ここは異世界だった
女性は綺麗な金髪をなびかせ颯爽と部屋へと入ってきた。
顔立ちも整っており、多少たれ目がちだがパッチリとした目に、あり得ないような雪のように透き通った肌、鼻筋もすっとしており、まさに絶世の美女と言っても過言でもない。
そのため、男女問わず全員その女性に見とれていた。
しかし、それも一瞬で現実に引き戻される。
何せその女性の後ろには、十数人の鎧を着た騎士といった風貌の男性が、付き従っていたからである。
俺たちはその男たちにビビり一歩二歩後ろへ後退る。
その女性は微笑みながら口を開いた。
「ようこそいらっしゃいました。 私はエリザベス・イストランデと申します。 そんなに警戒されなくとも、私どもは何も危害はくわせません」
そう言い後ろに手をやり男たちを下がらせ膝を付かせる。
「これで大丈夫でしょうか? まだ信用して頂けないようでしたら、部屋の外まで下がらせますが?」
さらに彼女はそうこちらに話しかけてきた。
しかし、さすがにそれはどうかと思ったのか、男たちの先頭にいたリーダーらしき騎士が話に割って入った。
「申し上げますが、姫様を一人にすることはさすがにできません。 姫様に何か合ったら困りますゆえ」
騎士はその場で頭を下げながらそういったが、彼女は首を左右に振った。
「今大切なのは彼らの警戒を解き、こちらの話を聞いてもらうことです。 私が一人になることでそれが出来るのであれば、なにがあろうとかまいません」
「しかし……」
騎士はさらに食い下がろうと言葉を放つが彼女は取り合わなかった。
「あなた方は部屋の外に下がってください。 これでは話ができません」
「……わかりました」
そういうと彼らは入ってきたドアからみな外へと出て行った。
彼女は改めてこちらを振り向くと、今までと変わらぬ笑みを浮かべ、こちらへと話しかけてきた。
「失礼しました。 これで私とお話して頂けますでしょうか?」
話しかけらたが誰も返事をしない……いや出来なかった。
みな今の状況を呑み込めず反応できなかったのだ。
そんな中一番に立ち直ったのは、やはり委員長だった。
「……すまないが、こちらは状況が全くわからないのだが、説明して頂けるのでしょうか?」
「もちろんです。 あなた方がここにいるのは私たちが呼んだからですから」
委員長の質問に彼女はもちろんだと頷きこちらへと近寄ってきた。
「まず始めにご説明しますと、ここはあなた方のいた世界とは違う世界の王国、イストランデ王国と申します。 私たちがあなた方をこの世界へと召喚いたしました」
いきなりそんなとんでもない発言をしてきた。
俺たちの中では異世界召喚なんて漫画やライトノベルの中だけの空想の存在だ。
突然あなたを異世界に召喚しました、などと言われても普通は信用できないだろう。
普通であればそんなことを言っている人の頭を疑うであろう。
だがそれを真っ向に否定できない問題がある……
そうここへ来る前にみた空中に浮かぶ光だ。
あの光はここにいるクラス全員が見ている。
あんなもの地球では自然発生などしないし、ましてや突然教室の真ん中に浮かび光ることもない。
それに教室から一瞬で違う場所に移動したことも現実的にあり得ない。
まあ、あの光で気絶していたり、眠らされてたりしていたら、その間に移動していた可能性もあるが、それも腕に着けている時計の時間が否定している。
なにせ、今の時刻はあれからまだ15分もたってないのだから……
「ここが異世界だったのならば、何か証拠になるようなモノがほしいんだが、なにかあるだろうか?」
委員長が彼女にそう返すと俺たちも後ろで同じ気持ちだと頷いた。
「証拠と申しましても、なにが証拠になるのかがわからないので難しいですね。 ここの外に出て町並みを見てもらうのが一番に早いとは思いますが、今すぐにはそれも難しいのでどうしましょうか?」
彼女はも証明するのが難しいようで、困り顔でどうしようかと戸惑っているようだった。
そんな時に俺の隣にいた男子が小さく声を出した。
「異世界召喚モノならよくあるのは魔法があるとかが定番なんだな」
彼は大谷タク、俺の友だちでいわゆるオタクというやつであった。
そしてその友だちの俺もオタクだ。
よくつるんでるやつにもう一人いるのだが、それはまた機会があれば紹介する。
タクの隣で頷いてるやつなんだが……
俺もタクの意見には賛成だ。
何せファンタジーの中で、異世界と魔法は切っても切れないほど王道パターンだと言ってもいいからだ。
「魔法ですか? あなた方の世界には魔法はないのですか?」
タクの声は小さかったが彼女にも聞こえていたようで、そう聞き返してきた。
委員長はこちらをチラッと見たが、タクが首を振ったため委員長が返事をした。
この場でタクがみんなの前で話すのは無理だろう。
タクは人見知りだ。
知らない人とはしっかり話せないし、女子とは全く話せない。
俺は趣味が合ったから割りと早く仲良くなったけども。
「はい。 私たちのいた所には魔法というものは存在が確認されていません。 もし魔法というモノが使えるのであれば、ここは違う世界と言うのも信用できるかと」
「そうですか……この世界には魔法は存在します。 そんなに凄いことはできませんが、お見せいたしましょう」
そう彼女は言うと、聞き取れないくらいの声で言葉を呟き、手のひらを水を掬うように構えると、その手のひらの上にコブシくらいの大きさの炎が現れた。
その光景にクラス全員が唖然とした。
本当になにもない所から炎が出現したからである。
そして、ここが本当に異世界かもしれないと、多少信用していまったからでもある。
「ここが異世界であることは今は信用しよう。 みんなそれでいいか?」
委員長の問いにクラス全員が頷き肯定する。
それを見た彼女も安堵からか、短く息を吐き手に灯していた炎を消した。
「信用して頂きありがとうございます」
「信用はしたが信頼はしていない。 なぜ僕たちを召喚した?」
委員長は今までより言葉を崩し、彼女へと問いかけた。
「その事に関しましては私からはお話できません」
彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
俺たちにとっても異世界に誘拐されてきたも同然のこの状況で、そこは聞かないと納得できない。
「どうしてだ? そこは話してもらわないとこちらは困るのだが?」
みんな意を組んで委員長はさらに問い詰める。
「それはこれから我が父、国王がお話するからです。 私は只の案内役であなた方を迎えに上がっただけですので……」
彼女の口から国王と言う名前が出てきて、俺たちはざわざわとしだした。
国王が父ということはやはり彼女は王女様なのである
先ほどの騎士が言っていたことは聞き間違いではなく本当のことだったようだ。
「国王の所までご案内しますので、私についてきてもらえますか?」
その問いに委員長は多少顔をひきつらせながらも返事を返した。
「わかりました。 国王様の所まで案内をよろしくお願いします」