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46,計画の一歩

オペラの日を経て、ヴィクターとの関係は、まだ完全に霧が晴れた訳でもなく。だけど、待ってるように告げられた、という事は希望を持っていていいということで……。


握られた手も、額へのキスも、暖かくて心地よかった。緊張させられる相手でもあり、レナを心地よくさせてくれる相手でもある。


朝からお茶会の準備に、ミアたちメイドはあれこれと指示を仰ぎに来ていて、レナはこのシーズンに学んだ事から、花の種類から配置、それにお茶の種類からお菓子を買うお店、それに椅子を配置して、完璧な演出をしていく。


これからこういう機会を何度も重ねる予定なのだから。まずは計画の成功への第一歩。それを成功させるのだ。

部屋はガーデンへと続く明るい広間。椅子は一つのテーブルを囲むのではなく、一見するとバラバラに置かれたような配置にそして小さなテーブル。茶器を置くのはワゴンで、様々な種類のお菓子を置いて、フルーツで更に彩る。

花は柱に絡ませたり、リボンで結んだりしながらそこかしこに飾りつけ、堅苦しい形式的なものではなくて寛げる空間を心がけたのだ。


今回のお茶会の招待客は、コーデリア、ジェール、エリー、シャンテル、キャスリーン、メリッサ、アニスだった。

明らかに友好的な3人、グレーな2人、基本的には非友好的な2人のまずまずのバランスとなった。めいめいが気に入った椅子に腰かけて、お茶をそれぞれに行き渡ると


「それで、どんな計画があるの?」

上手く口火を切ってくれたのは、穏やかなエリーだった。

「もうシーズンも終わりでしょう?だから、最後に皆で楽しく過ごしたくて、仮装舞踏会はどうかしらと思ったの」

「仮面、ならぬ仮装なのね!?」

弾んだ声をあげたのはキャスリーンだ。

「場所はどこでするの?レディ アシュフォードがいるお屋敷ではそんなこと許されないかも」

「アークウェイン邸よ」

レナはシャンテルに微笑みかけた。

「ええっ!アークウェイン邸!」

そんなことが可能なのかと言いたげなシャンテルに、レナは大丈夫よと頷いてみせた。


「それはいい考えね。フルーレイスの人に彼は貴女の物だと分からせれるわ」

アニスが軽く首を縦にしながらそう言った。

「テーマは?」

「そうね……みんな終わりに少しくらいは羽目を外していいと思うの。だってすぐに領地へとかえるでしょう?パルヴァン風なんてどう?みんなドレスを着るの、新しくしなくても、手持ちナイトドレスのを手直しするだけでも大丈夫そうだし…」

パルヴァンは遠い国だが、イングレスとは交流があり、馴染みある異国情緒溢れる衣装は魅力的だ。

「楽しそうだわ!実はクリフォードが、見聞を広げたいとかで外国の大学に行くとか言い出して。少し落ち込みそうになっていたの」

ジェールがため息混じりにそう言った。


「最後の冒険なのじゃない?」

メリッサがそう言うと、

「最後、だと良いのだけど」

ジェールは扇をゆっくりと動かしながら軽く首を傾げた。きらびやかな容姿のジェールはそんな仕草さえとても華がありまるで絵のようだ。


「準備を急がないといけないわね。レナはアークウェイン邸で色々は手配をしないといけないから、わたくしとシャンテルでリストと宛名を書きましょう、キャスリーンとジェールには仮装なしで来た人に、気分を味わってもらえるベールや、ストールを用意しておくのはどう?」

コーデリアがてきぱきと上げていくのを、レナは頼もしく見つめた。

「たのしそう!」

キャスリーンが弾んだ声を上げた。

「じゃあ、エリーとメリッサにはメニューを考えて貰ってもいいかしら。うんと素敵なデザートを揃えたいわ」

「それ、素敵」

メリッサは嬉しそうに頷いてエリーも微笑んだ。


「じゃあ決まりね」

コーデリアがにっこりと微笑んで、ちらりとレナの方を向いた。


お茶会はそのあとも自分達のパーティーの話で盛り上がり、次は来週にと約束をしてお開きとなった。手応えはまず良い、と感じられた。

本来の目的は、レナの発言力をより高める事とその事により、セシル・アンブローズの社交界入りへの地ならしをするためだ。


このシーズン終わりの締め括りに相応しい華やかなパーティーの主催に携われる事がステイタスだと皆が感じてくれている、とレナは思った。


後は、スチュアートの執筆の速さ、それに出版の時期、そして……フェリシアの出産と、それにより、予想されるのはギルセルドの王宮へ帰還の赦しだ。それがピタリとはまれば、きっとこの計画は上手く行くとそう信じている。


