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19,突然の再会

 乗馬を終えて、デイドレスに着替えたレナはジェールと二人で朝食の席に向かった。

起きていたエリーは、先に食事を済ませたらしく部屋でゆっくりしている。


朝食の席は、ウィンスレット公爵家の庭に面した広間が用意されていて、先に席についていたヴィクターに椅子を引かれて、腰を落ち着けた。

お仕着せを着た従者たちが給仕をこなし、レナの前にもスープを音を立てずに置いた。

朝から乗馬をしたので、健やかな体は空腹を訴えていて思わず一気に飲み干してしまいそうになるのを、少しばかり我慢しなくてはならなかった。

そんなレナのすぐそばに座り、食事を再開させたヴィクターは、上品な振る舞いなのに瞬く間に目の前の料理をきれいに体内に納めていき、見ていても清々しい。


「まだまだ育ち盛りなんだ」

ヴィクターがレナが目を丸くして見ているのに気づいたのか、軽く笑みを浮かべながら言った。


「あらあら、ヴィクターったらどこまで育つつもりなの?」

背後からそう言葉がかけられ 振り向くと、そこにはこの屋敷の女主人であるウィンスレット公爵夫人のルナと、そして……

「レナにとっては嬉しいお客様よ」


「おはよう、レナ」


笑みを浮かべ立っていたのは、父のジョルダンだった。


「お父様!」

レナは椅子から立ち上がり数ヵ月ぶりの再会に、人目も憚らずに広げられた腕に飛び込んだ。


「いったいいつお着きになったの?」

「ついさっきだ。レナの婚約に関する話があるのなら、兄に任せたままには出来ない………まして、まずは父である私の許しを請わない相手となると、じっとはしていられない」

笑顔だが、そこにはどこか怖いものが混ざっている。


「お父様、でも相手はヴィクターなのよ?お父様だって昔認めてくださったのでしょう?」

ジョルダンに言い訳するかのように、レナは小さくさせた囁いた。

「食事の途中だね、座って……私は、ジョエルの隣に座らせてもらう」

その言葉を聞きながら、レナの意思よりもジョルダンの巧みなエスコートぶりでいつの間にか再び座らされていた。


座ったレナの視界に、ジョエルのややこわばった表情が見えこれはなかなかに珍しい事だとそう思った。

「……いや伯爵には今日にでも知らせを走らせるつもりだった」

「分かっている、ジョエル。だが、私はレナを辛い目に遭わせる為に王都でデビューをさせたのではないよ……と、まぁ言いたいことは食事の後にしようか。成長期の君たちには朝の食事は大切だ」

「グランヴィル伯爵、私はきちんと……」

「ヴィクター、話は後でゆっくりと聞こう」

ジョルダンは、柔らかな口調で言うと、優雅な手つきで朝食を食べ始めた。

とたんに勢いの衰えた、ジョエルとマリウス。それにヴィクターを見ながらレナ自身も緊張が伝染してしまい、なかなか食べ進める事が出来ない。


レナにしてもヴィクターにしても、ジョルダンへ手紙を出す前に当人が来てしまった。それも、こんなにも早くに……。

それはレナとしても、判断を誤ったとしか言いようがない。


そんな朝食の席は、会話も弾むとは言いがたくてレナは軽く済ませると、立ち上がった。

「レナ、後でこの隣の部屋に来るように」

「はい、お父様」


レナは、笑顔をつくって広間を後にしたが、そのあとは急ぎ足で部屋へと駆け込んだ。


失態だったと、そう思う。

何よりも先に手紙の一つは出しておくべきだった。表面は穏やかでいつも通りだったが、ジョルダンは怒っている……この上なく。

「……落ち着かなくちゃ……」


「どうしたの?」

エリーが緊張を隠せないレナを気にして本から顔を上げて首を傾げた。

「お父様が、来たのここに」

「良かったわね」

「……会えたのは嬉しいの。でも、わたしまだお父様に手紙を出してなくて、ヴィクターとの……事」

「仕方ないわ。昨日出したとしても、今日つくか着かないか……グランヴィル伯爵は、ずいぶんと急いでこられたのね」

「それはたまたまじゃなくて……」


といいかけて、レナはエリーは事情を知らないはずだと気づき口をつぐんだ。


「じゃなくて?」

「ううん、ヴィクターとの事で。急いで来てくださったの」

「娘の婚約は、大きな出来事だもの」

エリーはレナに笑みを向け

「そんなに緊張しなくても、レナとヴィクターなら大丈夫よ」

「エリー……でも、正直に言って……。不釣り合いじゃない?私たち……」

「不釣り合い?」

「ヴィクターは、全て完璧じゃない?わたし……」

「そんな事ないわ。それに、レナが見てヴィクターの隣に立って似合うのって一体誰なの?」

「それは……レオノーラ様みたいな……。例えば、フェリシアみたいな凛とした美少女かしら?」


レナは考えつつ言うと、エリーはあきれた様に本を置いた。

「レナは贅沢よ?私みたいに冴えない容姿してる訳じゃないのに。もっと自信を持って大丈夫なのよ?」


ジョエルの話が蘇ってくる。

まだ、白紙にすることは………出来る。


でも……例えば、誰かと踊るだけじゃなくて、誰かと婚約なんて事になったら……。

レナはそれを、祝福できるのだろうか?


