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65,繋がる約束


 久しぶりの、シェリーズ城へは最初の予定通りに特別なトラブルもなくたどり着くことが出来た。

「お姉さま!」

ラリサがドレスの裾を持ち上げて走ってくる。

足首どころか膝まで見えてしまっている。

「ラリサ、ただいま」

飛び付くように抱きついてから、ぴょんぴょんと跳ねている。


「ラリサ、お客様も一緒なの。はしたないわ」

嗜めたのはローレンスを抱いたグレイシアだ。

久しぶりに会うと、ローレンスは赤ちゃんから幼児へと成長していて、弱々しい赤ちゃんからふくふくと愛らしい子供になっていた。


「お母様、ただいま帰りました」

レナがそういうとグレイシアは、お帰りなさいと微笑んだ。


「でも………お客様って言っても、未来のお義兄さまでしょ?」

ねっ?

とラリサはレナを見て、その隣に立つヴィクターを見てにっこりと笑う。ラリサはその愛らしい笑顔の威力を正確に知っているらしい。

「私は構いません。レディ グランヴィル、レナの妹なら私にとっても妹ですから」

どうやら、ラリサはいつも通りだけれど、ヴィクターの方は大人の紳士として対応するらしい。改まった言葉使いがレナには新鮮に感じられる。


「お姉さまの好みは正統派美男だったのね」

ニコッと笑いながらこそこそと言ってきたけれど、その声は大きくてきっとヴィクターに聞こえている。

「ラリサ」

「だって、わたしはそんなに覚えてないけど、邸のみんながヴィクター様は、昔から見目麗しい少年でって言うから、大人になったらどうなの?って思ってたの」


「ラリサったら」

ラリサのおしゃべりが止まらず、レナは恥ずかしくなってしまった。

「わたしがデビューの時は、お義兄さまと同じくらい格好いい男性をエスコートに選んでくれる?」

グレイシアにラリサが話しかける。


「そうね、その時はレディ アシュフォードに頼んでおきましょうね」

「レオお兄さまじゃ、やっぱり間に合わせって感じになりそうだから嫌なの」


「お父様は書斎にいらっしゃるから、ご挨拶を先になさいね、ヴィクターはそのあと部屋に案内するわ」


ヴィクターと揃って書斎に行けば、思った通り仕事をしているらしく、机の上にはたくさんの書類が重なっていた。

「おかえり、何事もなく良かった」

「ただいまお父様。もうお仕事なの?」


「しばらく留守にしていたからね、確認したいことがたくさんあるんだ。ヴィクターも疲れただろう?二人ともゆっくりと休んでおいで」

それに返事と挨拶を交わして、レナはヴィクターの部屋を使用人に尋ねた。


ヴィクターの部屋は客間の一番いい部屋だ。

二間続きの部屋は奥が寝室、手前が居室となっていた。室の良いものながら、派手さはなく品が良い、ここはレナも好きな空間だった。


「いい部屋だ」

「でも、わたしの部屋から遠いわ」

「レナの部屋はラリサの部屋から近いんだろ?」

「確かに、そうね」


でもそれのどこが駄目なのか、疑問を感じた時、揺れるイヤリングのついたその耳の近くに音をたててキスされてレナはハッと扉を見た。

「つい、こういうこともあるから」

旅の間、そういう親密な事をしてきた自覚はあってつい(・・)があり得ないと否定は出来なかった。


不意打ちにドキドキさせられて、収まるのを待っていると、開いたままの扉から人の気配がして振り向くと、お仕着せを着た従者がお辞儀をしていた。

「ヴィクター様、身の回りのお世話をさせていただきます」

「ありがとう、じゃあ早速着替えの準備を頼めるかな」

「承知致しました」

旅装のままの二人だった。


従者はトランクから着替えを出して、ブラシを丁寧にかけていく。

「レナ、後で久しぶりにガーデンを案内してくれないか?」

「じゃあ着替えをしてから」


「いつもの所で待ってるよ」

いつもの所、というのは小さな頃遊んだ場所であるノットガーデンの事だろう。


自室でナタリーの手を借りながら、デイドレスに着替える。

「すっかりお綺麗になって」

「そう?」

「やはり婚約をされたというのは大きいことですね。そのお相手がヴィクター様というのは私もとてもうれしいです」