客人の中で、エリーとコーデリアが最後になった。

「貴女、本当に変わったわ。レナ」

頬笑むエリーは落ち着いた眼差しを向けてきた。

「良くなったのなら良いのだけど」

「もちろんそうよ、ね、コーデリア」

同じ年の二人は揃って頷いた。

「顔が見えなかったら、私でも少しは堂々と振る舞えるかしら」

どうしても地味な容姿のエリーは、自信が持てないらしい。

「つくづく嫌になるの。ダンスに誘われても、目の前の人はガッカリしてるのじゃないか気になるの。そんな自分も嫌なのだけど……、だから私も楽しむ事にするわね」

「貴女は素敵よ、エリー」

コーデリアがキッパリと言いきった。


「ありがとう。でも……ジェールくらい美人でもやっぱり悩むものなのね」

「クリフォードの事?」

「あんな風に落ち込みそう、なんてはっきり言うなんてジェールにしては随分落ち込んでいる証拠よ」

「確かに……気の強いジェールが、そんなことを口にするなんて……もっと気にするべきだったわ」

レナがそう言うと、エリーは軽く瞼を伏せて

「難しいわね。お似合いの二人なのに」


そこまで話した所で、マクラーレン侯爵家の馬車が用意されエリーは馬車に乗って帰っていき、コーデリアが最後になった。

「ジェールの事はエリーに任せて、レナは今たくさんしないといけないでしょう?それに、レナ自身がヴィクターの事では大変なはず、全部をこなすのは、難しいことよ。だから……全部が終わってから、ね?」

「ええ、ありがとう……コーデリア」

「それから私もとっても楽しみよ、仮装舞踏会」

「思い切り、楽しくしましょう」


最後にきゅぅと抱き合って、コーデリアは帰っていき、レナは一人ホールに残された。


そして、この日はなんて客人の多い1日なのだろう。まず門扉をくぐってきたのはヴィクターとヴィクターの父のキース・アークウェイン伯爵だった。


「今日はグランヴィル伯爵に用事なんだ」

「そう……こんにちは、アークウェイン伯爵閣下」

レナはキースに軽く膝を曲げて礼をとった。

「こんにちは、今日は若い令嬢たちが集まって賑やかなお茶会だったんだね」

ヴィクターと似た、顔や声だけれど年齢の分深みがありゆったりと染み入るような雰囲気だ。


「ええ、ちょうどシーズン終わりのアークウェイン邸をお借りするパーティーの事を話していたのです」

そこまで話して、きっとその話で来たのだろうとそう解した。

「うちはどうも、そういうのが二の次になってしまう家で、せっかくのホールも人で埋まった所を見た記憶がないくらいだ。うちの者たちは張り切って準備をすると息巻いているよ」

暖かい笑みに、レナは元気付けられた。

「快く引き受けて下さりありがとうございます」

「いつでも来るといい。いつでも誰かが歓迎する」

そう言われても、先日の失態がレナの心を落ち着かせなくする。

「気にしてることなら、心配要らない。みな、ヴィクターが悪いとわかっているからね」


隣で肩を竦めて、頷いて

「父の言う通りだ。レナが気軽に来ないと更に責められそうな程だから、助けるつもりで来てほしい」

「では……近いうちに……」

レナはキースに微笑みを返して、立ち去る二人を見送った。


そして、続いてやって来たのはジェイラスだった。


「約束も無しにすまない。でも、急いでいるだろうと思って」

ジェイラスが差し出したのは、大きな封筒だった。

「ご依頼の品」

「もう、書けたの?」

「ああ、だから今は書き終えて寝てるから、代わりに持ってきたと言う訳だ」


ジェイラスに渡された封筒を持ち、ジェイラスと玄関ホールの椅子にそれぞれが座りレナは小説を取り出した。スチュアートの原稿はタイプライターで書かれていて、所々自筆で直しが入っていた。文字はどことなく几帳面な様子で並んでいる。あれからもしかすると、休むことなく書いてくれたのかも知れない。


