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過去と今と未来の君は

作者: 柊 椎九

三題噺です。

お題はカツラ、ロケット、辞書

 

 今日は外にでると決めていた。

 幸い朝から体調は悪くない。

 ベットの脇に置いてあるかつらを頭につける。

 薬の作用で髪が抜けるのは知っていたけど、実際に抜け始めるとかなりくるものがあった。


「ほんとに綺麗な髪だよね。俺は癖っ毛だから羨ましいよ」


 にかっと笑う顔が思い出される。

 さらりとのびた髪はあの人が何度も褒めてくれたものだけに、惜しい。

 鏡をみても、このかつらが似合っているのかどうかすらよくわからなかった。

 しかし、そんなことを言っていても仕方がない、仕方がないのだ。

 いつまた体調が悪くなるかもわからない。

 机の引き出しからロケットを取り出して首から下げる。

 誕生日にあの人からもらった私の宝物。

 ついぞ聞き出せなかったが、多分結構高い。

 なかには2人で撮った写真が入っている。

 写真に写るのがが嫌いなあの人との貴重なツーショット。

 撮るときにあの人はこんなことを言ったっけ。


「君の誕生日だから写るんだからな。これは普通じゃないからな」


 いつもニコニコしているのに、写真になったとたん不器用になるあの人をみると、私は自然と笑顔になる。

 私を元気にする魔法のロケットだ。

 明日はあの人の誕生日。

 買う予定のものは決めている。

 辞書。そう、辞書だ。

 彼の夢は翻訳家だと聞いた。

 辞書は高いのだが、ロケットももらったことだし奮発しちゃおう。


「こんな高級品もらっちゃって悪いなぁ...ここは奢るよ」


 自分のことを差し置き、そんなことを言うあの人の顔も仕草もすぐに想像できる。

 辞書なんて実用品にしたのはちょっとした逃げかもしれないなと思う。

 でも、来年いるかわからない私がペンダントやネックレスなんて送れない。

 あの人には未来があるのだ。

 過去の私にとらわれるべきではない。

 死ぬのが怖くないなんていうと嘘になる。

 でも、病気になったからこそ芽生えた感情もたくさんあるのだ。

 過去も今も、未来さえもあの人との思い出で色付けることができる。

 残された時間も、過ぎ去った時間もたまらなく愛おしい。

 有限だからこそ、永遠じゃないからこそ、全てをかけて、全身全霊であの人が好きだと叫べるのだ。

 そんなことを思いながら、私は玄関をでた。

 あの人は今何をしているのだろう。


読んでいただきありがとうございます。

単語3つを繋げるときこれしか思いつかなかったので書きましたが、もう少し練って書きたい話でもありました。

後、今回からタイトルつけ始めました。

所要時間3時間12分

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3つのキーワードから作られた文章と思えないほど、物語に奥行きがありました。 [一言] 好きな人より先に死ぬということは、それほど不幸でもなく、むしろ残された方が辛いのかもしませんね。
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