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第1話 冒険の足音

 化け物を倒した夕刻、僕たちはそんなに大きくはなさそうな街に到着しようとしていた。

 僕が化け物の遺骸を引きずっているせいで僕らの来た道には血の筋ができているが、幸運にも他の化け物に出くわさずに済んだ。ついでに言うと、化け物の血も止まりつつある。


 街の門が近づいた時、黒島は今まで見た事もないハイテンションで言った。


 「僕が色々話して聞いてくるよ。2人はゆっくり来て」


 そう言って黒島は走り出す。


 僕と小松は歩くペースを落とす。いつの間にか小松と並んで歩いていた。


 「……黒島君、なんか変だね」


 「……ああ。まあ、オタクだから、ゲームの世界に来たとでも思っているんじゃないか?僕も、その説を否定できないし」


 「ゲームの世界……。確かに否定できないね……」


 「まあなんにせよ、家に帰る事が当面の課題じゃないかな」


 「そうだね。お母さんもお父さんも心配してるだろうし」




 そんな事をぽつりぽつりと話していると、黒島が笑顔で戻ってきた。


 「それ、緊急討伐依頼が出ていたレッサーグリーンドラゴンなんだって!そのモンスター、門番に確認してもらえれば街に入れてくれるみたいだよ。冒険者ギルドもあるそうだから、そこで宿を紹介してくれるみたい」


 黒島はいつになく饒舌で、ハイテンションだ。僕らの先頭に立って軽い足取りで歩き始める。

 僕も息抜きにライトノベルを読んだ事はある。だがいざ自分の身に降りかかると、暗澹たる思いを感じる。

 ふと小松さんの方を見ると、すごく不安げな顔をしている。


 「……何とかなるさ。とにかく帰る事を目指して頑張ろう」


 「……うん」


 黒島と違い、僕らの足取りは重かった。


 門番のレッサーグリーンドラゴンの検分が終わると、そのまま僕たちは警備兵のおっさんに先導されてカテリキの大通りを進む。周囲の奇異の目線が突き刺さる。こんなデカブツを引きずっているのだから当然ではある。

 街並みを見渡すと、街行く人々はファンタジーの定番のような姿をしている。金、銀、黒、灰、緑、赤、紫、ピンクなど、様々な髪色で、顔立ちや肌は日本人と白人のハーフという表現が近い。身長は僕らよりは若干低めだった。

 建物は外壁と門は木製、中の建物は外壁に石材を使い、内部は木造のようだ。古くからあるヨーロッパの建物と同じだ。




 そんな風に観察していると、大きな建物の中におっさんが入っていく。ここが冒険者ギルドのようだ。


 「おーい、あのレッサーグリーンドラゴンが退治されたぞ。やったのは後ろにいる3人だ。死体もあるから検分してくれ。それからこの3人、『異世界の旅人』のようだ。調べてくれるか?」


 『異世界の旅人』とは初めて聞く言葉だ。この世界には前例が少なからずあるんだろうか?


 冒険者ギルドは一瞬空気が固まった。だがすぐに、やや慌てた様子で動き出す。


 「はい。すぐに準備します。『異世界の旅人』の検査は準備が必要ですので、まずレッサーグリーンドラゴンを検分させていただいてよろしいでしょうか?」


 「どうぞ」


 黒島が代表者のように堂々とした態度で了承する。僕と小松は未だに困惑している最中で、そのまま流される。


 僕はギルド職員の案内に従ってやや広い場所にレッサーグリーンドラゴンを引きずっていく。そして中央にレッサーグリーンドラゴンを置くと、黒島に促されて爪も鞄から取り出す。


 「……かなり損傷が酷いですね。革や牙は状態が良いですが。ああ、爪ですか。……確かにレッサーグリーンドラゴンのものですね。これも状態は良好です。内臓を見てみましょうか。内臓は希少な触媒や薬に……。……これは酷くはないですかね。内臓がミンチになっています。おそらく死因はこれでしょうね……」


 モザイク必須の内臓を痛めつけたのは僕なので、少し居心地が悪い。どれほどの価値があったのかは聞く勇気はなかった。


 「内臓は酷いですが、他は状態良好なので、買い取り額は15万リラ、それから討伐報酬としてもう15万リラですね」


 合計30万リラ。なんだか懐かしい通貨単位だが、どれほどの価値があるかは分からない。




 「検査の準備、できましたー」


 ギルド内の入り口付近からそんな声がかかる。


 「では検査しましょうか。賞金は後で冒険者カードに振り込みます」


 案内に従ってついていくと、カウンターに水晶らしきものと銅板と思われるものが3枚あった。


 「ではこの能力検査機に手を置いてください」


 そう言ってギルド職員が水晶の下の機器に銅板を差し込む。とりあえず先頭になってしまった僕が水晶に手を置く。すると水晶は赤く輝いた後、弱く黄色に輝いて、無色透明に戻った。その間、僕は頭痛がしっぱなしで、もう1つの変化、武器としていた金属棒が黒色に変わった事には気づかなかった。


