チクショー、引越しだ
オレは侵入者を退けた。かなりの手練だったが力押ししか出来ないザコとは違うのだよ、ザコとは。
しかしだ、尻尾&プレス&ブレスの必殺コンボ、”アルティメット・エターナル・フォース・B”を耐え切るとは恐ろしいヤツラには違いない。
だがオレの明晰な頭脳と綿密な戦術が・・・いやいや・・・とりあえず勝ち誇っている場合じゃないな。ヤツラが戻ってくる前に・・・引越しだ!!
あの3人が魔法を使えないのは戦闘で確認済み。何しろ回復から強化までアイテムでやっていたからだ。だから飛行魔法の心配はない。
とはいえ、麓から住処まで常人であれば半日以上かかるだろうが、アイツラなら4.5時間で来そうだ。
まごまごしてる時間はない。取り急ぎ必要なものをまとめ始まる・・・が、たいして要る物がねぇ。半端ない時間、ニートしてたから物なんてほぼない。よかったやら悲しいやら。
「あ、これは持ってくか」
このアイテムは”転移鏡”といって大きな一枚鏡が本体で、3つある手鏡が子機だ。使い方はシンプルで本拠地に一枚鏡を置いて、任意の場所に手鏡を設置する。あとは鏡に付いているスイッチを押せば、鏡を置いた2点間を瞬時に移動できるスグレモノ。
たしか世界に一つしかなくて昔の価値基準で言うとトリプル鬼レアクラスだ。神様が土下座してでも欲しがるレベルだった。まぁ、昔過ぎる価値基準なので意味はないだろうが便利だし親父の形見なので持っていくことにする。
そう、オレの親父は1万年ほど前に亡くなっている。原因は人間の献上品(餅)を喉に詰まらせたからだ。親父は好物を大口で一気に食べる癖があった、ムチャしやがって。
もう昔の話だ、その悲しみは乗り越えたのだから。親父、オレはアンタに誓う。好物はちびちび食べると。
と、そんなことはどーでもいい。オレに使えるかどうか分からんが、この鏡は持っていく。
持っていく物自体たいしてないので、サッサと移動するとしよう。結局荷物は転移鏡と暇つぶし用のゲーム機ぐらいだ。
通路を歩きながら、ふと考える。そういえばオレの住処は出口がひとつしかない。つまり奥は行き止まりなのだ。あの時、出口側を塞がれでもしていたら完全に詰んでいたな。
「次の住処は構造とかもよく考えるべきだな」
そんなことを考えながら出口に立つ。あの3バカは流石にまだいないようだ・・・いや、いてもらっちゃ困るんだが。
どこへ行こうか思案する。なるべく高々度を飛んで発見されないようにせねばならないし、行ける所は・・・えーと。
「クロフトの住処に行ってみるか」
オレは古い友人のことを思い出す。荷物も少ないし、間借りくらいさせてもらえるだろう。
こうしてオレは住み慣れた洞窟を離れ、友のいる西の山脈へと向かった。
翼をはためかせ、一気に上昇する。発見防止と乱気流回避のため雲の上を飛んでいく。
そして上空の景色が昔と違うことにオレは気づく。街が無くなっているのだ。
昔は神様達が作った空中都市で「天国」とか「ヴァルハラ」とかあったんだけど、どこを見渡しても無い。引越しする神様はよくいたのでそういうことなのだろうと結論づける。
あ~あ、新作ゲームの予約が出来なくなってしまったのが残念でならない。あと天国にあった立ち食い蕎麦屋、もっと行っとけばよかった。
さて、そうこうしているうちにクロフトの住処の真上に到着した。というわけでなるべく発見されない降り方を考えねば。
「嵐を起こす。それに紛れて降りれば大丈夫だろう」
実は昔から雨や嵐を起こすのは得意だったりする。雨雲を集めやすい体質なのか能力なのか、意識すれば勝手に集まってくる。あとは飛び回って渦を巻けばミニ嵐の出来上がりだ。
オレは雨雲集まれと意識し、降りるための準備を開始するのだった。