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1,想い出のグリーン

たくさんの作品の中から、アクセスして頂きましてありがとうございます(*^^*)


シリーズものですが、各作品はそれぞれで完結してます!

―――――思い出の、グリーン。



シェリーズ城の、鮮やかなグリーンのガーデン。

それよりも鮮やかな少年の輝く緑の瞳。

美しく整った顔にはらりとかかる黒い髪。

活発でしなやかな身のこなしの、伸びやかな肢体。


少年らしく溌剌とした声が呼ぶ「レナ!」と。


レナは彼が好きで……。いつも会いたいと思っていた。


大人になったら、結婚しよう!

そんな事を約束するくらいに……そして、それに大人たちが付き合って、婚約の真似事をしてくれるほどに、レナと少年。―――ヴィクター・アークウェインは仲が良かった。



それなのに……。



****



―――思い出の少年は、今、大人になったその姿でレナをやや強引と言えるほどに、肩を抱えるようにして歩かせている。暗闇のガーデンに屋敷の窓から照らされた灯りがわずかに視界を与えてくれる。


「待ってヴィクター……」

体を抱えられる様にされていたレナは懇願した。


 レナの淡いピンクのドレスは、今は暗くて見えづらいがあちこちが乱れていて何事があったのかと疑われるようなほど。

はしたないまでに汚れたりあちこちが裂けていて、結っていた髪はほつれいく筋か肩にかかっている。

――――こんなところを誰かに見られては、ヴィクターの名に傷がついてしまう。

そして、もちろんレナ自身も。


「これ着て」

普段は甘く響くその声は、今は怖いほど低く鋭い。ヴィクターは言葉と同時に着ていたテールコートを脱ぐとレナに着せかけた。見上げるほどの長身の彼のそれは、レナの体をすっぽりと覆い隠せてしまう。

「でも……もう離れないと、ヴィクターに迷惑が」

かかる、と言いかけたのに、

「顔を伏せて」

と、あっさりと言葉は無視をして、ヴィクターはレナを易々と抱き上げ屋敷に入って回廊を足早に歩く。


「如何されましたか、お手伝いが必要でしょうか?」

従者がただならぬ様子に声をかけてきた。

「彼女が気分が悪くなったので、送っていくところだ。アークウェインの馬車を呼び出してくれると助かる」

淡々と告げる声は、やや早口で淀みなく言葉を紡ぐ。

「承知しました」

それだけでは説明がつかないが、余計な詮索をしないのが良い従者である条件だ。


「ヴィクター……!」

「喋るな、気分が悪いふりを」

静かな、命令口調で言われてレナは言葉を失った。


従者は一礼すると滑るような足どりで、走らずに、しかし早く馬車つき場へと先行して、その跡をヴィクターが颯爽と続く。


着くと同時に廻されてきたアークウェイン家のユニコーンの紋章のついたの黒い馬車が停まりレナは抱えられたまま、そこへ半ば強引に乗せられた。


「ヴィクター……さっき言ったこと、だけど……」


「俺は…今、怒ってる。レナの意思は、聞かないそれに……」

あまりの瞳の強さに、レナは体を震わせた。


「約束は約束だ」

「覚えてる……でも、あれは」

正式な約束を交わした訳じゃないとそう言いかけると、

「正式なものじゃなかったら忘れていいとでも?」

そう先を読み取って続けた。


静かな怒りを秘めた声は、いつものヴィクターとはまるで違う人のようでレナは思わず両手で自分を抱き締めた。

キラリと光るのは、美しい緑の瞳。

いつもなら魅惑的なはずなのに、今はとても、怖くてただ首を横に振った。


「忘れて、なんていない。でも……あまりにも幼かったから」


「……隙がありすぎる、レナ」


「今まで……昔の話なんて、おくびにも出さなかったのに……どうして……」

「レナが俺を……嫌っていたから」

「嫌って……なんて」


ただ……いきなり大人になって、目の前に現れたヴィクターと思い出の少年が結び付かなくて……。それにヴィクターは側にいるとあまりにもレナをおかしくさせたから。


「目をそらしたり、あからさまに避けたり……挙げ句がこれだ」


レナはそう言われてまた、真っ直ぐに見ることが出来なくて視線を彼の胸元にさまよわせた。


「ほら……また」

指摘されて、レナは彼の美麗な顔に視線を戻すと、かっちりと視線が交わる。

「もう、嫌われてようがどうだろうが……構わない」


ヴィクターの緑の瞳はレナをまっすぐに見つめてくる。そこにはまるで魔力が秘められているかのようで、息さえも、鼓動さえも、時を忘れてしまった気がする。



………思えば………、あの日からレナは波乱じみた日々に翻弄されるようになったのだ………。


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