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20,公爵令嬢

 お茶の時間に、デュアー公爵家を訪問したレナは公爵家の本来の姿は、きっともっと、ずっと華やかなのだろうと思われたが、あちこちに飾られていたであろう美術工芸品の置かれていた跡を見れば、ひっそりとしていて寂しさを感じてしまう。


「……大きな屋敷なのに、寒々しいでしょう?今はもう働いてくれている人も、本当に少ないのよ」

コーデリアはレナの心を読んだかの様にそう言った。出迎えてくれた執事と、それからメイド。それに外には若い男性の使用人。

あとはキッチンにいるのだろうか。

大きな屋敷を維持していくには心もとない。


「たいしたおもてなしは出来ないと思うけれど、来てくれて嬉しいわ」

「わたしこそ、急なのに訪問を許してくれて嬉しい」

「本当の事を言うと、約束はしたけれどあまり信じてはいなかったの。見ての通り、私と付き合ってもなにも良いことはないから。社交界では落ち目の家とは付き合わないものよ」

「コーデリア、わたしはあなたともっと親しくなりたいと思ってるの。そんな事を言わないで……公爵閣下にご挨拶をしても?」

「ええ、もちろんよ。ありがとう、レナ。お祖父様もお喜びになるわ」


 コーデリアについていき、クラレンス・デルヴィーニュ デュアー公爵にレナははじめて対面した。

「お祖父様、友人のグランヴィル伯爵令嬢のレナよ」

「はじめまして、公爵閣下。レナ・アシュフォードと申します。今日は突然の訪問を許して下さりありがとうございました」

クラレンスは、廻廊に飾られていた肖像画では立派な体格の紳士だったがまるで別人のように痩せて衰えていた。

「よく来てくださった。この通り年には勝てそうになくてな、あとは迎えを待つばかりだ。コーデリアと仲良くしてほしい」

「もちろんです。閣下」


「レナがお花を持ってきてくれたのよ、綺麗でしょう?」

ウィンスレット公爵家の庭から選んで用意してきたのは、香りのきつすぎない優しい彩りの花束だった。コーデリアはそれを花瓶に生けて、クラレンスに見せるように花台に置いた。厳しそうな顔がほんの少し笑みになる。

「本当だ」

「気に入って下さって良かったです」

コーデリアは、クラレンスの座っている椅子の見える所でお茶を淹れて、ソファにレナを示した。




「今日は、コーデリアに相談があって……――――」



―――――レナはこれまでの事を包み隠さずコーデリアに話した。

「それで、レナは私にどうして欲しいの?」


「わたしが相手に隙を見せないように…簡単に攻撃を出せないように、なれるように教えて欲しいの。それから出来れば一緒に社交界へ……出てきて欲しいの。あなたの存在は大きいと思うわ、言い方は悪いのだけれどその力を利用したいの」

コーデリアは、ちらりとクラレンスを見た。


「あの日のガーデンパーティで、社交界とは最後のつもりだったのに」

くすくすとコーデリアは笑った。

「費用は、グランヴィル伯爵持ち?」

「もちろんよ」


レナは、勝手に言ってしまったがジョルダンならきっと許してくれるはずだ。それにレナに与えられている月々のものは、自由に使えるはずだった。

「あなたの未来の夫はヴィクター・アークウェインなのよね?」

「たぶん」

「多分?……好きだから、白紙にしないで戦う事を決めたのよねレナは」

「わからないの……。まだ、大人になってからはいろんな事が、複雑で……」

「レナったら。本当に、自信が無さすぎるのね。まずはそこから直さないと、駄目ね。あなたは自分で思うほど価値は低くないわ」


コーデリアは呆れたように言った。


「時間がないから、ここに滞在できる?」

「父にお願いしてくるわ。きっと反対はしないはず」

レナの言葉に深く首肯すると、

「私が貴女を変身させるわ、それって凄く楽しみ」

艶然とした笑顔に、レナは思わず見惚れてしまった。

「わたしも、なんだか楽しみ」


はじめて、自分の行動を決めた気がした。

コーデリアと会ったのはほんの数時間のこと。

それなのに、仲良くなりたいとそう思ったのだ。その相手と過ごせるというのはそれだけで楽しみなのだった。



 グランヴィル伯爵家で、家を調えているであろうジョルダンと話すために、ウィンスレット公爵家へ戻る途中にアリオール・ハウスへと向かった。中心地にあるような代々伝わってきたようなタウンハウスではないけれど、静かな環境がレナは好きである。


「レナお嬢様、おかえりなさいませ」

執事のバレリオが笑顔で出迎えてくれた。

「お父様は?」

「書斎におられます」


書斎に行くのはレナには躊躇いがある。

「お話があるの。広間で待っているわ」

「かしこまりました」


数えるほどの社交シーズンしかここで過ごした記憶はないが、それでもやはり他人の家よりは落ち着く。

この屋敷にもウィンスティアのシェリーズ城にも共通して、父であるジョルダンの趣味の調度とそれからグレイシアの好きなファブリックで満たされているからだろう。


「レナ、迎えに行くと言ったのに」

広間に入ってきたジョルダンに、レナは間髪いれずに本題に入った。

「その事なの。わたし、しばらくデュアー公爵家でコーデリアと過ごすわ」

「その理由は?」

「お父様との約束を果たすために、コーデリアの力が必要なの」

「なるほど、公爵令嬢であるコーデリアの。その名を利用するということだな?」


「もちろん、それもあるの。でも、それ以上にコーデリアのレディとしての能力が今のわたしには必要なの。こちらにお招きと思ったけれど、公爵閣下の体調が心配だわ。だから、わたしがあちらに」

「……レナの思うように、して構わない。どう二人が戦うのかを楽しみにしている」

「ありがとう、お父様」


レナはきゅっと抱きついた。



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