 ギルド職員が、銅板だったものが銀色に変わったものを取り出す。


 「トモユキ ミウラさんですね。ギルドカードを確認ください」


 ギルドカードというものを受け取ると、そこには知らない文字が書いてあった。だがなぜか読めるし、書ける気もする。とりあえずそこに書かれた内容を確認してみる。ちなみに特技のレベルは10が最大らしい。ただし、例外として生活魔法にレベルはない。


名前    トモユキ ミウラ

年齢    16歳

職業    棒術師

レベル   25

所持金   0リラ

特技    怪力7

      棒術4

      核物理魔法6

      火魔法4

      雷魔法2

      生活魔法

犯罪歴   なし


 レベルが妙に高いのはレッサーグリーンドラゴンを倒したおかげだろう。だがそんなことよりも、僕は核物理魔法という文字を見て2度見した。確認しようと思うと、頭にその内容が思い浮かぶ。どうやら純粋水爆までは発動できるらしい。そしてこの世界では使い手は僕が初めてらしい。これは危険すぎる。


 「あ、あの」


 「?どうかしましたか?ミウラさん?賞金は後で振り込みますよ」


 「いえ、特技の1つを消すか隠すかできませんか?」


 「特技を消す事はできませんが、隠す事なら、念じればできますよ?何か不味い特技でもあったんですか?ギルドとしては確認が必要なのですが……」


 とりあえず僕はギルドカードに念じて核物理魔法を隠す。そして小声でギルド職員と話す。


 「ギルドに確認って、秘密は守られるのでしょうか?」


 「ええ、そこは大丈夫です。それで、どんな特技だったのですか?」


 「ええと、その気になれば街を1つ消し飛ばすような魔法がありまして……」


 「ああ、そう言う事ですか。隠す人もいますが、隠さない人もいますので、それほど気にしなくてもいいと思いますよ」


 ギルド職員はホッとした顔をする。どうやらこの世界には物騒な魔法がそれなりにあるようだ。もっとも、僕とギルド職員の間には相当の認識の違いがありそうだが。


 「三浦君、その棒……」


 小松さんが指摘して初めて僕は手に持つ棒が変色している事に気づいた。ギルド職員も気づき、とりあえず鑑定を、という流れとなった。棒の重さに鑑定は難儀したが、この棒、なんとオリハルコン合金の棒である事が判明した。この事に残る2人の武器にも期待が高まる。




 「では次の方は……」


 「あ、私がやります」


 小松が志願した。僕の検査の様子に興味を覚えたらしい。


 水晶に手を置き、頭痛をこらえている小松をよそに、水晶は強い金とも白ともつかない輝きを放ち、次第に青、緑と輝きを失いながら光り、元の無色透明に戻る。同時に小松の持つ棒は光に包まれながら杖の形に変形する。


 「リョウコ コマツさんですね。ギルドカードを確認ください」


 そう言って小松に銀色になったギルドカードを渡す。


名前    リョウコ コマツ

年齢    16歳

職業    回復弓術師

レベル   20

所持金   0リラ

特技    弓術8

      棒術2

      回復魔法7

      水魔法5

      風魔法4

      生活魔法

犯罪歴   なし


 ギルドカードの確認が終わると形すら変わった小松の杖に注目が行く。こちらは鑑定自体は容易だったのだが、杖が世界樹の杖というとんでもないものだった事が全員を驚かせた。




 最後は黒島の番だ。緊張しているのか、動きが少しぎこちない。

 黒島が水晶に手を置くと、しばらくして虹色の光が水晶からあふれ出した。初めての現象にギルド職員も驚く。一方で黒島は、僕や小松とは比較にならない頭痛に耐えているようだった。

 虹色の光がピークを過ぎ、段々元に戻ろうかというところで水晶が砕け散る。同時に検査機器から虹色のカードが排出される。初めての現象にギルド職員がおっかなびっくりそのギルドカードを取り、内容をざっと確認し、驚愕する。


 「ツ、ツルオ クロシマさんですね。あなたのギルドカードは特殊ですので、ここのギルドマスターがお渡しします」


 そう言ってギルド職員は黒島だけを連れて奥に引っ込む。ふと黒島の腰の錆びた剣を見ると、見違えるように輝いていた。




 しばらくその様子に皆が硬直していたが、買い取り担当のギルド職員が1番に硬直から復帰する。


 「とりあえず30万リラは3等分して10万リラずつ振り込みます。……それから、その……コマツさんは早めにローブを調達した方がいいと思います。宿の方はこちらで確保しておきますので」


 この言葉に僕は中世の女性の衣服事情に思い当たる。小松は現在セーラー服で、ひざ下までのスカートをはいているが、中世では時代や地域によっては、くるぶしが見えただけで売春婦扱いだ。


