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21,計画

 レナがデュアー公爵家に滞在すると決めてからのジョルダンの行動はとても早かった。

ウィンスレット家へ馬車を返し、連絡をしそれから、レナの荷物をアシュフォード侯爵家からデュアー公爵家へと手配し、翌日にはレナと揃ってデュアー公爵家へと馬車を向かわせた。


そこにはミアをはじめとして、メイドと従者をつけていて公爵家の負担をかけさせないというジョルダンの意図を感じさせられた。


「本当に来たのね……レナ。―――グランヴィル伯爵。お久しぶりです」

玄関ホールで出迎えたコーデリアは、ジョルダンに微笑みかけた。

「娘が世話になります。公爵にご挨拶をさせてください」

「ええ、もちろん」


ジョルダンはレナを連れ、コーデリアの後に続いた。

クラレンスは、昨日会ったときのように日当たりの良い部屋で椅子にゆったりと座って、二人を出迎えた。


「ジョルダンか。なるほど、こんなに大きな娘がいるのだから立派に大人になっているはずだな」

クラレンスの言葉に軽く笑みを唇に浮かべた。

「確かに公爵からみれば、私はまだまだ若造ですね」


「油断のならない若造だ。嫡男でもなく、まったく関係のない名の爵位を得るとはな」

「たまたまです」

ジョルダンの答えにクラレンスは笑い、

「たまたまか、その辺りの事を老い先短い私に話していけ」

「その代わり公爵も、私に秘密を教えて行って下さい」

「それは、長くなるな……滞在するなら教えられるだろう」

「それでしたら、図々しく娘共々滞在させていただきましょう」


そんなやり取りを聞いていたコーデリアは、

「お祖父様はあなたのお父様がお気に召したようね。私たちは作戦会議よ」



***


 コーデリアの部屋は、公爵家の令嬢らしく寝室とそれから居室に分かれた広々とした部屋で、代々受け継がれてきたらしい歴史を感じさせる調度で揃えられていた。

「レナは、良くも悪くもいかにも令嬢らしいのよ。まずはその雰囲気を壊してみない?」


「壊すって……」

「レナは昨日の話の中で、ヴィクターの隣に立って似合うのは、フェリシア妃みたいな人だって。別人なのだから同じようにはなれいけれど。まずは彼女たちみたいに見た目で、圧倒するのも必要よ」

「でも、私はあんなに綺麗じゃない」

「ばかね、そんなもの、化粧とドレスで底上げ出来るわ。それとあとは、態度ね。今までは何も反撃しなかったらやられっぱなしだったじゃない?それを変えるの。気弱な部分を、見せないで」

「頑張るわ。わたしが何とかしないと、お父様やジョエルたちが報復しそうだもの」

レナがそう言うと、コーデリアは笑いながら頷いた。

「でも、それだと根本的な解決にはならないわね。次のアニスやシャンテルが出てくるだけ」


レナは、その言葉に頷いた。

「あなたは頭が良いし、人の事もよく分かってる。だから………シャンテルを家に招くほど信頼は出来なかったのよね?」

「それは……わたしがそうだったから、シャンテルも」


「違うわ。相手が思うようにならないからって、悪意を向けるのは、間違いよ。ほんの少し、意地悪をしただけ……。でもそれが大きな悪意を呼んでしまったのでしょ?これは仕返しじゃないの。単に、これから先はそうならないように賢く振る舞うの」

コーデリアの言葉にレナは、まっすぐなその目を見ながら頷いた。

「まずは……ドレスから作りましょ」

「作るの?」

「そう。街へ行きましょ、その方がきっと楽しいわ」

「街へ?」

「いつも決まったドレスメーカーなんてありきたりになってしまうわ。お店を見て決めましょうよ。グランヴィル伯爵はとてもお洒落だわ、その娘のあなたもきっとその気になればうんとお洒落になるわ」

