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リツネイガラシの殺戮少女 * THE NECROPHILIA-GIRL  作者: 自己満足(みずみみちたり)
 THE ORION STAR CHURCH ‼
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 FOUR:スナイパー子央

読んで頂きありがとうございます




 さかきばらねお【榊原――子央】

    狙撃手スナイパー

    十六歳。

    私立純星学院伏兵クラス一年生。

    両親ともに裏世界の住人であり、純星学院一の期待の新星。

    年下の男子がタイプ。

    嫌いなものは爬虫類。



         *


 新宿区のとある高層ビルの屋上。

 何かの計測機器や薄汚れて輝きを失ったダクトが煩雑に設置されているが、その一角で、長く黒い艶髪が風に煽られ、揺れていた。


 彼女の名前は榊原子央。私立星純高校に通う女子高生である――といっても、彼女の手に握られた漆黒の改造版ドラグノフ狙撃銃を見れば、誰もその説明で納得できるはずがない。


 もちろん、彼女はただの学生ではない。

とある宗教団体によって幼少期から洗脳を成され、将来中東の紛争地域で闘士として戦うために特別に訓練された、いわば“伏兵”である。


そういった将来有望な戦士を育て、契約を交わした海外地域に“寄付”することで、その宗教団体の地位が向上するという仕掛けだ。

もちろん、合法なわけがないが。



 そんな子央は今、冷たい鉄柵に銃の二脚バイポットを載せ、その指を引き金に添え、弾を撃ちたくてうずうずしていた。


「はぁ……まったく、今から友だちと映画観に行こうってときになんで要請が掛かるかな……」

 子央は溜息交じりに愚痴をぼやいた。

 頬杖をつき、退屈そうに引き金をとんとん、と軽く叩く。もし他者の目があればさぞかし危なっかしく映ることだろう。


 しかし、こんなときでも、子央の瞳孔はしっかりとターゲットを見据えていた。

 スコープに書かれた目盛りや数字の向こうにあるのは、とあるホテルの一室の窓。カーテンが閉められており、中の様子は窺えない。


 ――だが。


 部屋の中で怯えている標的たちの動きは、“あり得ないほど正確にこちらへと伝わって来る”。

「流石卯月先輩といったところね。……まさかこんな“反則兵器”を持ってくるとは……」

 子央はそう、呟いた。



「にしても……卯月先輩直々のご指名ですからね……」

 子央は気を引き締めた。



         *



「駄目だ、繋がらねぇ」

 五十嵐はぶっきらぼうに言うと、三年間愛用してきたアイフォンを床へ投げ捨て――否、叩きつけ、破壊した。


「別に壊す必要ないでしょう」

 八角淘汰がソファーの裏に隠れながら、窓近くの壁際にいる五十嵐に言った。

「バーカ、アタシは今むしゃくしゃしてんだよ」

 粗暴に吐き捨てると、五十嵐は原形を留めていないスマートフォンの残骸をさらに踏みつけた。



「それにしても……」

 と、反対側の窓横の壁に貼りついていたカナヘビが言う。

「まさか妨害電波が流されているとは……」

「まったくだ」

 五十嵐が呆れるように言った。

 こうしている今も、ふたりは無意識中に窓を警戒していた。



「でも、カーテンが閉じてるわけだから、さっきのはとりあえず撃ったってことか?」

「ああ……多分な」

 五十嵐とカナヘビは、お互いに目を合わせず会話している。

 意識は完全に1・5キロ遠くの刺客へと向けられていた。


「あの……」

 と、淘汰は謙遜気味に手を挙げた。

「何だ」

 と、カナヘビ。

「もしかすると、監視カメラが付いてるのかもしれませんよ?」

「監視カメラぁ?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、五十嵐だった。


「だってほら、このホテル、オリオンの奴らの支配域なんでしょう? だったら、盗撮くらいされていてもおかしくないはずですよ」

「まぁ、たしかにそうだが……」

 と、カナヘビは、ちらりと横目で助けを求めるように五十嵐を見た。

「わーったよ。説明すりゃあいいんだろ」

 面倒だな、と五十嵐は両手をぶらぶらさせたのち、淘汰へ向き直った。


「あのなぁ、弟子。狙撃ってのは秒単位の殺人術なんだ。少し指を引くのが遅れればもう相手に逃げられちまう。――そんな余所見よそみ禁物の凶器の使い手が、ちらちら部屋の映像を盗み見ながら銃を構えるか? だとしたら相手は馬鹿だ」

「馬鹿ならいいんだがな……」

 カナヘビはニヒルに言った。


「なんなら、試してみるか?」

「え?」

 淘汰が首を傾げる。

「どうやって?」

「まぁ見てろ」

「おい、何する気だ五十嵐」

 カナヘビが注意するような口調で言った――が、五十嵐は既に行動に出ていた。

五十嵐は、近くのカウンターに置いてあったテレビのリモコンを掴み、カナヘビに向かって投げた。

 リモコンは、窓の前を横切る形となる。



         *



 スコープの中心あたりで、黒い物体なにかが出現した。


「“いまだ”」


 と、子央は台詞を言い終える前に、すでに引き金を引いていた。

 ほとんど脊髄反射的な素早さだった。



         *



 だぁぁあんっ!


