文化をなりたてる。
このダンジョンでのオーク族はそうやって暮らしてきたのだった。
強い冒険者がやってきて時にはボスがやられてしまうこともある。
そんな時は残されたオークの中で最も強い者がボスとして後任となることが代々のしきたりとなっていた。
傷ついたオークがボスの前に辿り着く。
ボスの周りには護衛の2匹のオークが両脇についている。
左に位置するオークが訪れた血だらけのオークを見て身を案じるが、傷ついたオークはそれよりも情報の伝達を優先した。
「ボス、強い相手、攻めてくる」
ボスと呼ばれるオークはその言葉を聞くや腰掛けていた岩場から立ち上がった。
ボスは他のオークとは毛の色が違っていた。
それは生まれつきのもので違いは毛の色だけではなく、知能や戦闘能力も明らかに他のオークよりも優れていた。
オーク達は理解していなかったが、オークの突然変異で生まれる上位種『ハイオーク』と人間達は分類していた。
「統率の取れた兵士を操る者だと……?」
たどたどしいオークの説明を受けハイオークはそう理解した。
これまでダンジョンゲートにきた冒険者はほとんどが単独か、いても2、3人のパーティというところだった。
傷ついたオークから聞いたところでは向かってくるだろう相手は最低でも6、7人の兵士に指示を出し攻めてくる、さらに場合によっては新たな兵士を出現させることもあるそうだ。
ハイオークはオークの傷を観察する。
体中痛々しく攻撃されてはいるが、一撃一撃はそう深いものではない。
戦いづらい相手であることは確かなようだが、そこまで恐る相手ではないだろう。
「ボス、俺、また、戦う」
傷ついたオークは攻めてくるであろう相手に何もできずに帰ってきてしまったことを悔やんでいた。
気持ちを理解しつつもハイオークは手負いのオークが再度戦いに加わることを静止した。
「その傷で今すぐ戦うのは死ににいくようなものだ。オーク族は少数精鋭の一族だ、無駄死はひとりも出すわけにいかない。しっかりと傷を癒し、ゲートを守った後の祝杯を上げる準備でもしててくれ」
ボスの言葉は絶対だった。
気遣いを受けオークは嬉しそうに返事する。
「わかった、俺、待ってる」
ハイオークは立てかけてあった先端に呪符の貼られている巨大なメイスを持ち上げ側近の2匹のオークとともに出撃の準備を始めた。
ボスが直々に相手するつもりだ。
手負いのオークはそれだけですでに勝利を確信していた。
過去を遡ってもこれだけ強いオークがいたという話は聞いたことがない。
事実、ボスがゲートを守るようになってから何百という冒険者が返り討ちに遭ってきたのだ。
歴代ボスの最長記録をこのハイオークが更新し続けていた。
ボスが行くなら負けはない。
それがオーク達の共通認識となっていた。
側近の2匹は未知なる相手に若干の緊張を隠せずにいた。
戦斧を持つ手が震えている。
その様子をハイオークは見逃していなかった。
「自分ひとりで戦おうと考えるな。俺がついている、命令を聞いてくれるだけでいい。何かあっても責任は全て俺にある、思い切ってやってくれ」
2匹の手の震えが止まった。
「ボス、俺、頑張る、ボスのために」
「絶対、守る、ゲート、守る」
心強いオークの言葉にハイオークはニカっと笑顔を見せた。
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