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リツネイガラシの殺戮少女 * THE NECROPHILIA-GIRL  作者: 自己満足(みずみみちたり)
 THE ORION STAR CHURCH ‼
1/8

 ONE:ネクロフィリア律音

読んで頂いてありがとうございます

この章は序章なので退屈な描写が延々続きます。流し読みで構いません。なんなら次の話に移って頂いても結構です。

ブクマお願いいたします。




 いがらしりつね【五十嵐――律音】

    屍姦ネクロフィリア

    十九歳。

    殺すことで愛す、快楽殺人鬼。

主な得物はトゲのある鉄球と柄を鎖で繋いだ、モーニングスターフレイルという打撲武器。

    バイセクシュアル。

    戸籍名は無く、『五十嵐律音』という名は彼女の師から授かったものである。



         *



 八角淘汰ほずみとうたは、孤独だった。

 彼には産みの親は存在したものの、本当の意味での保護者がいなかった。まだ十七歳だというのに、少ない貯め銭を削りながら、ボロアパートで寂しく侘しく慎ましく、生きていた。


 某日、親の遺した(といっても気休め程度だが)貯金が底をつき、借金をする相手もおらず、とうとうアパートを大家に追い出された。もともと淘汰への当たり方が強かっただけに、最悪の事態とはいえ、予測できなかったわけではない。


――学校に通ってもいないのに……学生証なしで雇ってくれるアルバイトなんてあるんだろうか……。


 東京の湿った夜道をとぼとぼ歩きながら、淘汰は呟いた。

頭上のコンクリート橋で、電車が車輪音を轟かせながら、通過していく。地面に映る、車窓からの光。人間が多すぎるせいで、ほんのわずかしか量は無い。


やがて歩みを進めるうちに、淘汰はどこか知らない土地に辿り着いた。否――それは知らない“世界”と言い換えてもいいのかもしれない。

パチンコ屋や風俗店の肌色の看板を、五月蠅うるさいくらいのネオンが照らす。

そこは都内有数の歓楽街だった。

もちろん、本来であれば高校生であるはずの淘汰がいていい場所ではない。



「女の子いかがですかー。JK、JC、JSと、イイ娘揃ってますよー」

「お時間だけでも少しお貸しください、五分で千円を十万と引き換えできます」

 明らかに怪しく、明らかに法に触れるであろう屋外宣伝の声が飛び交う。淘汰にも数名声を掛けたホスト風の若い男がいたが、彼はそれを必死の思いで無視した。

 なかには

「毒はいかかですかー、トリカブトからマリファナまで……」

 と、危険薬物や薬草を売り歩く少年の姿もあった。

 遠くの方で男たちの喧嘩の怒声が聞こえる。淘汰は一瞬身を震わせた。



 なかでも淘汰の目を引いたのは、道路のど真ん中で

奴隷ペットはいかがですかー? 一時間一万円でーす」

 と、セーラー服を着、首輪を嵌めた、恐らくは中学生くらいの、自らの肉体を売りに出している美少女だった。

 その顔はどこかやつれ、声にも張りが無い。

 淘汰はいたたまれない気持ちになりながらも、ただ見なかったことにして、通り過ぎることしかできなかった。



「お嬢ちゃーん、おじさんと一緒にホテル行かなーい?」

 酔って千鳥足になった禿げ頭の中年男が、コンビニの前で煙草を吸っていた若い女に声を掛けていた。

 若い女は黄緑のパーカーを着、サングラスを掛けていた。


「んー……どうしようかな……」

「頼むよぉ……好きなもの買ってあげるからぁ」

「おじさんそれって援交じゃん、きっも」

「そぉう?きもいぃ?えへへ……」

 下品な笑い方をする男だった。

「じゃあ、いいよ。おじさんにあたしの****貸してあげる」

「もう、駄目だよぉ、淫乱になっちゃ」

「えへー」

 惚気のろけるようにぴったりと中年男の腕にすがり、甘える女。



 そのまま道を寄り添いながら歩くふたりに、淘汰は少し興味が引かれた。

――……ちょっとついて行ってみるか……。


 ふたりの後を追ってみると、歓楽街の路を少し外れた場所にある、真っ黒な灯りのない小ビルに着いた。

 そのビルには窓がひとつもついておらず、看板も、照明のひとつも外観には見られなかった。淘汰は近づくまでその建物の存在に気付かなかったほどだ。

 男と女はその暗い玄関から中へ入り、そのまま見えなくなった。


――どうしようか……。

 三十分ほどあたりをうろうろし、とうとう淘汰は覚悟を決めた。

 コンクリートが剥き出しになった玄関。見張り役がいるのかと思えばそうではなく、かといってインターフォンがあるわけでもない。防犯カメラもあるにはあったが、壊されているようだった。



