チクショー、勘違いされた
住処を出て山を下っていくが、結構疲れる。人間に変化した代償なのだろう。
ただ目的地はもう見えた。山の下には草原が広がっており、直線の道が一本とその向こうに街が見えた。現在その街を目指している。
このペースで行けば日が落ちる前には着くと思う。やっと一本道まで来たが馬車が楽に2台すれ違えるほど大きく、地面も平たく整備されていた。
前方に街がはっきり見えてきた。高い城壁が街をぐるっと囲んでいる、いわゆる城塞都市だ。城壁のそばには川があり、街の外側には深い堀が作られている。これはなかなか風光明媚かもと期待してしまう。
街のそばまで来ると、道端に露天商がいた。オレは物珍しさに振り返ると店主らしきおっちゃんと目が合ってしまった。そしてすかさず声をかけられてしまった。
「よう、坊主。なんか入用か?」
声をかけられたものの、今のオレは金を換金しなければ一文無しだ。この商人は買い取ってくれるだろうか?多少安めでも構わないので一応聞いてみる。
「うん?何を買い取れって言うんだ」
「この金塊なんだけど」
ゴトリと置かれた金塊の大きさにおっちゃんの顔が険しくなる。まさか犯罪じゃねーだろうなと言わんばかりの目だ。だがオレとしてもこの金塊の出処を探られるのはよくない。自分の身バレに繋がるかも知れないからだ。
どう言い訳しようか思案していたら、おっちゃんに変化が起きた。突然『はっ!わかったぞ!』みたいな顔をしている。オレはおっちゃんがエスパーじゃないことを祈るしかない。
(こんな金塊がある家なんて貴族に違いねぇ。ということはこの坊主は貴族の息子で、両親から愛されずとうとう家出して自力で生きようとここまで来たが、右も左も常識もわからねえんだ。
きっと親父は城勤めから愛人宅へ、母親は毎晩のごとくパーティ三昧。だから家を飛び出して精一杯反抗しているんだな、わかる、わかるぞ!!)
どうやら目の前のおっちゃんの頭の中では何がしかの妄想ドラマが上映されているようだ。突然涙ぐんでかわいそうなもの見る目にオレは動揺しそうになる。
「・・・コッチが出せる金額は金貨40枚で限度だ、どうだ?」
「オレはそれで大丈夫だ、ありがとう」
「一応規則だから真贋判定はさせてもらうからな」
そういっておっちゃんはルーペを取り出す。ルーペなんかでどうするのかと思ったが、どうやらマジックアイテムのようだ。ルーペのレンズに文字が写っている。
「コイツは純度が高いな。金貨40枚じゃ足りないくらいだが生憎と手持ちがない。これをオマケに付けよう」
商人は巾着袋を一つ渡してきた。自分は金貨40枚で十分だった、何しろ金塊はオレのじゃないから。まぁ、せっかくなのでもらっておこう。で、この巾着袋が何か尋ねてみる。
「はは、やっぱり知らねえか。そいつは”収納袋”といって、冒険者の必須アイテムだ。冒険者でなくとも便利に使えるがな」
詳しく聞いてみると、この袋は魔法の収納空間があってアイテムを255個入れられるそうだ。255とはまたゲームでよくある数字だなぁと思うが、大収納には違いない。
ただ禁止事項として生き物は入れられないとのこと。袋の中は時が止まっているらしいので野菜や肉は保存が楽だが、生き物は心臓が止まって動かなくなるそうだ。
結果として血液が流れている生き物を入れようとするとストッパーが働いて入らない仕組みにされている。魔物退治に使えると思うが、それ以上に犯罪に使われるのを恐れているようだ。
しかし冒険者か・・・いいね冒険。せっかく外に出る決心をしたんだ、いろいろ見て回りたいと思うのが人情・・・いやドラゴン情だろう。
「冒険者になるにはどうすれば?難しいかな?」
「なるだけなら簡単さ。街の冒険者ギルドに行って登録するだけ。稼げるかどうかは実力によるけどな」
(ああ、やっぱり冒険者の道を選んじまうのか。そして冒険者になったお前は現実を知り打ちひしがれるも、気のいい仲間たちに出会い成長するんだな。だがそんなお前に親友の死が・・・)
おっちゃんはまた目を潤ませ、目尻を擦る。・・・まだ続いてんのか、その妄想ドラマ。
「ありがとう、じゃあギルドで詳しく聞いてみるよ」
(そしてお前も一流の冒険者になり、心強い味方を得てとうとう親友の仇・黒騎士に挑むんだろうな。そして囚われた姫君が・・・)
「坊主。倒せよ、黒騎士!」
・・・ああ、おっちゃん。黒騎士って誰?オレは何も突っ込まず片手を振って、クールにその場を後にした。