コーデリアの提案は、近頃悩みがちだったレナの心もうきうきとさせた。

「なんだかとても、楽しそう」

「でしょう?」


デュアー公爵家の御者を務めるのは、体格のよい見目の良い若者でコーデリアはカーク・オルセンだと紹介した。

「カークは馬にとても詳しいの。最初に会った時に言ったわよね?牧場の事がしたいと。彼も連れていくつもりなの」

「彼はコーデリアの恋人?」

レナは、思わずそう聞いてしまった。


「やだ、違うわ」

コーデリアはくすくすと笑った。

「カークは頼りになる兄のような相手よ、先は……わからないけれど。だって、貴族の若者にはない逞しさがあるものね」

「コーデリアったら」

コーデリアの瞳はキラキラとして楽しそうでさえある。


「私だって、無計画に貴族の暮らしを捨てようとしている訳じゃないわ。やはり、協力者は必要なの。私財はいつか尽きるわ、そうなる前に暮らしていけるようにならなくちゃ駄目なの。そのためには町での暮らしを教えてくれるカークがいないと無理なのよ。今のレナと同じ」


「何とか……ならないの?」

公爵家の令嬢が、全てを失うなんて違和感しか感じない。


「何ともならないわ。後の手段は結婚くらい、でも……今の私には結婚相手として何の利点もないわ」

「力になりたい」


「なれるわよ、アークウェインの領地には牧場がたくさんあるもの」

にっこりと微笑んだコーデリアに、レナは一瞬ぽかんとして笑ってしまった。

「だから、レナを介してヴィクターに繋ぎを作るのよ。今回の事は、慈善事業じゃないわ。打算に満ちてるの。お互い様なの」

「コーデリア、あなたってとても……」

頭がいいというか、現実的でしっかりとしている。ちゃっかりとも言える。

「考える時間はたっぷりとあったわ」


コーデリアの父親が亡くなったのはコーデリアが4歳の頃だと聞いた。領地で遠乗りに出掛けた際に落雷に遭ったのだという。

つまりは物心ついた頃には、公爵家の終焉が未来に待ち受けていたということになる。

それに比べると、レナはなんと甘ったれて育ったのだろう。4歳といえばヴィクターと婚約の真似事をした年とくしくも同じだった。



 馬車を降り、コーデリアと共に街中を歩くと子供の頃の可愛らしい冒険を楽しむような気持ちが甦るようで楽しくなる。

高級ドレスの店は大通りに何軒もある。この通りに自ら訪れた事はなく、これまではドレスメーカーを屋敷に呼ぶという事しか知らなかった。


「そのお店入ってみる?」

コーデリアが足を止めたレナに聞いてきた。看板には〝chouchou(シュシュ)〟とあり可愛らしいフルーレイス風のインテリアの小さなお店だった。


「こんにちは」

店には若い娘が立っていて、笑顔で二人を迎え入れた。

「ドレスを作りたいの」

「どのような?」

「彼女がとびっきり綺麗で主役になれるドレスよ」

コーデリアが言うと、彼女はにっこりと微笑んで

「お任せ下さると嬉しいのですが、デザイン画から作りましょう」


彼女はミリアだと名乗り、まだ今年始めたばかりの新しいお店なのだという。それでも、フェリシアの婚礼のドレスも手掛けたのだという。


「ありきたりにならないで。少しくらい大胆でも良いと思うの」

コーデリアの言葉にミリアは職人気質を刺激されたのか、目を輝かせながら生地を選び、次々とスケッチを書いて見せた。

「お嬢様は、少しくらい大胆なデザインでも上品に着こなせます。このようなデザインではいかがですか?」

「似合いそうだわ」


「でも、大胆すぎない?」

「大丈夫です。後はシンプルに、近頃はレースの多いものよりもすっきりとさせたデザインが主流ですし、こちらのデザインも流行のものです」

「じゃあ、これにしましょ。どれくらいで仕上がる?」

「お急ぎですか?」

「出来れば」

コーデリアの言葉にミリアはしっかりと頷くと、

「1週間でいかがですか?」

「お願いするわ」

「靴もお揃いで作られませんか?次の仮縫いの時に靴屋を呼んでおきます」

「まって、コーデリアのドレスも作るの」

「レナ、わたくしのは……」

「同じような雰囲気で作れる?」


「それでしたら、二着頑張って仕上げます!」

ミリアは笑顔を二人に向けた。


「それで……ドレスを作ってどうするの?」

新しいドレスがジョルダンの言うところの、レナのシャンテル達への対処になるとは思えない。


「後はレナ次第。これから特訓しましょ」

コーデリアはレナの手を強く握った。


コーデリアを信じる事を決めていたレナは、自信のあるコーデリアに頑張ると頷くしかなかった。

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