 恐る恐る中へ忍び込み、壁を右手で触りながら歩く。背後で音がして心臓が止まるかと思ったが、鼠が汚れた地面を横切っただけだった。


 暗闇。

 わずかにひび割れた壁から差し込む外からの光を頼りに、淘汰は足を進める。やがて階段を見つけ、淘汰はそれを上ることにした。

 その螺旋は金属で、足を乗せると狭い部屋に音が響いた。


 手摺に摑まろうとするが、掌に違和感を感じる。離して見てみると、埃や黒い灰のようなものが手に薄っすらと付いていた。不快に感じ、淘汰はそれを壁に擦り付けた。



 三周ほど螺旋を回り、つまりは三階に着き、人の気配を感じた。

 女の喘ぎ声のようなものが聞こえた気がしたのだ。

 耳を澄まして廊下をゆっくりと歩くと、やがてその音源らしき部屋を発見した。


 真っ黒に錆びた扉には、『五十  』という表札が下がっており、後半の文字は汚れていてよく読めなかった。


 淘汰には、その扉がまるで地獄の門のように見えたそうだ。



 扉の隙間から漏れる光を見て、ここで間違いないと確信した。――が、どうにも一歩踏み出す勇気がなく、まずはそのドアに耳を密着させ、部屋の中の声を盗聴することにした。


 やはり女の甲高い声が連続して響いていた。


――なかで何か卑猥なことでもしているのだろうか……。


 普通ならばここで引き返すべきである。

子供が大人の情事に立ち会ってしまったというだけの話だ。

踵を返せばそれだけの話。


 ――“普通ならば”――。


 が、彼は思春期盛りの高校生である。

 幸か不幸か――彼はそのドアを開けてしまったのである。

 それがどのような運命を導くか――知らないままに。



 扉をそっと開け、音がしないよう、丁寧に閉める。

 今にも落ちてしまいそうな床を、軋まぬようにそうっと歩く。


 真向いのドアの刷りガラスから、光が漏れていた。


 喘ぎ声も大きくなる。

 

 ドアに近づく。玄関のものとは違って、木製で、比較的新しめのものだった。それはこの貧しい建物にはかなり不づり合いなものに見えた。


 鼓動が大きくなる。


 心臓の、鼓動。


 興奮。


 好奇心。


 欲求。


――何かが……“何かが起こりそうな予感がする”‼


 そして奇しくもその予想は、現実のものとなる。

 ドアノブに手を掛ける。

 冷たい。

 なかの様子を見るため、少しだけドアに隙間を開けるよう、その塀板を外向きに押す。



 最初に目に入ったのは、――脚だった。


 脛毛が無法に生え散らかされた、お世辞にも清潔とはいえない太い脚。

 それが、

『がんっ、がんっ』

 という音に連動して、ベッドの上で飛び跳ねていた。


――まるでコンクリートの地面に釣り上げられた魚みたいだ……。


 そして、視線を少し右に向けると……赤。

 あかあかあかあかあかあかあかあか。

 それは、赤であり、朱であり、紅のようでもあった。



 一瞬、それがかつて、生きた人間であったということを、忘れてしまった。

 作りものにしか見えなかった。

 マネキンや、

 人形と同じ。



 両の腕はありえない方向に捩じり捻られ、胸からはばきばきになった肋骨が貫通しており、心臓部だけが抉り抜かれたようにぽっかりと穴が開いている。鳩尾みぞおちには大きな溝が出来ており、へそは切り開かれ、生々しい色の臓物が飛び出され、晒されている。――頭部に至ってはもう説明のしようがない。――


 首を斬られ、そのかち割られた頭蓋は、溢れる血とぼろぼろの皮膚と髪の毛とともに、床に転がされていた――。



 がんがんがんがん、と、恐怖を煽るような、打擲ちょうちゃくの音。



 そしてその凶行は、――現在進行形で行われている。



「あぁぁ……。――――……ぁぁあああぁ‼」

 殴る、なぐる、なぐる、なぶる。



 その女は、妖艶でしなやかな色白の肌を、真っ赤な返り血のドレスで彩る。

賊害ぞくがいの快楽に身を委ね、精神の獣を解き放ち、阿鼻叫喚が如き嬌声を上げた。


 手に持っているのは――鎖の付いた刺々しい鉄球。

 その犀利さいりな角を、何度も繰り返し死体にぶつけていた。――否、投げつけていたという方が正鵠を射ているだろうか。それくらい乱暴な所作だった。



 その女は、まるでこの地獄をたのしんでいるかのようだった。



「――あぁ……」



 漏れた、声が。

 堪えていたのに。我慢していたのに。

この程度の事では驚かない、自分は強い人間なのだ、と――思っていたのに。


 女は、振り向いた。こちらを。しっかりと。見据えて。その真っ赤に充血した狂気の瞳で。 

――逃げなきゃ!

 そう思った。なのに、ドアノブを握る手に力が入らない。

 膝ががくがくと震える。



「おい」



 遂に腰が抜け、そのまま座り込んでしまった。

――気付かれた。

――逃げよう。

――どうやって?

――体が動かない。

 頭は冷静なのに、心臓だけが独走している。



「何しに来た」



 ひどく冷たい声で、突き放すような言葉の体。

 ドアは自然に開き、その角で、淘汰は震えながら殺人鬼を見上げていた。

 鋭い目つき。短い髪。覗く八重歯。


――殺される。


 逆光で表情はよく見えない。

 けれど、めらめらと沸き立つ殺意と、右手に持った凶器で、友好的でないのは一目瞭然。



そのとき、何を思ったのか、淘汰の返事は、こうだった。


「僕を――――――――――弟子にしてください」


 女の唇の端が、わずかに上がった。


ブクマ有難うございます


次の話も是非お願いします。


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