「………………」

「………………」

「………………撃たれ、……ましたね」


 五十嵐は、今自分の目の前にある光景が信じられなかった。

 ほぼ豪速球並みの速さでいきなり投げたはずの物を、こうも正確に狙撃するなんて……。

 いや、それだけではない。そもそも、見えないはずなのだ。カーテン越しという不可視の状況での、狙撃。



 窓の前――丁度通過点ど真ん中の真下で、リモコンが粉々に砕け散っていた。



――どういう、仕組みだ……。


まさか――と、五十嵐は戦慄した。

「おい、カナヘビ」

「ああ……」

 カナヘビが、顔を上げた。見ると彼女も、信じられない、と目を丸くしていた。

 ふたりは、深刻な表情で、お互い目を合わせた。


「サーモグラフィ―か」 



         *



 高層ビル――オライオン・スウィート・ホテルを狙撃するにはうってつけの場所の――の屋上で、榊原子央は五十嵐たちの会話を、左耳のイヤフォンで盗み聞きしていた。


「ふふふ……やっと気がついたようね」


 子央は、小賢しそうな悪人顔――しかしなぜか似合ってしまう――を浮かべた。



 この日は風も強く、ときどきぱらぱらと小雨が降り、スコープの視界が悪くなった。――あまりいいとはいえないコンディションの中で、スナイプを成功させたことからも、子央の技術力の高さが推し量れる。



「にしても……私は今、いったい誰を殺そうとしているのですか」

 子央は、右耳に嵌めたマイク付きイヤフォンに向かって呟いた。

『私語を慎め、子央』

 若い女の、冷たい返事が返って来た。


「別にいいじゃないですか、先輩。わけも知らずに人を殺せるような私ではありません」

『わけが判れば殺せるあたり、お前らしいな』

「先輩が言えることじゃないでしょう」


 子央の耳に、溜息らしき音が聞こえた。


『変な好奇心は持つな。お前の疑り深い性格は、お前自身の才能を殺すことになる』

「それはそうですけど……」

『伏兵は、ボスの命令に忠誠に従い、任務を遂行すべきだ』

 ボス――卯月夜宵うづきやよいは、ぶっきらぼうにそう言い放った。


「……判りましたよ、先輩ボス

『ああ、それでこそお前だ』

「今から新宿のど真ん中で銃をぶっ乱射ぱなしたいと思いまーす」

 子央がふざけた口調で言うと、冗談ではない、と慌てた卯月は、

『わああああ!判った!判ったから!全部話すから!――だからお願い可愛い後輩ちゃん。ぶっぱなすのは、やめて?』

「……判りました」

『偉い!』




 卯月は諸事情を一から十まで委細漏らさず子央に説明した。子央はたびたび相槌を打っていたが、真剣に聞いているようで、案外聞き流しているようでもあった。

 彼女の脳は完全にスコープの方向へ作動しているのだ。



「なるほど……それで清水は欠席続きだったわけですか……」

 大した感情もなく、冷酷ともとれる態度で、子央は言った。


『ああ。――虐殺だったらしい。酷いもんだ、彼女、下腹部を抉られていたらしい』

「屍姦ですか……『屍姦ネクロフィリア』の五十嵐律音が疑われるのも、無理ありませんね」

『ん?――お前、まるで五十嵐律音が無実みたいな言い草だな』

「可能性はゼロではないでしょう……まあ、無実を晴らそうと言うよりかは戦闘心を燃やしているといった方が的を射ている彼らの反応を見れば、その可能性もゼロかもしれませんね……」


 こうして、もう少しで真相に辿り着きかけた子央は、幸か不幸かその可能性を捨ててしまったわけである。


 

 イヤフォンを切り、再び標的に神経を尖らせる。

――しかし、カナヘビ……。

 スコープに移っているのは、青い部屋の空間と、赤く光る三人の人間のシルエット。


――私、トカゲ無理なんだよな……。



         *



「赤外線カメラか……」

 淘汰はうむむと何かを思考するように唸った。

「なーに考えてるみたいな振りしてんだ馬鹿」

 すぐさま五十嵐の暴言が飛んできた。


「酷い言い草ですね。これでもちゃんと考えてるんですよ」

 実際、八角淘汰はその脳をフル活用させ、この圧倒的不利な状況から脱出する方法を、すでに七つ、案を出している。

 それは同時に、どれも失敗案だったということでもあるが。


――これならいけるかもしれない……。


 淘汰は、八つ目の可能性を検討し、脳内でシミュレーションしてみた。――すると見事、成功したのである。

 あくまで思考実験上の話であるが。



 淘汰は、ある意味脳天気だった。――だからこそ、落ち着いて考えることが出来たのだ。



「師匠、カナヘビさん」

 淘汰が二人の名を呼ぶと、どちらも同時に反応した。


「いい考えがあります」





また次回も宜しくお願い致します。

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