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リツネイガラシの殺戮少女 * THE NECROPHILIA-GIRL  作者: 自己満足(みずみみちたり)
 THE ORION STAR CHURCH ‼
3/8

 THREE:インフォーマー金蛇

読んで頂きありがとうございます

ブクマ宜しくお願いします




 かなへび【カナヘビ】

    情報屋インフォーマー

    年齢不詳。

    おそらく女性。

    詳細不明。



         *



 事件から三日。

五十嵐一行は、とある都内の高級マンションを訊ねた。


シルバーのR35 GTRが、道路脇に逸れ、駐車券を機械から受け取ると、上がった蜂模様のバーの下をくぐる。

白い線からはみ出さないよう、慎重に、五十嵐はハンドルを切る。

アスファルトに埋め込まれたオレンジのストッパーに、タイヤを掛ける。


「ほら、着いたぞ」

 五十嵐は後部座席の子供二人に声を掛けた。

「トータクンには運転くらいして欲しいもんだがねぇ、弟子なんだから」

 五十嵐が溜息交じりに言うと、「仕方ないじゃないですか」、と淘汰。

「僕免許持ってないんですよ」

「アタシだって持っちゃいねぇ」

 この車も盗難車だ、と五十嵐はなぜか自慢げに言った。

 

 淘汰は隣で寝息を立ててすやすやと眠る京子を見た。

「師匠、こいつ、どうします?」

「さぁな、お前のモンなんだろ。自分で好きにしろ」

「寝かせておきますか……」


 淘汰は京子に毛布を掛けてやると、車から降り、ドアを閉めた。

――今の季節、脱水症状になって死ぬことはないだろう。

 そんな淘汰を見ながら、五十嵐は歯がゆいように首筋を掻いた。



「それにしても、でかいホテルですね……」

 車から降りた淘汰が言った。

 彼が見上げるその建物は、全体が白とキャラメル色を色調とした、滑らかで高級感溢れる一級ホテルだった。

 五十嵐は、とある人物と会うため、この場所を選択した。

「ああ。お偉いさんとかがこぞって使う、いわゆる密会専用の高級ホテルだ」

 五十嵐はサングラスをカチューシャのように髪に挿した。



「行くぞ」

「あ、はい」 

 せかせかとホテルの玄関に向かう師匠を、弟子は慌てて追った。

 駐車場にぽつんと停められたGTRのボンネットは、その日の空模様を映していた。

 灰色の曇天。

 京子は、未だ起きる気配がない。



         *



 なかなか回らない回転扉に、五十嵐はいらついていた。

「なんでこんなややこしい物作るんだ!」

「そんなこと言われても……」

「お前のせいだぞ淘汰!」

「え……」


 大理石に敷かれた赤いカーペット。その上を歩くことで、淘汰はなんだか海外セレブにでもなったような気になった。

 フロントで五十嵐が名前を告げると、すでに相手は来ているようで、部屋番号を教えてくれた。

「1102号室です」

 ポニーテールで額を晒した女性従業員は、笑顔でそう言った。


 五十嵐たちはエレベーターのボタンを押し、しばらくして開いた扉の中に乗り込んだ。それを見届けると、フロントの従業員は、険しい表情で、耳に嵌めた小型マイクに手を添え、

「奴らが来ました、卯月ボス

 と。


 このホテルの名前は、オライオン・スウィート。

 その名前が何を意味するかなど、五十嵐たちの知る由のないことだった。



         *



 エレベーターを降りると、花柄が薄く描かれた壁紙があった。上部にはランプを模した電気が付いている。

 ごわごわした絨毯の上で靴を跳ねらせ、廊下を歩く。

「えーと1102だから……ここか」

 飴色の扉に書かれた部屋番号を順繰りに確認しながら、淘汰は呟いた。

『1102』

 確かにそう書いてある。


 こんこん、と五十嵐がノックをすると、

『どうぞ』

 と、かすれた声がドアの向こうから聞こえた。



 扉を開けると、上質なソファや寝具が並べられたスウィートルームの中央で、安楽椅子に腰かけたひとりの男――いや女かもしれないが、いた。

 ハンチング帽を目深にかぶり、髪は短い。だぼだぼの若者らしいデザインのパーカーを着ている。カーテンが全部閉められていて部屋が暗いせいか、どことなく陰湿な印象を受けた。


