1 ポンコツ親父ダンジョンに捨てられる
俺の名はクラム、巨大冒険者ギルド『ゴッティ』で雑用をする43歳の中年男だ。
ここではギルドに入ったと同時に潜在能力を引き出してもらいスキルを手にすることができる。
俺が手にしたスキルは『最強軍団』というものだった。
名前だけなら凄そうだろ? 俺も手にした当初は飛び上がるほど嬉しかったもんだ、でもな……
実際には軍団なんてのは名ばかりで、できることは俺の体の半分くらいの大きさの小さいミニチュア傭兵一体が出せるだけだった。
何より問題だったのはそのミニチュア傭兵、命令も聞かず俺以外のすべての相手を攻撃してしまうことだった。
ギルドでのクエストは基本、集団で受注される。特にスキル入手したての奴が単独でクエストへ挑み負傷したとなってはギルドの名を傷つけることになるから、まず行かせてもらえない。
スキル入手直後に厄介なスキルであることがバレてしまった俺は、誰ともパーティを組んで貰えず居場所をなくしてしまった……
結果俺は冒険者ギルドに所属しているのにも関わらず、クエストもやることなく雑用ばかりをコツコツを行う完全な裏方となってしまった…………
当然クエストにも行きたかったからギルドリーダーに頼んではいた、けど弱い上に仲間を狙ってしまう俺のスキルを受け入れてくれることはなかった。
…………今まではな!
「悪いな俺みたいなおっさんとのクエストに付き合って貰っちゃって」
「へへへ、全然問題ないですよ……世話になってるクラムさんの頼みですから」
「気にするこたぁねぇです、せいぜい頑張りましょうや」
ってな具合にな、今回ついにクエストに行けることになった!
しかもリーダーはうちのギルドが誇る優秀な2人とパーティを組ませてくれた。
長くギルドに勤めてるといいこともあるもんだ。
戦闘で役に立てなかった分、事務仕事はいろいろやってたもんだからそういう部分を見てくれていたのかな。
これを機にスキルが覚醒して強くなったらいいんだけど……なんてうまく考えすぎだろうけど、数十年ぶりに俺のスキル『最強軍団』を使うことができる! それだけで嬉しくてたまらない。
今回はダンジョンを攻略にいくっていう話は聞いているけど、どこなのか詳しくは聞いてない、戦闘がからっきしな俺はついていくだけになってしまうかもしれない……それでもいいんだ、現場の空気、冒険のワクワク感、そんなものを求めて俺はこのギルドに入ったはずなのに気づけば事務仕事ばかり……この悶々とした毎日を少しでも解消できれば。
ついてきてくれた2人には悪いけど役に立てなくたってクエストに出れるだけで俺は満足なんだ。
しばらく歩き続けゴツゴツした岩だらけの荒地の途中で2人の足が止まった。
「ここですぜ」
「えっここ?」
何もない……こんな場所がクエストの到着地点?
「よく見てください、ほら、岩の隙間に異空間への入り口があるでしょ」
異空間への入り口……?
岩場の影の中に黒く渦巻いた空間が見えるけどこれのことか?
話に聞いたことはあるけど、実際目にするのは初めてだ……
ダンジョンには2種類あって、建造物や自然が複雑に入り組んで迷宮化したものと、今回のように異空間と言われる完全な別の場所へ飛ばされるものがある。
この異空間系のダンジョンは出入に条件があるからうちのギルドで行くことってあまりないはずなんだけど。
「さぁ、いきましょうや! クラムさんからずずいと行っちまってくださいな」
べらんめぇ口調のキースが俺の背中を押していく。
「ちょっ、ちょっと待って……まだ心の準備が!」
「さっさと行けよめんどく、おっと……口が滑った、早くいきましょう、この異空間に触れるだけでいいんですから」
今、『めんどくせえ』って言おうとしたよなコイツ……
「どういうことだラルディ! 何か企んでるんじゃないだろうな!?」
この異空間何かあるんじゃ……?
「あ〜あ、バレちまったかラルディよぉ」
「全然問題ない、さっさと突っ込んで終わらせちまおうぜ」
は? どういうことだ?
2人から背中をぐいぐい押され俺は異空間に追いやられようとしていた。
「お前ら! こんなことをしていいと思ってるのか? リーダーにバレたら大変だぞ!」
リーダーとは俺がギルドに入って以来の古い付き合いだ、そんな俺がこんな仕打ちを受けたことを知ったら、追放されるだけじゃ済まないはずだ。
「そのリーダーがアンタをここに捨てて来いって言ってきたんだよ!」
なんだって……
「要は用済みなのよ、おめぇみたいな使えねぇおっさんはよぉ」
「『墓場』に捨てて来いってな、俺らはそれをリーダーに言われてやってきたんだよ」
『墓場』……
一度入ったら外に出られないっていう呪われたダンジョンだってギルド内で有名なところじゃないか……
「待ってくれ、押すな! 俺が何をしたっていうんだ!?」
「何もしねぇから、いらねぇんだろうが」
「現場も知らねえおっさんに上から目線でギルドに居座られていい気がする奴なんていないんだよ」
俺はギルドのやつらからそんな風に思われてたのか……?
あまりのショックで一瞬気を抜いたとき、体の一部が異空間に触れてしまった。
ズズズと体が引き寄せられていく……
「じゃあな、おっさん……」
「個人的にゃ嫌いじゃあなかったけど、しょうがねぇよなぁ」
冷め目をした2人が離れていく……
なんで俺が……こんな目に……
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