チクショー、作戦会議だ
「くそっ、やられた!」
オレは両手で頭を抱えながら机に突っ伏した。ここは酒場の2階の一室で、月3000セルトでオレが部屋を借りた。ギルド推薦の宿だけあって、なかなか安いと思う。
今の手持ち金から言っても料金の安いここを拠点にするのは理にかなっている。なので手鏡を机に設置する。
ギルドを後にしてからいくつか人間サイズの家具や品物を買って、収納袋に入れてあるので本拠に行かねばならない。そして早急に対策を練らなければならない案件がある。
オレは手鏡のスイッチを押し、本拠に一旦戻るのだった。・・・クロフト、すまんな。お前んち本拠にさせてもらうわ。
気が付くとオレは一枚鏡の前に立っていた。周りを見渡してみるとだだっ広い広間にいる。うん、本拠だ。転移鏡ははちゃんと使えるようだ。
オレは収納袋から物を取り出す。まずソファー兼ベッド、クローゼットにタンスと買ってきた服一式の替え。あとは移動式黒板とチョークと黒板消しだ。え、黒板をどうするかって?今から使うんだよ。
「只今より、第1回真竜会議を始める。議題はあのセシリアとかいう受付からオレの写真を強奪もしくは焼却することである」
オレ以外誰もいないが元気よく言ってみる。オレ以外見るわけではないが、ガリガリと黒板に書いていく。全ては打倒セシリアのため!
まずセシリアについて聞き込みでわかったことをまとめていこう。実力は中級冒険者並で、ある程度の魔物なら一人で狩れるとのこと。それから闇魔法の使い手でレベル4、”即死”も使えるほどだということ。何故そんなのが受付にいるんだ?
そして何故か人の弱みを握るスペシャリストで、ヴェルフルトのギルドでセシリアに逆らえる奴はいないらしい。お金を巻き上げたりはしないようだが、救援依頼という名の強制はたびたびあるようだ。
今日オレはギルドの営業終了まで待って、セシリアを尾行し彼女の住処を確認してきた。家の前まで行ったわけではないが入った家は確認した。途中何度も気付かれそうになって危なかったが。
因みにレベル2闇魔法”思念写”は有効時間が3時間で、絵や写真の複製はうまくできないらしい。あの手に持っていた5枚で全部という可能性が高い。そう信じたい。
あとは写真の場所だが、脅しのネタを常に持ち歩いていては盗難のリスクが高くなる。故に写真は住処に保管するだろう。
「プランは二つ、1・直接襲う、2・留守を見計らって家に侵入」
1は魔法が使える中級冒険者VSただの新米になる。無理だ、子猫がライオンにじゃれついても結果は見えている。
2は出来なくはないがリスクが高い。しくじれば犯罪者で指名手配だ。・・・もう人間の世界は忘れて引き篭ろうかな・・・。
いや、これは真竜としてのプライドの問題でもあるのだ。ヤツはこのオレを舐めすぎた。真竜を舐めるとどうなるか、教えてやる必要があるのだ。フハハハハー
そう、真竜として挑めばいい。その場合は前提条件が変わる。
1は魔法が使える中級冒険者VS真竜になる。だが、戦場が街となると他の冒険者もまとめて相手しなければならない。逃げられる可能性が高いだろう。
2は破壊&焼却に変更。他の冒険者も相手しなければならないのは変わらないが現実的だ。引き際さえ間違わなければ大丈夫だろう。
あとは冒険者対策を入念にする必要がある。あの街には騎士団は常駐しておらず、警備兵しかいない。騎士団は隣の首都クランベリーにいるらしい。なので相手になるのは冒険者になる。
流石にあの3バカクラスはそうそういないと思いたい。が、かなりの多数を相手にすることは間違いないので・・・
「なんかいいアイテム無いんスかー、クロフトー」
オレは変化を解除し、真竜になって宝物庫に向かう。真竜用のアイテムは大きいので、真竜じゃないと探しにくい。
宝物庫を漁っていくと1つのアイテムが目に付く。『ハイパーロケットエンジンwith真竜 高い空を飛んでみたいアナタのために、たったの100秒で高度10000kmに上昇』・・・秒速100kmだと・・・?コレ0.5秒以内に捨てないと、ヤバイことになりそうだ。
あと風圧とGがとんでもないことになるな。このアイテムは高い空どころではなく、別の星に行こうとしてないか?まぁいい最終手段ということで持っていこう。
あとは・・・おおっ、これはいいんじゃないか。『真竜専用スナイパーゴーグル これでアナタも今日からゴルゴだ。ヒュー』あたり一面破壊するドラゴンブレスでスナイピングとはこれ如何にだが、なるべく対象の家以外を破壊する気はない。
それにこれで作戦は決まった、高々度からの精密射撃ドラゴンブレスだ。弓やボウガンのレンジ外から一方的に攻撃できるし、これならどんな強者がいたとしても無意味だ。ふふふ、人間どもめ、このオレ様が一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやろう!
そーだよ、最初からこうしておけば良かったんじゃないか。狭い洞窟と違って外の制空権は自分にあるんだから、敗北などありえない。
・・・なんか趣旨が違ってきているような・・・まぁいいか。
「我ながら惚れ惚れするほどの計画だ。あとは決行タイミングだが・・・」
タイミングについては遅らす必要はないだろう。準備が出来次第、即実行でいいと思う。
しかし黒板に状況をまとめるとわかりやすくていい。今回の計画を実行すれば、真竜のルークは討伐対象になるだろう。だが人間のルークはそのまま活動可能だ。そして人間のルークでいる限り、真竜は絶対見つからない。
いい感じだ、なんか完全犯罪っぽいぞ。あとは住処を特定されないためにも、草原に出てから変化を解除して実行だ。なんかテンション上がってきたー!
「人間どもよ、クビを洗って待っているがいい!」キリッ
ルークの性格は1人の時に限り強気になります。