● 第2話 ~リル様!お預けです!~
名前を貰ってから数日、ミラージュは結構忙しい日々を送っていた。
「リル様、書類にサインをお願いします。」
ミラージュはドサリと書類の束をリルの机の上に置いた。
「うぅ…。この書類は何関係じゃ?ミラちゃん。」
「防衛と公共事業ですね。」
「うへぇ~何枚あるのじゃ~。」
「リル様が仕事をサボって私をモフっていた時の分を合わせて100枚程ですね。ですがそれで最後ですよ。」
ミラージュはニコリと笑った。
「うぅ~嫌じゃ~ミラちゃんモフらせるのじゃ~。」
「ダメです。仕事を終わらせるまではお預けです!」
「はぁ…。わかったのじゃ。」
リルは嫌そうな顔をしながらペンを取りサインをし始めた。
嫌そうな顔しないでください!リル様。
「そう言えばミラちゃん。」
「はい?」
「今日はメイド服ではなく執事服なのじゃな。何かあったのかの?」
リルはペンを走らせながらついでのように呟いた。
「あぁ、気分です。たまにはこういう服も良いかと。」
「そうか。それも良く似合っておるぞ。」
「誉めてもまだモフらせませんよ。」
フフフと笑いながらミラージュは出ていった。
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「え~っと書類はOKで次はお茶かな…。」
ミラージュはスケジュール帳を片手にブツブツと呟いていた。すると
「お!ミラージュ。頑張っているな。」
と声をかけられた。
声の主は金の髪に長い耳、緑の目をした浅黒い肌をした女性。ダークエルフのアリアだった。
アリアは魔王配下の四天王の一人で「魔導女王」称号を持つ魔術のスペシャリストである。
「こ、これはアリア様。」
「かしこまらなくて良いよ。どうだい、仕事には慣れたかな?」
「はい!皆さんのお陰です。」
ミラージュはニコリと笑った。
「それは良かった。そうだ、レイとミザリー、そしてルイが君を探していたよ。」
「え?何でしょうか…。私、何か失敗したのでしょうか…?」
レイとは|「死霊王」の称号を持つアンデッドの王。
ミザリーは|「吸血女王」の称号を持つ吸血鬼の真祖。
ルイは「百獣王」称号を持つ獣人の王である。
彼、彼女らにアリアを加えて四天王と呼ばれている。
そんなに彼らないし彼女らが探しているとは…。
何かやらかしたのだろうか。
「違うと思うよ?多分顔合わせでもしようって所だろう。アイツら昨日、戻ってきたばかりだし。」
「そうですか…。そう言えば私、アリア様以外の四天王の方々にはまだお逢いしていませんでした。」
言われてみれば私が生まれてから今日まで、残りの四天王には逢っていない。
彼らはつい先日まで各々遠方の防衛任務に着いていてようやく城へと戻ってきたのだった。
「きっとリル様のペットであるミラージュに興味津々だと思うよ。」
「ここ数日でペットなのか使用人なのかちょっと分からなくなってきてますけどね。自分からしだした事ですか。」
ミラージュは苦笑していた。
「ま、リル様の癒しという点では間違いなくミラージュはリル様のペットだよ。」
アリアはクスリと笑った。
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ミラージュが最初に向かったのはリルの部屋から最も離れた所にあるミザリーの部屋だ。
遠くから行けばリルの元へ戻るのも楽だからである。
ミラージュが扉を遠慮がちにコンコンと叩くと
「はい。」
と声がしてガチャリと扉が開いた。
「あら、貴方は…?」
「あ…。あのっミラージュです。私をお探しだと聞きまして伺いました。」
ミラージュはピシリと姿勢を正した。
そこにいたのは透明感のある白い肌に唇からのぞく白い牙。プラチナブロンドの長髪、赤い目をしたゴスロリ服を身に纏った女性だった。
彼女がミザリーである。
「わざわざ来てくれたのね。どうぞ入って。」
ミザリーはニコリと笑いながらミラージュを招き入れた。
中に入るとそこはゴシック調の薄暗い部屋だった。
「あの…。ミザリー様。ご要件は何でしょうか?」
ミラージュが恐る恐る聞くとミザリーは書類を渡し
「コレ、報告書よ。ちゃんと纏めておいたからリル様に渡しておいて。」
と笑った。
「は、はい。お預かりします。」
ミラージュは恐る恐る受け取った。
「そんな緊張しないで。別に私、言葉づかいとかマナーとかあまり気にしない質だから。」
ミザリーはクスクスと笑っていた。
「そうですか…。」
「ルイやレイも同じだからそんな固くならなくとも大丈夫よ。」
ミザリーはフフフと笑った。
「はい!ありがとうございます。では、失礼します。」
ミザリーの部屋を出るとミラージュが向かったのはここから近いルイの部屋だ。
ルイの部屋は内装に拘っていないのか、サンドバッグ等トレーニング用具以外は必要最低限の物以外何も置いていないシンプルな部屋だ。
この部屋の主であるルイはライオンの耳と尻尾を持つ金髪のワイルドパーマの髪の好青年。
アンバー色の目はとても鋭く、精悍な顔立ちと相俟ってとても凛々しく見える。
「お!お前がミラージュか?俺がルイだ。よろしくな。」
「はじめまして。ミラージュです。お探しだと聞いて伺いました。」
ミラージュはペコリとお辞儀をした。
「そうか!わざわざすまねぇな。報告書書き上がったからリル様に持ってってくれ。それと…。」
ルイは書類と一緒に可愛らしい包みに入ったクッキーを差し出した。
「あの…。これは?」
「嬢ちゃんへのお土産だ。リル様と一緒に食べると良い。」
ルイはワシャワシャとミラージュの頭を撫でた。
ルイ様、結構女性にモテるだろうな。
ミラージュは何となくそう思ったのだった。
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次に訪れたレイの部屋は如何にも占いの館的なものにお化け屋敷を足して2で割った感じの部屋。
部屋の主もそんな感じで骸骨が濃藍色のローブを纏っているという如何にもお化け屋敷とかで出てきそうな人である。
「良く来てくれたね。確かミラージュ…。だったかな?」
「はい。お探しだと聞いて伺いました。」
ミラージュはペコリとお辞儀をした。
「なかなかしっかりしているね。報告書が書き上がったのでリル様に届けてほしい。」
「わかりました。」
ミラージュはニコリと笑った。
「これからもリル様を頼むよ。ではこれが報告書だ。」
レイは書類を差し出した。
「はい、では失礼します。」
こうして3人から書類を受け取ったミラージュはリルの部屋へと戻った。
「ミラちゃ~んお帰りぃ~。」
リル様は書類の山に突っ伏していた。
ちゃんとサイン終わったのだろうか?
「只今戻りました。どうです?仕事終わりましたか?」
「う~ん。何とかねぇ。」
リルはフゥとため息をついた。
「では書類を届けて来ますね。その後、お茶を入れて休憩しましょう。ルイ様にクッキーを頂いたのでお茶と一緒にお出ししますね。それまでにこの報告書に目を通しておいて下さい。」
「うむ。」
リルは書類を手早く纏めた。
ミラージュは書類を届け終えると、お茶とクッキーを用意してリルの机に置いた。
「美味しそうじゃのう。疲れた時には甘い菓子は最高じゃ。」
「そうですね。」
ミラージュはコクリと頷いた。
「それと…。お仕事終わったからミラちゃん。」
「はい。食後存分にモフって下さい。」
ミラージュはウィンクした。
この後、ミラージュがリルにモフモフされた事は言うまでもない事である。