秋になる
先に注釈を。
桂花茶……キンモクセイの花を乾燥させて作ったお茶。桂花は中国語でモクセイのこと。
玄関を出た途端、甘い匂いに包まれた。
金木犀だ。
どこへ行っても、空気の中にこの香りが溶け込んでいる。
照りつける太陽は鳴りをひそめ、吹く風は素肌を晒すには少し冷たくなった。
あんなにうるさかった蝉の声も、今はもう聞こえない。
私が未練がましく追い縋っていた夏の残り香は、むせ返るほど甘い秋の匂いに消されてしまった。
帰宅し、お湯を沸かして桂花茶を淹れる。
湯の中に浮かぶ小さなオレンジ色の花は、秋風の中に存在感を示していたものと同じだ。
生花ほど強くない香りがふわりと立ち上った。
家の中にも、金木犀の香り。
秋の匂いに、溺れてしまいそうだ。
お茶を口へ運び、香りと共に飲み込む。
自分の外も内も金木犀の甘い匂いに満たされ、
そして、私も、秋になる。