チクショー、留守だった
オレはクロフトの住処にたどり着いた。クロフトはオレの友人で彼も同じ真竜である。
もう自分の住処に帰れないオレは新しい場所が見つかるまで友人宅を間借りしようと思っていた。・・・が、留守のようだ。
「入口崩れてるし、蔦もびっしり生えてる。これは相当帰ってないな」
そういえばサクッと世界を滅ぼしてくるわーとか言って出かけたのはクロフトだったか。今頃何処で何してるんだか。
まぁいいか。オレとアイツの仲だ、勝手に使わせてもらおう。オレは入口の瓦礫and蔦を排除し中に入る。
中までは崩れていないものの住処の荒れ様を見るに数百年は帰っていないだろう。最早ただの洞窟でしかない。
オレは構わず奥へ進んで荷物が置けそうな場所を探す。・・・が一歩踏み出したら、上から大量の槍が落下してきた。どうやら罠が発動したらしい。まぁこの程度はオレには効かないが。
そして奥へ進むうちに、刺付き鉄球・落とし穴・毒ガス・槍床・火を吹く壁・迫り来る壁・etc・・・アイツは一体何と戦っていたのだろうか?
クロフトもあの3バカみたいなヤツに襲われたのかもしれない。過剰とも言える罠の数々を見て、そう結論づける。・・・だが、奥の方にあったこの人間サイズの牢屋は何に使っていたのであろうか?
・・・とりあえず友人宅の詮索はやめて、最深部と思われる場所に入る。そこはオレでも飛び回れるほど大きな広間なっていて大きなソファーや家具が置いてある。
「広いな・・・いい生活スペースだ。おお、ゲームも置いてある・・・って、FFFの新作が2つも出ていたのか」
自分が大ファンだったゲームの新作があることに感謝する。ありがとう、友よ。どうやらここは住居兼宝物庫のようだ。いろんな宝物が部屋の一角に置いてあるので少々物色させてもらおう。
何しろ、これからここを間借りさせてもらうのだから生活に便利なアイテムは借りておきたい。もし勝手に使ったことを彼が怒るようなら、転移鏡を差し出せばいい。アレなら納得してもらえるはずだ。
えーなになに、真竜専用・ブレスに睡眠効果を追加。地味に使えそうだ・・・が、注意書きに使った本人も眠くなるので気を付けてくださいと書いてある。使えねーよ、コレ。
次、次。えー真竜専用ビキニアーマー!・・・ってどこの真竜に着せる気だ、アイツは。つーか見たいか、それ?
ロクなものがないな、ここは。もう半分ダメもとで探っていく。
「ん?人間変化の杖?なになに、『人間うぜー、でも戦争は情報集めないと。というアナタにオススメ この杖で人間に化けて諜報活動』・・・これは使えそうだ」
オレは妙案を閃いた。この杖があれば山奥の隠れ家に固執する必要がなくなるのではないだろうか。
そう、木の葉を隠すなら森の中。この杖で人間になって、人間の世界で暮らせばいいのだ。
それにここにいても新天地を見つけたとしても、あの3人みたいな人間が攻めてくる可能性はいつまでも付きまとう。
もう人間の攻撃に怯えて隠れ住む必要がないと思うと、ちょっと元気が出た。が、引きこもり生活はできないとなると、ちょっと凹む。
「殺されるよりは全然ましだな」
オレは思い切って変化の杖を使う。杖の先端に付いている赤い宝石が眩しい光を放つ。光は消え、オレはまぶたを開けて確認する。自分にとって爪楊枝程度だった杖が、自分の身長位になっている。
持ってきた転移鏡で自分の姿を確認する。うん、年の頃は15才前後だろうか。そして素っ裸だ、このまま街とか行ったら絶対変質者だな。
そう思い人間用の服を探すのだが、まぁあるわけないですよねー。どうしよう・・・そういえば、人間用の牢屋に布切れみたいなものがあったなと思い出す。
牢屋に見に行くといろいろ服が落ちていたが、ボロボロで着れそうになかった。ただ一つだけ無事なローブがあった。大きさは男物、おそらく魔法の品だと思われる。まぁ魔法でもかかっていない限り、他の服同様ボロボロのはずだ。