「おうカナヘビ。久しぶりだな」

「こちらこそご無沙汰だ。――『屍姦ネクロフィリア』」

 カナヘビと呼ばれた女は、立ち上がり、ちらっと淘汰を見た。


「そちらは?」

「ああ、こいつは、アタシの新弟子だ」

 五十嵐に言われ、カナヘビは興味深そうに淘汰を眺める。

 淘汰はぺこりとお辞儀をした。



「男の子か。――それにしては随分と可愛い見た目をしているな」

「だろ?女装したら絶対ぜってえ似合うぜ」

「珍しいな、君が弟子をとるだなんて。――どういう事情だ?」

「ああ……こいつは捨て子でな」


 するとカナヘビは目を大きく見開いた。これは彼女にしては珍しい反応である。


「捨て子?――ということは、この世界に関しては素人さんということか?」

「この歳ならどの世界でも素人だろうよ」

 するとカナヘビは淘汰に歩み寄り、腰を曲げ、淘汰と同じ目線の高さになった。


「自己紹介が遅れてしまって済まない。私はインフォーマー――いわゆる情報屋の、カナヘビという者だ」

「……八角淘汰です。数字の“八”に動物の“角”、自然“淘汰”で八角淘汰です」

「淘汰君か……いい名前だ」




 カナヘビは、五十嵐と淘汰を椅子に座らせると、自身もまた椅子に腰を下ろした。

「で?用件というのは?」

「そう勿体ぶるなよ。――お前ならもう判ってるはずだろ」

「オリオン星芒教会と、君に十三事務所襲撃を頼んだ依頼主について。だろ?」

 五十嵐は大きく頷いた。


「値段は?」

「親しい友人の頼みだ。三万で負けてやるよ」

「そりゃどうも」

 五十嵐は椅子にどっぷりと腰を沈ませ、脚を組んでいた。



「オリオン星芒教会は、今から約百年前に発足した組織だ。もともとはキリスト教を独自の見解で分析した“真面目な”宗教団体だったが、今となっては完全にビジネス財団でしかない」

「全国に事務所はいくつあるんですか?」

 淘汰が訊いた。

「ざっと四十戸ほどと聞いている」

 カナヘビが答えた。


「んで?そのオリオンとアタシの依頼主の関係は?」

 するとカナヘビは静かに首を振った。

「残念だが足取りは掴めていない」

「…………そうか」

「念のため封筒から指紋やデータが検出できないか調べてみたが、駄目だった」

「だろうな」



 ここでカナヘビは一旦席を立ち、ソファー横のカウンターに載ったプラスチックケースからティーバッグを取り出し、

「君たち紅茶でいいか?」

 と、振り向いて五十嵐と淘汰に訊ねた。

「ああ」

「はい」

 ふたりが答えた。


 カナヘビは無駄のないスムーズな動きで三つのカップに紅茶を注ぎ、盆にのせて運び、テーブルの上に並べた。



「あの事件から三日も経つが、未だにメディアは騒がないな」

「ああ、そのようだ」

 椅子に座り直したカナヘビが紅茶を啜りながら答える。

 五十嵐と淘汰も真似をしてティーを口に含む。


「大人ならまだしも……女子高生が虐殺されたのにこれだけ動きがないってのは、おかしくねぇか?」

 五十嵐は言った。

「その女子高生が通っている学校だが……」

 と、カナヘビは少し間を開けてから口を開いた。


「私立純星学院――オリオン星芒教会が出費をしている、傘下の学校だ」


「…………あぁ」

 一瞬何を言われたか脳の判断が追い付かなかったが、数秒経ってから五十嵐は納得したように言った。

「それでこんなに静かなわけだ」

 手中の人間なら、もみ消すのも簡単というわけだ。



 その後しばらく詳しい話が続き、カナヘビが調達してきた死亡した女子高生の生い立ちなどが話題に出た。

 その少女が清水奈波しみずななみという名前であること。

 彼女が貧乏な家庭なのに対して成績優秀な優等生であったこと。

 などなど。



「それにしてもいいのか?」

 唐突なカナヘビの言葉に、五十嵐は

「何が?」

 と返した。


「ここのホテルはオリオン星芒教会が経営しているんだぞ」

「本当か?」

 五十嵐の表情が一瞬で強張った。

 淘汰も若干緊張した。

「もしも盗聴器でも取り付けられていたらどうする?」

「……大丈夫だろ。そもそも、そんなもん付けられてたらアタシら今頃この世にいないぜ?」

「……そうだといいが」

 「平気平気」と、五十嵐は楽観的に掌をひらひらさせた。



 ――しかし――。



 だぁんっ――

 ばりんっ――


 ふたつの音が、連続して室内に響いた。

「何だ⁉」

「おい、お前ら身を屈めろ!」

 

 カーテンには大きな穴が開き、そこから覗く窓ガラスはひび割れ、真っ白に乱反射していた。

 そしてその真向いの壁には、――金色に輝く“何か”が。


「狙撃だ!」

 窓を警戒しながら、身体を床に伏せた五十嵐が叫んだ。

 淘汰とカナヘビもその場にしゃがみ込んでいた。ふたり――特に淘汰には、混乱の表情が浮かんでいた。


「まずい……奴らがアタシらを殺す気だ!」



         *



「うふふふ……」

 オライオン・スウィートから約1・5キロメートル離れた、とある高層ビルの屋上。

 風の吹き荒れる不安定な場所で、機械やダクトに交じり、榊原子央さかきばらねおは微笑んでいた。


 鉄柵に狙撃銃を載せ、その引き金に右手の指を添える。

 その瞳は、スコープ越しの“標的”を捉えていた。


「順調ですよ……卯月先輩」

 耳に掛けたワイヤレスのマイクを意識しながら、彼女は呟いた。



いよいよ盛り上がってまいりました!

次回もどうぞよろしく!

ブクマ有難うございます

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