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頭の中を幼なじみの姿が過る。
僕のレベルでダンジョンに入るのは無謀だと、僕を止めてきた。
僕はそれを無視してダンジョンに来たけど、幼なじみの言う通りだった。
僕は愚かだ。
幼なじみの言うことを聞くべきだったと、今さら後悔しても、もう遅い。
僕はここで死ぬ。
一歩前に出ていた一匹の緑狼が、短く吠える。
すると、他の緑狼が姿勢を低くして、臨戦体勢に入った。
そして、短く吠えた緑狼が、もう一度、吠えると、他の緑狼が一斉に襲いかかってきた。
「うわあああ!」
これから襲い来る緑狼の牙や爪による激痛の恐怖に、僕はギュッと目をつぶり、腕で頭をかばった。
しかし、次に起こったのは激しい痛みではなく、何かがぶつかる硬質な音と、キャンキャンという緑狼の弱々しい鳴き声だった。
何だ?
僕は何が起こったのか確認すべく、腕をおろしてそっと目を開ける。
人の……足……?
目に入ったのは、茶色のズボンを履いた足だった。 ズボンの外側にはアイテムを入れるケースが、いくつもベルトで固定されている。
その足をたどって顔を上げると、燃えるような赤い短髪に、たくましい大きな背中があった。
僕と緑狼との間に、人が立っていた。
「待たせたな! 少年!」
その声と赤い髪に覚えがあった。
あの筒状のアイテムをくれた……。
「変なお兄さん……」
「おいおい。変なお兄さんはないだろ……」
「あ! ごめんなさい!」
思わず口からこぼれ出た言葉を謝って、僕は慌てて口を手で押さえる。
「話はこいつらを蹴散らしてからだな」
そう言って、変なお兄さんもとい、ダンジョン救難団のお兄さんは剣を振り回し、緑狼をあっという間にやっつけてしまった。
数分前まで僕を殺そうとしていた緑狼の死骸が、そこら辺中に転がっている。
「大丈夫か?」
腰にさげている鞘に剣をしまいながら、ダンジョン救難団のお兄さんは僕に声をかけてきた。
「大きなケガはないか?」
「は、はい。大丈夫です」
「立てるか?」
「はい」
僕は立ち上がろうと腰を浮かしかけたけど、思っていたよりも力が入らなくて、へにょりとまた座りこんでしまった。
「無理そうだな」
「すみません……」
な、情けない……。
確かに足は疲れでガクガクだったけれど、足に力が入らないこの感じは、腰を抜かしてしまったみたいだ。
「これから君を背負ってダンジョンを抜ける」
「え?」
僕はダンジョン救難団のお兄さんの言葉に驚く。
モンスターがうようよいるダンジョンの中を、僕を背負いなから抜けるなんてむちゃだ。
「そ、それは……」
それはさすがに無理なのではないかと言おうとしたけど、ダンジョン救難団のお兄さんは僕をひょいと背中にのせ、いつの間に取り出したのかロープでがっちりと背中にくくりつけられてしまった。