2.3度はためかせ着心地を確かめてみる、サイズ的にはは良さそうだ。ローブはオレの体をスッポリ覆ってくれるので、インナーや下着は後で調達すればいい。しかし、何故牢屋に置いてあるのか?持ち主はどうなったのか?謎は尽きないが必要なのでありがたく頂いておく。
「さて、あと準備するものは・・・お金か」
自分の住処で戦ったあの3人はオレをバラバラに刻んで売ると言っていた、いい値で売れると。さ・・寒気がしてきた。ただわかるのは人間の世界に貨幣経済があるということだ。
オレは当然人間のお金は持っていないし、クロフトも持っていないだろう。だが、人間は昔から金が好きだ。ある程度持って行ってお金に換えるとしよう、クロフトの宝・物・庫から。
他人の家をここまで好き勝手にしている自分がなんかイヤな奴に思えてきたが、生きるか死ぬかの瀬戸際だから仕方ないと思う事にする。うんうん。
そうして自分の頭くらいの大きさの金塊を見つける。このくらいなら当座の生活費にはなってくれるだろう。此処と人間の街を転移鏡で繋いでおけば金塊はいつでも補充出来るし・・・って流石にクロフトに悪い気がしてきたな。
宝物の持ち出しは極力避ける努力をしよう、と心に決める。・・・となると働かないとな、面倒だ。いや待てよ、真竜の力を持つオレなら人間の世界で大活躍できるのでは?
オレはこれから訪れるであろうバラ色ライフを妄想し、スキップで出かけようとする。持っていくものは人間変化の杖、金塊、転移手鏡だけとなる。人間変化の杖は真竜に戻る際に必須となるので持ち歩くことにする。
だが通路に出た途端、罠が発動する。今の自分の身長くらいの鉄球(刺は無いようだ)が転がってくる。
真竜の力を持つオレに罠なんて効くわけ無い。オレは軽く鉄球を跳ね除けようとする・・・が、逆に吹っ飛ばされた!
鉄球は所定の位置まで転がると自動で帰っていった。匠の技か魔法か分からんが。
「いってぇ~、どうなってんだ?来た時はあんな罠、痛くも痒くもなかったのに」
原因は間違いなく、人間変化の杖だろう。オレは杖の注意事項を細かくチェックする。すると『使用すると能力が人間並になります。元の能力はほぼ使えなくなりますのでご注意ください』・・・やっぱりな!
だがこれで新たな問題が発生した・・・此処から出れねぇー。クロフトの奴、侵入者用の罠をこれでもかと設置してやがる。来た時でも20個ぐらいの罠が発動したと思う。出る前に死ぬよ、コレ。
結局オレは引き籠もりがお似合いというわけだ・・・いやいやいや、なんかネガティブ思考になってしまった。ていうか真竜になって出ればいいだけだ、こんなの。・・・もしかして自分は心のどっかで引き篭りたいと思っているのかも。
現状の問題を把握したオレは早速変化を解除する。杖の赤い宝石が光って・・・あっ、しまった!オレはローブを脱ぐのを忘れている、このままでは破れて着れなくなる。自分の迂闊さを呪うがもう遅かった。
すでに自分は真竜になっていた。はぁ、服探しからスタートか。と、溜息をついたが自分の体を見るとローブがそのまま着れていた。
「魔法の品とは思っていたけど、こういう物なのか」
つまりこのローブは装備者に合わせてサイズが自動で変更される魔法がかけられているのだろう。真竜サイズまで対応するとは、匠こだわりすぎだよ、だがグッジョブ!
それじゃこのまま出口まで行ってから変化の杖使えばいいということだ。そしてまた同じ鉄球がぶつかってくるが、今度は吹き飛ばしてやった。ザマーミロ・・・って物相手に何言ってんだ、オレ。
そんな一人ツッコミを入れながら、人間の街を探しに出かけるのだった。
この話はモンハン2ndGをやっていた自分が執拗に銀竜を狩りまくっていたのを思い出し、銀竜はどんな気持ちだろうかと考えてしまったのが発端です。なのでモンハンの影響を受けてるなって思います、特にあの三人。因みにあの三人は再登場します。