 「あー、足が完全に隠れていないから売春婦と間違われかねないのか」


 僕の言葉に小松以外の全員が頷く。


 「じゃあ、厚かましいですけど、ローブを取り扱っている店まで案内を頼めますか?ここの地理はさっぱりでして」


 僕のお願いに年かさの女性ギルド職員が了承してくれる。


 「じゃあ小松さん、早速買いに行こうか」


 「えっ、別に三浦君までついてこなくても……」


 「たぶん、男が最低1人はいないと途中で変な奴に絡まれると思うよ」


 僕の言葉を小松以外の全員が肯定する。何せ小松はかなりの美少女だ。艶やかな長い黒髪をポニーテイルに纏め、女子にしては身長も高く、おまけに胸も大きい。今の小松が1人で出歩いたら小松を『買おう』とする男がいくらでも寄ってくるだろう。


 「そ、そう言う事なら……」


 小松は周りの空気に流されて、顔を赤らめて了承する。こうして僕と小松とギルド職員は黒島と宿の手配を待つ間に布系専門の防具屋を目指すのだった。




 道中男達の視線を集めながら防具屋に入ると、小松はすぐにローブ売り場に向かった。その一方で僕は魔法の鞄売り場に案内された。魔法の鞄は値段こそ高いが、防水性、耐火性、容量、保存性その他に優れる、冒険者の必須アイテムらしい。上等な物は1つ当たり平均3万リラとお高いが、ここでケチると後で酷い目に合いそうなので、最も性能が良く、実用性が高い物を物色する。

 これから先、冒険者として活動する可能性が高い以上、実用性に優れ、野外で目立たない物がいいだろう。色々物色した結果、リュックサック形式にする事に決めたが、色を迷う。森林で目立たない深緑か、あるいは全般的に目立ちにくい茶色か。

 しばらく悩んだ後、いざとなったら後で迷彩塗装すればいいやと考えて、茶色の鞄を買う。お値段2万8千リラなり。

 とりあえず今の鞄を新しい鞄に詰め込むと、かなり軽くなった。どうやら重量も軽減してくれるらしい。


 そんな事に感心していると、小松から声がかかった。


 「三浦君、こっちに来てくれる?」


 「?はーい」


 どうやら小松は試着室にいるらしい。待たせると悪いので急ぐ。




 小松のところにたどり着くと、そこには純白のローブを着た美少女がいた。思わず見とれる。


 「あの、三浦君。どうかな?変じゃないかな?似合ってる?」


 「……うん。とても似合ってる。何だかすごく綺麗だ……」


 思わず恥ずかしげもなくそんな事を言ってしまう。


 「そっか。良かった。じゃあこれにしようかな?」


 嬉しそうにする小松に僕は頭を冷静にし、要らぬ事も言ってしまう。


 「あ、でも冒険者をするなら目立ち過ぎないかな?それに汚れも目立ちそう……」


 「ああ、それなら大丈夫ですよ。目立ちたくなければ上にマントを羽織ればいいですし、汚れは生活魔法ですぐ落ちますよ」


 店員が僕の危惧を否定する。僕はなるほど、と感心する。


 「じゃあこれにします」


 「はい。3万8千リラになります」


 相当良いローブらしい。たぶん防御力もあるのだろう。


 「これで今日の買い物は終わりかな?」


 小松は上機嫌だ。


 「小松さん、鞄も買っておいた方がいいよ。僕は買ったけど、さすがに僕の鞄に入れたくない物もあるでしょ。小松さんはローブの分余計にお金使っているから1万リラまで援助するよ」


 「あ、それもそうだね。ローブ、結構高かったから、お願いしていい?」


 「うん。必要な物だから援助するよ」


 結局、小松が僕と同じ鞄を買ったのは日がぎりぎり落ちるか落ちないかの時間帯だった。




 冒険者ギルドに帰ると、黒島が自信満々の態度で出迎えてくれた。


 「おかえり、2人とも!とにかくこのカードを見てくれよ!」


 黒島は虹色のカードを突きつける。


名前    ツルオ クロシマ

年齢    17歳

職業    勇者

レベル   23

所持金   10万リラ

特技    剣技7

      勇者魔法5

      光魔法3

      回復魔法2

      生活魔法

犯罪歴   なし


 「……勇者?」


 「……勇者って、あのゲームなんかに出てくる勇者?」


 僕と小松は疑い半分、不安半分の疑問口にする。


 「そう!その勇者だよ!そして僕たちは王城に招かれる事になったんだ!出発は明後日だって!」


 黒島は完全に興奮状態だ。


 「『僕たち』という事は、私と三浦君も?」


 「そうだよ!これから勇者の伝説が始まるんだ……」


 黒島の言葉に僕も小松も内心、面倒な事になったと頭を抱える。勇者の冒険なんて、ろくでもない目に合うに決まっている。そもそも家に帰れるかも分からないのに……




 この後、ギルド職員にカテリキで1番の宿に案内された。宿泊費は冒険者ギルド持ちらしい。

 ちなみにこの宿で1番の部屋に泊まったのは黒島だけで、僕と小松は1つ下のランクの部屋を別々にとってもらった。黒島と同レベルの部屋は空いていないわけではないようだが、やはり勇者とその他では扱いが変わるらしい。まあ、僕の部屋も快適だから文句はないが。しかし浮かれている黒島君はともかく、今後について小松さんとは話し合う必要があるだろう。このまま流されて勇者のお供は御免だからな。ともかく今日は疲れた。後の事は明日考える事にしよう。


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