俯きがちな気持ちがまた蘇ってくる。結局そのままレナは広間の横にあるピアノとソファ、それに書棚のある客人用の応接室へと向かった。

そこにはジョルダンはもちろん、ヴィクター、それにジョエルとマリウスの兄弟が待っていた。


「さっきも、思ったけれど……顔色が冴えない。それに、少し痩せたかな?」

「夜更かし、してしまったからだわ」

昔から、ジョルダンはそうしてきたようにレナの顔をしっかりと覗きこみ指先で頬に触れた。


ジョルダンは軽く微笑んだ。

「………例え今の状況が状況が難しかろうと、それをいかに楽しませるかが、エスコート役の君たちの役割じゃないか?いったい君たちは寄宿舎生活で何を学んで来たんだろうね」

ジョルダンの言葉にレナは、ジョエルの開きかけた口を遮るかの様に早く言葉を伝える。

「お父様……ジョエルもマリウスも、わたしを守ってくれていたわ」

「だったら……なぜ、アドリアン・アンスパッハから逃げ出すはめになった?レナ」

「わたしが……上手く出来なかった、だけ」

「アニス・ブーリン、もしくはシャンテル・ベイクウェルと?」

「そう……」


「レナがそう、自覚があるのなら。二人の事は自分で対処するとそういう意味に捉えてもいいのか?」

「対処って……」


「……一人ずつのしたことは、罪じゃなかったかも知れない。だが、結果的にはレナの知っての通り。きちんと対処を怠ったからだ。私は親としてレナを守る。レナが出来ないと判断したから報告を聞き対処しにきた」

「対処……」

「私は、娘を守るためならなんでもする。だから、ヴィクターが婚約して名を守ろうとしなくても大丈夫だ」


奇しくもそれはジョエルの申し出と、同じ事だった。

「ヴィクター・アークウェイン。君は6歳の頃の方が、誠実で気持ちがあった。レナ、君もね」

ジョルダンは立ち上がると、ヴィクターの前に向き直った。


「レナは……政略的な結婚をする必要はない。自分の意思で相手を選べる立場だ」

「グランヴィル伯爵、私は政略的な事とは思っていない」

ヴィクターはきっぱりと言った。

「二人とも、まだ若い。健康で……家柄も年齢も申し分ない、反対する理由は何一つない。だからこそ………こんな状態のレナを見て喜んで賛成はしてあげられない」

「お父様?」

「レナは、愛せる娘だ。だからこそ幸せを望んでいる、状況がそうさせた、とか条件がいいとかそんな理由でなら、なかったことにする。アンスパッハくらいどうとでも出来る。そうだろう?ジョエル」


ジョエルは頷いた。

「だいたい………さっきも言ったが、真っ先に親である私たちに報告が出来ないというのは、おかしい話じゃないか?今の二人は子供の頃よりも不誠実で意思が感じられない」


「ちゃんと、するわ。シャンテルたちの事も…ヴィクターとの事も」

「分かった。では、大人になりつつある君たちには猶予をあげよう。このシーズンが終わるまでに私が判断する。ジョエルとマリウスも、今度こそ油断するな。この状況を読みちがえ無いように」

「わかってます、グランヴィル伯爵」

ジョルダンはジョエルに頷いて、

「家が調ったら迎えを寄越す。それまではこちらでお世話になるように」

「はい、お父様……」


ジョルダンを見送って、レナは近くの椅子に力なく座った。


「どうしよう……。対処って………どうするの、わたし」

思わず言ってしまったが、レナは何の案もなかった。


「次会うのが……恐ろしいな……」

マリウスが眉を寄せている。

「登場が早すぎるだろ?どうやってこんな短時間で、事情を知った上で領地からここに来れる?」

ヴィクターが額に手を当てた。

「兄であるアシュフォード侯爵より有能だと評されていた人だ。それにしても早すぎるが……さすがと言うべきかな」

ジョエルが不敵に笑みを見せて言う。


「もっと、王都へ近づいて欲しいな」

「ジョエルったら。お父様はともかく、お母様はウィンスティアがお好きなの」

「レディ グレイシアもあの美貌をこちらで拝ませて欲しい」

ジョエルのそんな軽口をヴィクターは手で遮った。


「そんなことよりも、レナ。対処する方法を考えないと」

「どうしよう」

「レナが出来なければ伯爵は家ごと潰しかねない……それくらい、お怒りだと思う」

「そんな……シャンテルたちは……」

レナは椅子から立ち上がった。


「相談、しに行ってくるわ」

「だれに?」

「レディ コーデリア」

「コーデリアに?」


「伯母さまが言っていたわ。レディ コーデリアがいればと……だから、わたしの友人として……社交界に返り咲いてもらえないかと」

「なるほどね。しかし、コーデリア自身が中傷されやすい立場だ」

「でも、レディの中のレディだわ。それは、誰にも傷をつけられない」

レナの言葉に、マリウスが頷いた。


「デュアー公爵家へ送ろう」

「ありがとう、マリウス。でも一人で平気よ」

「分かった、使いは出しておくよ」

「はじめての訪問に、手土産は何がいいかしら?デュアー公爵には」

同じ年頃の同じ年頃のコーデリアならともかく、高齢のデュアー公爵に送るものは見当もつかない。


「公爵閣下はレナがコーデリアを訪ねて来ることが何よりの土産だと思う、コーデリアのために花とお菓子を持って行けばいいよ。それからあちらの屋敷で、二人で楽曲でも演奏すればいいんじゃないか?」

「ありがとう、そうするわ」




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