幕間 冒険者たち
「散々だったし。骨折り損のくたびれ儲けもいいところだし」
ボウガン背負った女がぼやいた。それを聞いたランスを背負った重装備の男は疲れた顔で、やれやれまた始まったかと言いたげなジェスチャーを返す。
「冷静さを欠いたツケだな」
まさか最初に見つけて避けた落とし穴に嵌るとはな。しかも妙に凝った作りをしていて、壁は鏡面のようなタイルで掴まることも出来なかった。
底には川があったのだがこれがかなりの急流で、俺たちは為す術なく麓まで流されてしまったのだ。
あれから急いで戻ったが既に遅く、竜の姿はもうなかった。久々の大物情報だったのに。
「ローガンのせいだし、あんな擬態に騙されるからだし」
「いやいやお前も騙されてただろ、カチュア。俺だけのせいにすんなよ、なぁスレイン」
「確かにあの竜は大物すぎたというべきだろう。なぜなら体長20mほどある竜種は今では存在しないはずだ。ではあの竜はいったいなんだろうか?考察としては、既存の竜種の突然変異の可能性が挙げられる。だが私はこれを否定する。その理由はあの竜には知性があるように見えたからだ。死の擬態に連続技のような行動、さらにまだ戦えるだろうに全力逃走を選んだこと。死ぬまで本能のまま暴れ続ける他の竜とは一線を画す存在に思われる。故に私は提唱したい。あれは遥か遠い過去に滅びたとされる真竜かも知れないと。もしそうなら我々は歴史的大発見をしたということになる」
突然学者っぽいことを喋り始めた双剣の男をローガンとカチュアは「誰?お前?」と言いたげな目で見る。その視線を受けた男は顔を歪ませ笑う。
「フヒヒ」
「スレインかよ!一瞬、誰だ?と思ったわ!」
「いきなりまともになんなし!びっくりするし!」
俺も時々忘れそうになってるけど、スレインは本物の考古学者で各地の遺跡を調べている。その遺跡探索趣味が高じて冒険者になった経緯がある。ただ理屈っぽいと他の冒険者から嫌われやすいので、にやけ顔で演技しているのだ。だから学者っぽい方が本物のスレインなのだが・・・最早違和感しかねぇ。
「ただあの大物相手には戦力不足。フヒヒ」
「前衛2後衛1だからな。最低でもあと一人後衛が欲しいな」
「やっぱ魔法使いは要ると思うし」
そりゃそうだ、魔法使いは重要だ。俺らのパーティにも前はいたんだが、年のせいでギックリ腰になって引退した。今は塾を開いてるんだとか。そして、いなくなって初めて分かるありがたみというやつだ。
ただ、魔法使い自体数が少ない。冒険者としてやっていける魔法使いはさらに少ない。俺らが拠点にしているヴェルフルトの街は大陸有数の規模だが、魔法使いは50人~80人位しかいないだろう。
しかも実力のある奴らは軒並み国に仕えたり貴族に雇われているのだから、フリーでやっている魔法使いのレベルはお察しだ。なのに報酬の分け前は多く寄越せという奴が多くて困る。今回、魔法使いを雇わなかったのには、そういう事情がある。
「ヴェルフルトに戻ったら探してみっか」
「今回金銭的には大損害、フヒヒ」
そうだった。僻地の村までの移動費、戦闘や探索で使ったアイテム費、そして食費に宿代・・・大赤字だ。その上獲物には逃げられ、洞窟内にあったものはガラクタまるけ。本当に散々だ。
「・・・やっぱり、帰ったら楽で稼げる仕事がいいし」
カチュアは心底疲れたため息を吐く。無理もない・・・が次の仕事はもっと疲れるだろう。俺だってやりたくはないが、やらざるおえないのだ。あのドS受付のせいで。だから心を鬼にして2人に宣言する。
「次の仕事な、実はもう決まってるんだわ。・・・新人研修だ」
俺は報酬は雀の涙でとても面倒くさい仕事内容を告げた。スレインはいつもどうりの表情だが、カチュアはこの世の終わりみたいな顔をしてくれた。