内容は王子様と恋に落ちる目立たない娘、名前などは違っても、これはあの二人の事だと皆が思うだろう

ある日娘は、亡き母親を訪ねてきた弁護士に、母の代わりに遺品を受け取るように伝えられる。そこは祖父の友人の屋敷で、療養来ていた王子と出会うのだ。はじめから惹かれあう二人だけれど、身分の違いから諦め別れる。

しかし、日が経つにつれ彼女を忘れられない王子は、彼女へ手紙と花束を送り思いを伝えるのだ。そして手紙は増えていき、逢瀬も重ねて行く。二人の交際を知った周囲は、娘に釣りう騎士と結婚するように追い込む。それを知った王子は拐うようにして助け出す………そして最後は………。


ラストは、曖昧なままに終わっている。


「凄く………良いと思うわ。こんなに早く書けるなんて」

「それを聞けて良かった。アートもきっと安心する」

ジェイラスはレナから封筒を受けとると、しっかりと再び封を閉じた。


「レナお嬢様、シルヴェストル侯爵閣下がお越しです」

「えっ?」

爵位で告げられて一拍戸惑い、それがジョエルの事だと気づいた。


「ジェイラス、君も来てたんだ」

「あぁ、だがもう帰る所だった」

ジェイラスは立ちあがり、ジョエルに向き直った。

「レナに用事?」

「そうなんだ。クリストファーに明後日のグレイ侯爵家の晩餐会に一緒に行くように言われたのだが……エスコートする相手を用意して良いかと聞かれて、断った。それでその相手をレナにと思って頼みに来たんだ」

ジョエルは手にしていた小箱をレナに手渡した。中には扇とハンカチが入っていた。

「レナなら、婚約者もいるから角もたたない」


ジョエルは今、プリシラを口説いているのだろう、それで余計な相手と噂になりたくないのだろう。

「困った叔父様ね。分かったわ、利用されてさしあげます」

「察しの良い子はありがたいな」

くすっと笑われた所で、


「レナお嬢様、ルーファス・アボット卿でございます」

「え?」


見れば、美しい銀髪が目に飛び込んできて、華やかなルーファスが、美しい花束を抱えていたのだ。

「あれ?先客だったのか、これはお見舞い。元気そうで安心した」

「わたし、病気な訳では」

「噂は知ってる。他の女性と噂になるような婚約者なんて振ってしまえと言おうかと思って、この国には他にもたくさん若い男はいる。例えばルーファス・アボットだとか」

どこまで本気なのか、ルーファスはクールな微笑みを見せながら大きな花束を渡してきた。

「ありがとう、心配してくれたのね」

もしかすると、ヴィクターの顔の事はレナが思う以上に噂になったのかも知れない。

「今夜、オルグレン邸でごく内々の音楽会をするんだ。レナにぜひ来てほしいと思って誘いに来たんだ」

「今夜?」

そう、とルーファスは頷いた。


オルグレン侯爵は、クリスタ王妃の父親である。だからレナは今取りかかっている計画の事に関わるのかとそう判断したが、それを今は確かめられない。


「支度には時間がかかるわ」

「分かってる。だから待たせて貰ってもいいかな?」

「ええ、もちろん」


「良かった……やぁ、ヴィクター。来てたんだな」

レナは振り向いてそこにヴィクターの姿を認めた。


レナの手には花束と傍らには贈り物の箱。それに目の前には3人の男性。


「話は、終わったの?」

ああ、と短い返事をしてヴィクターはそのままホールをたちさってしまった。


「あいつ、大丈夫かな?」

ジェイラスが言った

「友人のあんな顔を見るのも悪くないだろ?」

くすっとルーファスが笑うとジョエルも

「違いない。あいつは可愛いげのない下級生だった」

レナはそんな風には思えず、

「失礼しても良いかしら?」

「何時間でも待ってる」

ルーファスの笑みに頷いて、レナは贈り物を従者に預けて部屋へと向かった。

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