「ありがとう」


コルセットの締め方にも、上手いという人はいるのだけれど、ナタリーのそれはとても上手いのだ。緩い訳じゃないけれど、しっかりと締まる。それを言うと、

「それは奥方様とレナお嬢様はほとんど同じ体型でいらっしゃるから」

「そうなの?」

「はい、よく似ておいでです」


紐を結び終わったのを感じて、息をゆっくりと吐く。数日ぶりに他人の手による締め具合は背筋が伸びる心地がした。

淡いピンクにベージュのリボンのデイドレスを着ると、レナは傘を手に約束のノットガーデンを目指した。


ノットガーデンの入り口辺りにヴィクターの姿を見つけて、レナは声をかけた。

濃紺のフロックコートを着たヴィクターは凛々しくて、そんな彼が再びここに来ているというのがなんだか不思議な感じもしてしまう。


「この生垣、こんなに低かったんだな」

今のヴィクターからすれば、記憶の生垣と全然違うはずだ。

「道理で大人たちには、迷路にならないはずだ」

レナはその言葉につい笑ってしまった。


「ジョエルと話したよ」

ジョエルの名にレナは、思わず歩みを止めてしまった。

「心配するような事は何もない。ただ、もう心配ないと伝えたかったんだ。だけど、正直言えば、あいつが相手だと………ものすごく焦らされた」

「わたしも、ヴィクターがどう思ってるか、気になっていたの。それに、ジョエルとどう顔を合わせて行けばいいか」


「気にしてたのか」

「へんな意味じゃなくて……単に……色々、心配っていうだけ」


「うん。俺は今、ここにこうして二人で居るって事が答えだと思ってる。それにお互いの気持ちも一つなんじゃないかと……焦らされたというのが、背を押させたっていうのはもちろん否定は出来ないけど」

ヴィクターはレナの方を向くと、どうやらレナが来るまでに作っていたらしい、白い花で作った花冠をレナの頭に乗せた。


「だから、そろそろ俺と同じ名前になる?」

あの時と同じ、花冠。


おままごとみたいな婚約をしたときも、ヴィクターは花冠を作ってレナに贈ってくれた。

『今はこれが精一杯』

そう言って笑った顔を朧気に思い出す。


「男は膝をついて求婚をするものだけど、俺は求婚をしてる訳じゃない。返事はyesしか聞く気はないから」

そんな自信家な発言も、決して過剰な訳じゃない。なぜなら、そうに決まってるのだから。

微笑んではいるけれど、瞳はとても真摯な光が感じられる。


「ふふっ、ヴィクターらしい……。もちろんわたしもyesしか言わない」

すでに婚約しているのに、こんな風に改めて言ってもらえると嬉しくて思わず照れ笑いをしてしまう。


「愛してるよ、レナ。だから結婚しよう」

三度目の、ちゃんとした求婚。

「はい」

まだまだ自分達は若くて、未熟で………でも目の前の男性(ひと)の手を取ることに迷いはない。


遥かな過去にも思える、幼い頃の約束は、再び新しい約束に色鮮やかに時を経て紡がれて甦りそして新たに育まれる。


目の前には同じ緑の瞳、そして鮮やかなグリーンのノットガーデン。

握られた左手にはすでにはまっている指輪。それから傘の中で約束の証のキスを交わした。


三度の求婚も、それに、こんな順番があべこべで型にはまらないのも、なんだかとても自分達らしい。


これからもずっと、こんな風に同じ時を刻みたい。

そしてきっと、もっとずっと、好きになる。


レナの手を取るのはヴィクターしかいない。

思い出も、未来への希望もすべては彼と共ににあるのだから。



―完―

最後までお読み下さりありがとうございました!


本編はこちらで完結ですが、書きたいエピソードもあるので、もしかすると追加するかも知れません(*´ω`*)

1話目から時間がかなりかかってしまいましたが、更新毎に読んでくださった皆様本当にありがとうございます。とても励みになりました!


一言でもいいので感想など頂けると嬉しいです♪


このシリーズはこれで最後かなと思ってますが(と、いいつつもまたあるかも?)、シリーズ全てお付き合いしてくださった方、本当に感謝です!

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